【百合短編小説】星降る教室で ―完璧な心に灯るきみ―(約7,700字)

藍埜佑(あいのたすく)

【百合短編小説】星降る教室で ―完璧な心に灯るきみ―(約7,700字)

## 第1章 すれ違う光


 教室に差し込む四月の陽光が、机の上で開かれた問題集の白いページを眩しく照らしていた。


「清華院さん、今日も早いのね」


 朝の職員室から教室に戻ってきた担任の渡辺先生が、窓際の席で問題を解いていた生徒に声をかけた。


「おはようございます、渡辺先生」


 清華院綺羅星は丁寧にお辞儀をして答えた。


 まだ七時半。始業まで一時間以上あるこの時間、教室にいるのは彼女だけだった。長い黒髪を背中で一つに束ね、制服の襟元までピシッと決まった姿は、まさに優等生そのものだった。


 渡辺先生は満足げに頷くと、「では、職員会議があるので失礼するわね」と言って教室を出て行った。


 綺羅星は再び問題集に目を落とした。微分方程式を解く手が、一瞬だけ止まる。


「……完璧でなくては」


 囁くような独り言が、誰もいない教室に溶けていく。


 青葉女学院高等学校。都内有数の進学校として知られるこの学校で、綺羅星は一年生から常に首席の座を守り続けてきた。両親も、祖父母も、親戚一同も、彼女の成績を誇りにしている。だからこそ、その期待に応え続けなければならない。


 時計の針が八時を指す頃、教室は次第に生徒たちで賑わいはじめた。


「おはよう、きらぼしん!」


 明るい声と共に、後ろから肩を抱きしめられた。


「みどり、おはよう。相変わらず元気ね」


 幼なじみの森川美緑は、綺羅星と正反対の性格だった。明るく社交的で、誰とでもすぐに打ち解けられる。その性格のおかげで、綺羅星も周りの生徒たちと自然に交流できていた。


「ねえねえ、聞いた? うちのクラスに転校生が来るんだって!」


 美緑が小声で耳打ちした。


「転校生? この時期に?」


「そうなの。しかも、アメリカから来る子なんですって」


 綺羅星は眉を少し持ち上げた。青葉女学院は厳しい受験で知られる進学校だ。年度途中の転入など極めて珍しい。


 チャイムが鳴り、担任の渡辺先生が教室に入ってきた。


「はい、着席しなさい。今日は皆さんに報告があります」


 教室が静まり返る。


「このクラスに、新しい仲間が加わることになりました」


 そう言って、渡辺先生はドアの方に目を向けた。


「どうぞ、入ってきなさい」


 教室の扉が開き、一人の少女が入ってきた。


 長い髪は、夕暮れ時の空のような淡い金色。すらりとした背丈に、どこか凛とした雰囲気を漂わせている。黒い制服姿が、不思議なほど様になっていた。


 黒板に向かって名前を書く。流れるような美しい文字で「天ノ川流星」と記される。


「天ノ川流星です。アメリカのボストンから来ました。よろしくお願いします」


 流暢な日本語だった。声も、どこか夜空のように澄んでいる。


 教室が小さなざわめきに包まれる。


「天ノ川さんは日本人のご両親の元で育ち、小学校までは日本で過ごしていました。お父様の仕事の都合でアメリカに移住されていたそうです」


 渡辺先生の説明に、生徒たちは納得したように頷いた。


「では、空いている席は……そうね、清華院さんの隣の席に座りなさい」


 綺羅星の隣。それは、この春まで入院していた生徒の席だった。


 天ノ川流星は、軽やかな足取りで指定された席に向かった。座る際、綺羅星と視線が交わる。


 その瞬間、綺羅星は息を呑んだ。


 透明感のある碧い瞳。そこには、どこか深い孤独が潜んでいるように見えた。


「よろしくね、清華院さん」


 流星がそっと微笑みかける。


「……よろしく」


 綺羅星は小さく頷いた。だが、すぐに視線を教科書に落とす。感情に流されてはいけない。今は勉強に集中しなければ。


 しかし、その日一日、綺羅星は時折、隣の席からこぼれる吐息や、ページをめくる音に、必要以上に意識を奪われていた。


 それは、静かな教室の中で、確かに輝きを放つ、小さな星の存在のように。


## 第2章 交差する軌道


 放課後の図書室。夕暮れ時の柔らかな光が、本棚の間を縫うように差し込んでいた。


 綺羅星は古典の参考書に目を落としている。だが、いつもなら自然と頭に入ってくる漢文の句法が、今日は妙にすんなりと理解できない。


(どうして、あの人はここにいるの?)


 斜め前の席。天ノ川流星は洋書を読んでいた。転校してきて一週間。クラスメイトたちの好奇の目にも慣れ、徐々に学校生活にも馴染んできているように見える。


 だが、休み時間になると決まって一人で読書をし、放課後もこうして図書室で過ごすことが多かった。


「あの、清華院さん?」


 突然の声に、綺羅星は肩を少し震わせた。


 いつの間にか流星が目の前に立っていた。


「天ノ川さん……何か用?」


「その漢文の問題、私も昨日解いていたんです。でも、ここの部分がよく分からなくて」


 流星は自分の椅子を綺羅星の横に寄せ、参考書の一節を指さした。


「一緒に考えてもらえないかな?」


 その眼差しには、純粋な学びへの意欲が宿っていた。綺羅星は一瞬躊躇したものの、小さく頷く。


「分かったわ。ここは再読文なんだけど……」


 説明を始めた綺羅星の言葉に、流星は真剣な面持ちで聞き入った。時折質問を投げかけ、時に自分なりの解釈を述べる。その受け答えは的確で、決して理解が足りないわけではないことが分かった。


 むしろ、日本の古典を学ぶことを純粋に楽しんでいるように見えた。


「なるほど! そういう解釈だったんですね。清華院さん、本当に詳しいんだね」


 流星が嬉しそうに微笑む。その表情は、まるで星空のように輝いていた。


「……当たり前よ。私は、完璧でいなければならないから」


 思わず口にした言葉に、流星の表情が僅かに曇る。


「完璧? どうして?」


 その問いは、綺羅星の心に真っ直ぐに突き刺さった。


「そんなの……当然でしょう。期待に応えるためには、完璧でなければ」


「でも、完璧な人なんていないと思うな」


 流星はポツリと呟いた。


「私だって、アメリカでずっと努力したけど、いつも何かが足りなかった。でも、それは悪いことじゃないって、最近やっと分かってきたんです」


 綺羅星は言葉に詰まった。努力が足りないなんて、認めるわけにはいかない。でも、流星の言葉には、どこか心に響く真実味があった。


「あ、もうこんな時間!」


 図書室の閉館時間を告げるチャイムが鳴る。


「また明日、一緒に勉強してもいい?」


 立ち上がりながら、流星が尋ねた。


「……別に、構わないわ」


 そっぽを向きながらの返事に、流星は嬉しそうに頷いた。


 それから数日が過ぎ、図書室での二人の勉強会は自然と日課となっていった。


 最初は漢文だけだったのが、そのうち現代文の評論や、英語の長文読解にも及ぶようになる。流星の英語力は抜群で、時には綺羅星が教わることもあった。


 そんなある日、綺羅星は気づいた。図書室で過ごす時間が、少しずつ楽しみになってきている自分に。


(これでいいの? 私は、誰かと親しくなんて……)


 その夜、綺羅星は久しぶりに落ち着かない気持ちで眠りについた。


 翌朝。いつもより早く登校した綺羅星が教室のドアを開けると、意外な光景が目に入った。


 天ノ川流星が、すでに席についていたのだ。


「あ、清華院さん。おはよう」


 流星は少し照れたような表情を浮かべる。


「どうして、こんな早く?」


「えっと、実は英語の課題で分からないところがあって……清華院さんって、いつも早く来てるって聞いたから」


 言いながら、流星は自分の机の上の英語のワークブックを指さした。


 綺羅星は、どう反応していいか分からなかった。今までこの時間は、自分だけのものだった。誰にも邪魔されない、完璧な学習の時間。


 でも。


「分かったわ。じゃあ、一緒に解いてみましょう」


 自分でも意外なほど自然に、その言葉が口から出た。


 流星の顔が明るく輝く。


 それからというもの、二人で早朝の教室で勉強をすることが日課になった。他の生徒たちが登校してくる前の静かな時間。そこには不思議と心地よい空気が流れていた。


 ある朝のこと。


「ねえ、清華院さん。どうして、そんなに頑張るの?」


 突然の問いに、綺羡星は問題集から顔を上げた。


「それは……当然でしょう。良い大学に行って、良い就職をして……」


「違うと思う」


 流星が静かに首を振る。


「清華院さんが求めているのは、そういうことじゃないような気がするんです」


 綺羡星は答えられなかった。


 自分が本当に求めているもの。それは何なのだろう。今まで、そんなことを考えたことはなかった。ただ、周りの期待に応えることだけを考えて生きてきた。


「私ね、アメリカにいた時、すごく孤独だったんです」


 流星が窓の外を見つめながら話し始めた。


「英語は上手く話せるようになって、成績も悪くなかった。でも、どこか空っぽな気持ちがずっとあって」


 綺羡星は黙って聞いていた。


「でも、ここに来て、清華院さんと話すようになって、少しずつ分かってきたんです。人との繋がりって、こんなに温かいんだって」


 流星がそっと綺羡星の方を見る。


「清華院さんも、もっと自由になっていいと思う。完璧じゃなくても、それでいいんだよ」


 その言葉が、綺羡星の心の奥深くに響いた。


(自由に……なっていい?)


 今まで誰にも言われたことのない、その言葉が、固く閉ざしていた何かを少しずつ溶かしていくような気がした。


 チャイムが鳴り、他の生徒たちが教室に入ってき始める。


 でも、その朝の会話は、綺羡星の心に深く刻まれることになった。


 それは、静かな変化の始まりだった。


## 第3章 明滅する想い


 五月の風が、校庭の若葉を揺らしていた。


 中間テストまであと二週間。放課後の図書室は、いつもより多くの生徒で賑わっていた。


「清華院さん、このプリント、一緒にやってみない?」


 流星が数学の問題プリントを手にしながら、綺羅星の机に近づいてきた。


「ごめんなさい。今日は、ちょっと……」


 綺羅星は言葉を濁した。その手元には、塾からの招待状が置かれていた。


『特別講習 選抜クラス』


 綺羅星は迷っていた。今までなら迷うことなく参加を決めていたはずだ。でも、今は違う。図書室で流星と過ごす時間が、どこか愛おしく感じられるようになっていた。


「あ、塾の案内?」


 流星が覗き込む。


「ええ。でも……」


「行きたくないの?」


 流星の問いに、綺羡星は言葉につまる。行きたくない。正直にそう言えば良いのに。でも。


「行かなきゃいけないの。期待に応えるために」


 その瞬間、流星が綺羡星の手を優しく握った。


「清華院さんの、本当の気持ちは?」


 温かい手のぬくもりと、まっすぐな眼差し。


 綺羡星の目に、涙が浮かんだ。


「私……本当は、流星と一緒に勉強していたい」


 初めて、流星の名前を呼んだ。


「でも、それじゃダメなの。私は、完璧で……」


「きらぼし」


 流星も、綺羡星の名を呼んだ。


「きらぼしは、このままでも十分素敵だよ。いつも一生懸命で、優しくて。完璧じゃなくても、私はきらぼしが大好き」


 その言葉に、綺羡星の心の堰が決壊した。


 気がつけば、流星の制服の肩に顔を埋めて泣いていた。長年封印してきた感情が、一気に溢れ出す。


 誰にも見せたことのない弱さを、初めて曝け出した。


 流星は黙って、綺羡星の背中をさすり続けた。


 そのあと、二人は夕暮れの校庭を歩いていた。


「ごめんなさい。制服、濡らしちゃって」


「気にしないで。むしろ嬉しかった。きらぼしが、私に心を開いてくれて」


 流星が柔らかく微笑む。


「きらぼしってね、星のように見えるの。遠くで一人で輝いているように」


 夕空を見上げながら、流星が続けた。


「でも星だって、本当は群れを成して輝いているんだよ。一人じゃない。私たちも、そうじゃないかな」


 綺羡星は空を見上げた。まだ星は見えない。でも、確かにそこにある。


「私ね、アメリカにいた時、夜空を見上げるのが好きだった。故郷を想って」


 流星の声が、風に乗って流れる。


「そうしたら、星たちが語りかけてくるような気がしたの。大丈夫、一人じゃないよって」


 綺羡星は、流星の横顔を見つめた。


(私も、一人じゃない)


 その夜、綺羡星は塾の特別講習を辞退する連絡をした。


 自分の意志で、初めて決めたこと。


 それは小さな一歩だったかもしれない。でも、確かな一歩だった。


## 第4章 降り注ぐ真実


 中間テスト一週間前。


 朝の教室で、綺羡星は机に突っ伏していた。


「きらぼし? どうしたの?」


 流星が心配そうに声をかける。


「ちょっと、熱があって……」


 顔を上げた綺羡星の頬は、上気していた。


「無理して来ちゃダメだよ。保健室に行こう」


 そう言って、流星は綺羡星の肩に手を回した。


「でも、テスト前だから……」


「だからって体調を崩しちゃ、元も子もないでしょう?」


 やさしく諭すような声に、綺羡星は抵抗する力を失った。


 保健室のベッドに横たわり、綺羡星は天井を見つめていた。


「私が付き添ってるから、ゆっくり休んで」


 流星が椅子に座り、そっと綺羡星の手を握る。


「ごめんね。授業、休まなきゃいけなくて」


「そんなこと気にしないで。それより……」


 流星は少し躊躇うように言葉を選んだ。


「きらぼし、最近無理してない? 塾を辞めてから、図書室で遅くまで勉強してるの、知ってるよ」


 綺羡星は目を閉じた。


 確かに、塾を辞めた分を取り戻そうと、一人で遅くまで勉強していた。完璧でなければ。その思いは、まだ完全には消えていない。


「私、まだ……うまく、できないの」


 熱のせいか、素直な言葉が溢れ出す。


「周りの期待に応えなきゃいけないって思う気持ちと、自分の気持ちに正直になりたいって思う気持ちと……どっちも大事なの。でも、どうすればいいか分からなくて」


 流星は黙って聞いていた。


「私、流星と一緒にいると、心が温かくなるの。でも、それと同時に怖くもなる。今までの自分が、少しずつ崩れていくような」


 綺羡星の目から、熱い涙が零れた。


「このまま、全部壊れちゃうんじゃないかって」


 流星は、そっと綺羡星の涙を拭った。


「大丈夫だよ。壊れないから」


 その声は、夜空のように静かで、深かった。


「むしろ、今のきらぼしは、少しずつ本当の自分を見つけ始めているんだと思う」


「本当の……自分?」


「うん。完璧な優等生の仮面の下にいた、本当のきらぼし。優しくて、繊細で、時には迷って、でも一生懸命に前を向こうとする。そんなきらぼしが、少しずつ姿を見せ始めているの」


 流星の言葉が、綺羡星の心に染み入る。


「私はね、そんなきらぼしのことを、もっともっと知りたいと思ってる。だから、一緒に探していこう? 焦らなくていいの。ゆっくりでいいから」


 保健室の窓から差し込む陽の光が、二人を優しく包み込んでいた。


「流星……ありがとう」


 綺羡星は、久しぶりに安心して眠りについた。


 目覚めたとき、もう放課後になっていた。


 枕元には、流星の手書きのノートが置かれていた。今日の授業の内容が、きれいにまとめられている。


(一緒に、探していこう)


 綺羡星は、胸に温かいものが広がるのを感じていた。


## 第5章 永遠の輝き


 中間テストが終わった。


 結果は、綺羡星がクラス一位、流星が二位。


 でも、綺羡星にとって、その順位は以前ほど重要ではなくなっていた。


 テスト最終日の放課後、二人は屋上にいた。


「きらぼし、これ」


 流星が一冊のノートを差し出した。


「これは?」


「私の日記。アメリカにいた時から、ずっとつけてたの」


 綺羡星が恐る恐るページを開く。


 流暢な日本語で綴られた日記の中に、自分の名前を見つけた。


『今日、清華院さんと初めて図書室で勉強した。彼女は、どこか私に似ている。輝いているのに、孤独そうで』


『清華院さん……きらぼしが、少しずつ心を開いてくれる。私も、彼女に本当の自分を見せられる気がする』


『きらぼしが泣いた。強がっていた心が、少しずつ溶けていく。私も、もっと素直になれそう』


 ページをめくるごとに、流星の想いが綴られていた。


 そして、最新のページ。


『私は、きらぼしを愛している。

 完璧な優等生としてじゃない。

 ありのままの、かけがえのない存在として』


 綺羡星の手が震えた。


「流星、これ……」


「うん。私の本当の気持ち」


 流星が、綺羡星の手を取る。


「きらぼしは、もう完璧である必要なんてない。今のままで、十分に愛おしい」


 夕暮れの空が、赤く染まっていく。


 やがて、最初の星が瞬きはじめた。


「ねえ、流星」


「うん?」


「私も、流星のことを……愛してる」


 その言葉は、これまでで最も自分らしい言葉だった。


 期待に応えるため、誰かの基準に合わせるためではない。


 ただ、心からそう思うから。


 二人は肩を寄せ合って、夜空を見上げた。


 星々は、まるで二人を祝福するように、優しく瞬いていた。


 そして綺羡星は知っていた。

 これが、本当の幸せなのだと。


(終わり)


---


# 天ノ川流星の日記


## 4月8日

今日から青葉女学院の生徒になった。

ボストンを離れる時は不安だったけれど、懐かしい日本の匂いに少し安心する。

でも、クラスメイトたちの好奇の目が、少し怖かった。

隣の席の清華院さんは、なんだかとても凛として見えた。氷の彫刻みたい。でも、その瞳の奥に、私と同じような何かを感じた。


## 4月12日

図書室で清華院さんを見つけた。

いつも一人で勉強している。私も一人が好きだから、その気持ちが分かる。

今日、思い切って声をかけてみた。漢文の質問をきっかけに。

彼女の説明は正確で丁寧。でも、どこか機械的というか……自分を縛っているような印象を受けた。


## 4月15日

今日も清華院さんと図書室で勉強した。

彼女は、どこか私に似ている。輝いているのに、孤独そうで。

「完璧でなくては」って呟いていた言葉が、胸に刺さった。

私もアメリカでそうだった。でも、それは違うと今は分かっている。

清華院さんにも、いつか分かってほしい。


## 4月22日

朝早く学校に来てみた。

やっぱり清華院さんはもう教室にいた。

一緒に勉強していると、彼女の表情が少しずつ柔らかくなっていく気がする。

きっと誰も見たことがない表情。それを見られることが、密かな幸せ。


## 4月30日

清華院さん……きらぼしが、少しずつ心を開いてくれる。

私も、彼女に本当の自分を見せられる気がする。

今日は「流星」って呼んでくれた。その瞬間、胸が温かくなった。

この気持ち、まだ名前をつけられないけど、確かに大切なもの。


## 5月7日

きらぼしが泣いた。

強がっていた心が、少しずつ溶けていく。私も、もっと素直になれそう。

制服の肩が涙で濡れたけど、それが嬉しかった。

初めて見せてくれた、彼女の弱さ。それは、信頼の証だから。


## 5月15日

きらぼしが熱を出した。

無理をしているのは分かっていた。でも、それも彼女らしい。

保健室で眠る彼女の寝顔を見ていると、胸が締め付けられる。

守りたい。でも、縛るのではなく、そっと支えていきたい。


## 5月20日(テスト最終日)

今日、やっと気づいた。

いや、ずっと前から分かっていたのかもしれない。


私は、きらぼしを愛している。

完璧な優等生としてじゃない。

ありのままの、かけがえのない存在として。


彼女の迷い、弱さ、優しさ、強さ。

全てが愛おしい。


この想いを、今日は伝えてみよう。

星空の下で。

私たちの物語の、新しい始まりとして。


## 5月21日

伝えられた。そして、きらぼしも同じ気持ちだった。

これが本当の幸せなんだね。

完璧を求めなくても、ありのままで愛し合える。

これからも、一緒に星を見上げていこう。

きらぼしとなら、どんな未来も輝いて見える。


(ここで日記は終わっている。最後のページには、押し花の栞が挟まれていた)


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

【百合短編小説】星降る教室で ―完璧な心に灯るきみ―(約7,700字) 藍埜佑(あいのたすく) @shirosagi_kurousagi

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

参加中のコンテスト・自主企画