満点の代償

ソコニ

第1話 満点の代償


その試験は、「人生逆算テスト」と呼ばれていた。


受験者の未来を予測し、その人物が何歳で何を達成するのか、どんな人生を送るのかを100点満点で採点するという、前代未聞の試験である。


私の受験番号は777番。幸運を告げる数字とされていたが、この試験に運は関係ないはずだ。


「では、試験を開始します」


白衣の試験官が、私の目の前に一枚の白紙を置いた。


「あなたの未来を思い浮かべてください。紙に何も書く必要はありません。私たちの最新技術が、あなたの脳内をスキャンし、採点します」


私は目を閉じ、自分の理想の未来を思い描いた。ノーベル賞の受賞、世界平和への貢献、長寿で幸せな家庭——できる限り素晴らしい未来像を念じる。


「スキャン完了です」


目を開けると、白紙に赤字で「100点」の文字が浮かび上がっていた。


「おめでとうございます。満点です。あなたは人類史上最高の人生を送ることになります」


私は有頂天になった。しかし、試験官の次の言葉で血の気が引いた。


「ただし、これは予測された未来です。つまり、あなたの人生は、これ以上でも以下でもない、完璧に予測された通りの軌道を進むことになります」


「それは...つまり?」


「あなたの人生から、全ての偶然と予想外の出来事が消えます。恋も、発見も、驚きも、全てが予定調和の中で進行します」


私は愕然とした。それは果たして、本当に理想の人生と言えるのだろうか。


「点数の修正を希望される場合は、今なら可能です。例えば、60点なら、人生の4割は予測不能な要素が入ります」


私は迷った。確実な成功と幸せ。しかし、それは脚本通りに進む人生劇のようなものだ。


「決断の時間です」


私は深く息を吸い、答えた。


「0点を希望します」


試験官は目を丸くした。


「理由を聞いてもよろしいですか?」


「完璧な人生より、完全な不確実性の方が、きっと面白いと思うんです」


試験官は沈黙の後、突然笑い出した。


「実は、これが本当の試験でした。人生の予測不可能性を受け入れる覚悟を測る試験です」


私も笑った。まさか、こんな展開になるとは。


「ただし、これも予定通りの展開です」


試験官が告げる。


「えっ?」


「冗談です」


「本当ですか?」


「それは、あなたの人生の中で見つけてください」


試験官は去り際に、不思議な笑みを浮かべた。


私の人生がどうなるのか、今でも分からない。ただ、それが正解なのかもしれないと思う今日この頃である。


(終)

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

満点の代償 ソコニ @mi33x

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

参加中のコンテスト・自主企画