最終試験

ソコニ

第1話  最終試験



国家統一試験の日、会場に集まった受験者たちの表情は硬かった。


今年から導入された新制度では、試験の成績によって人生の全てが決まるという。職業、収入、結婚相手、寿命まで——あらゆる要素が点数によって厳密に振り分けられる。


私の受験番号は13番。昔なら縁起の悪い数字と言われただろうが、今はそんな迷信を信じる余裕すら残されていない。


試験官が青白い顔で入室してきた。


「では、第一問です」


スクリーンに問題が映し出される。


『あなたは砂漠で遭難しました。目の前に三つの選択肢があります。

A:水の入った水筒

B:携帯電話

C:コンパス

命を守るために、最適な選択をしなさい』


簡単すぎる問題に、受験者たちはざわめいた。当然、正解はAの水筒だ。砂漠で最も重要なのは水分補給——。


だが、私は違和感を覚えた。この問題、どこかがおかしい。


「制限時間は残り30秒です」


焦る受験者たち。次々とAを選んでいく。私は迷った末、Bを選択した。


「制限時間終了。では、正解を発表します」


そこで衝撃の事実が明かされた。


「正解は『問題文を疑う』でした」


会場が凍りつく。


「実は、この問題自体が嘘です。あなたたちは砂漠にはいません。これは、与えられた情報を鵜呑みにせず、批判的に考える力を測る試験だったのです」


茫然とする受験者たち。だが、衝撃はそれだけではなかった。


「実は、この説明も嘘です」


試験官が不敵な笑みを浮かべる。


「本当の試験は、『嘘を見抜く力』ではなく、『嘘に振り回される度合い』を測定することでした」


さらなる衝撃が走る。


「ですが、これも嘘です」


試験官の表情が歪む。


「実際は...」


そこで試験官は突然、机に突っ伏して動かなくなった。


救急隊が駆けつけ、検査の結果、彼の脳には奇妙な腫瘍が見つかった。腫瘍は「嘘」という文字の形をしていたという。


後日、この試験は無効となった。


だが不思議なことに、この日を境に、国民の「嘘を見抜く力」は著しく向上したという。統計によれば、詐欺被害は激減し、政治家の支持率の変動は極端になり、結婚詐欺は過去最低を記録した。


そして私は今、試験官として、新たな問題を作っている。


「第一問:以上の話は本当でしょうか?」


(終)

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