凄腕ゆすり師が中学受験塾の講師に転身する話

DJになりたいなア

第1話

今日も空が泣きじゃくっている。

殺伐としたビル街の路地裏にさっき手を振ったはずの仲間が腹部から血を流し倒れている。

瞳孔が開ききった目に雨水が入り、流れ出していく。

邦彦が流した涙は無かったかのように水溜まりに消えていった。








───Three days ago───

高級中華料理店の個室。

先程まで湯気を立てていた料理たちはもう既に冷え切り、油が固まっていた。


「あなたの奥様から不倫の調査をして欲しいと言われておりまして…これら、私共が入手した証拠写真なのですが…」


茶封筒から数枚の写真を取り出す。

そこには大手企業社長と秘書がネットカフェに入っていく様子が映されていた。


「これ、300万円でお売りしますが…どうします?勿論、あなたの奥様には、不倫の証拠は無かった、とご報告致しますが…」


大手企業社長の手が震える。

青ざめた顔をしながら、口を開いた。


「いや、これはゆすりだろう…。ゆすりは完全な犯罪行為だ。買う訳には行かない…」


「あぁ、そうですか…では、あなたの奥様のお写真もご用意させて頂いているのですが…。あぁ、気づいていらっしゃっていませんでしたか?」


「は?何言ってる」


「あなたの奥様も不倫されているんですよ!」


「そんな訳!証拠を見せろ」


「えぇ、いいですよ…」


社長に渡した写真はフェイクだ。しかし上手くできている。気づくことはない。


「そんなバカな…」


写真を持つ社長の手が震える。


「いやぁ、私もこの事実が無ければあなたに写真を売ろうなんて思いませんでした…。ここ、見てください。高級ブランドのバック。奥様はあなたが努力した金でブランド品を買い、不倫相手と遊んでいた…!」


「そんな、そんな…」


「私も正直なところ…奥様を許せない…!自らの失態を棚に上げ、人の失態ばかりを晒そうだなんて…!同じ男として許せない訳ですよ…」


「クソ…クソ!」


すると、後ろに立っていた仲間の三沢がタバコに火をつける。これも演技。もともとから仕組んでいた。予定通り俺は声を荒らげる。


「オイオイオイ!お客様の前で煙草吹かそうなんざ…!」


履いていた革靴で三沢の脛を軽く蹴る。

三沢は上手く倒れてくれた。

それを、見ていた社長は、震えた声でこういった。


「わかった!買う!だから…この話はこれで終わりにしてくれ!」


俺と三沢は社長に見えぬよう、微笑んだ───。
















そんな三沢が死んだ。



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