卒業

壱原 一

 

わっと地上で喚声が立つ。


びくっとして、夜になりしなの窓外を見る。


室内は敷地外の車道の道路照明が差し込んで薄明るい。


地上では、車道からの光に薄く引き伸ばされた長い人影が6、7人分入り乱れている。


内の1人が先程の喚声を引き継いで、「ばっかお前、幾ら寝てないからってさぁ」と、何やら合いの手を入れながら、車道の先、寮のある方へ、軽快に連れ立って行った。


机上前方に押しやっていたノートパソコンをスリープから復帰させ、容赦ない画面の光量に目を細める。


少しだけ休むつもりが、夜になっていて溜め息が出る。


もうあまり日数がない。


卒業論文を書き終えねばならない。


思った途端ドアが開いて、「お疲れぇ」と先輩が入って来た。追って真っ白い照明が点る。


「あんま根つめ過ぎんなよぉ」と渡されたお茶を礼と共に受け取り、この先輩就活浪人だっけ卒論留年だっけと身につまされながら思いやる。


無難な雑談交じりにお互いお茶を飲み始め、「皆あっち行ったけど行かんの」と先輩が寮の方を指す。


今日なにかそっちであったっけと思うなり白光が閃いて、いやこの先輩卒論余裕でOBOG訪問がんがん行って就活早々に終わらせたんじゃなかったかと思い出す。


あれそうじゃなくて訪問後調子崩して留年した?


ああそれでいつの間にかボランティアか何かの団体入って退学してたんだった。


暫くして流れて来た写真みたら色白黒髪眼鏡の真面目そうな人だったのにどっか外国で髪ちりちりで肌も焼けてかなり攻めた外見になってて口から覗く歯がすかすかで痩せて目の輝きが尋常じゃなくて何か良く分かんないけど今まで勤勉だったぶん学生時代の終了間際に箍が外れちゃったんじゃないのって恐れられてた。


レポートで夜この部屋に残ってた時お茶をくれた先輩。


皆うっすら分かってる感じなのに誰も何も触れなくて不気味だった。


でもそれ1年の時じゃなかった?


そうだ先輩3こ上だよね?


帰国して卒業式の夜に寮から落ちちゃったんだよね?


*


お茶から口を離して先輩を見ようとした時、わっと地上で喚声が立って、びくっとして、夜になりしなの窓外を見る。


地上では、車道からの光に薄く引き伸ばされた長い人影が6、7人分入り乱れている。


ばっかお前、幾ら寝てないからってさぁ。


夢現に聞いた合いの手をまた聞いて、我知らず深い溜め息を吐く。


卒論は無事に終えた。


今日無事に卒業した。


冷めたお茶を持って、薄明るい部屋を出る。


春から社会人になる。



終.

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

卒業 壱原 一 @Hajime1HARA

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

同じコレクションの次の小説