第1話:傲慢の行進

 12月の東京都、その七つの箇所で煙と悲鳴が上がり、道路は逃げ帰る者たちに溢れ、地下鉄や建物内は混雑した。

 なぜなら、東京都各地で七つの悪の組織ヴィランドが混乱と暴走を振り翳しているからだ。

 S.H.Aは危険レベルBの国家危機に断定するが、著名な悪の組織ヴィランドが集うこの状況は危険レベルAの大陸危機にも上がることも推定し、各地に超雄ヒーローを掻き集めていた。

 

 任侠と風俗の街、新宿歌舞伎町。そこは多くのヤクザたちが結集し、目の前の悪の組織ヴィランドの長と対峙していた。

 それは灰色の髪と金色の瞳をした腕や脚が太いが、背丈は少し小さい老人、黒いスーツの上に茶色い革コートを羽織っていた。

 彼の名は『ガロッサ・アルカポネ』、アメリカから来日したとあるマフィアのボスである護衛どころか、連れも出さずに、たった一人で異国の地に闊歩していた。

 対するヤクザたちはスーツやら着物やらで着飾り、機関銃マシンガン拳銃チャカ日本刀ポントウ匕首ドス、メリケンサック、バールやバットなどの鈍器を翳した。

 ヤクザたちは数百人であったが、彼らの方がむしろ緊張していた。数の差を気にしないほど不敵に笑う一人に。

「ふざけんじゃねぇよ、宣戦布告けんかごとを吹っ掛けた割にはそっちは立ったの三人かよ、舐めやがって!」

「おいおい、舐めてるのはそっちだろうよ。組長ボス若頭アンダーボスが戦線に出ず、下っ端戦闘員ソルジャーの水増ししかいねぇとはな。」

「抜かせ、てめぇら、さっさと殺るぞ! 相手はたったの一人だが、あびりてぃっつー、変な力を使う奴だ! 鉛玉の雨を降らした後は、日本刀ポントウでも、匕首ドスでも、何でもいいから特攻しろ! いいな!」

「おう!」

 リーダーらしき男の掛け声と共にヤクザたちは銃弾を放った。

 雨のように怒濤に降り出す銃弾の群れをガロッサは右手を翳すと、一斉に空間で停止する。

「お返しだぜ。」

 そう言うと、右手の指を鳴らした瞬間、銃弾の群れは後ろに飛び、ヤクザたちの前陣を貫き、瓦解させた。

 後方にいるヤクザたちは日本刀ポントウ匕首ドスなどの得物で接近戦を試みるも、突然、刃物や鈍器が宙に浮いて、ヤクザたちを一人でに突き刺したり、斬りつけたり、殴ったりしはじめた。

 メリケンサックを嵌めた男に限っては、メリケンサックが左右に動き、掌を裂かれ、悲鳴を上げていた。

 数多くの悲鳴が冷め、残されたのは新宿歌舞伎町の道がレッドカーペットの如くヤクザたちの血で赤く塗り始めたことだ。

 その内、リーダーらしき男は路地裏に逃げ、無線機で組長や若頭がいる事務所に電話をしていた。

組長かしら! 逃げてくだせぇ! 東京を二分したはずの虎狼組と鬼竜組、俺以外の全勢力がたった一人に潰されました! 早く新宿からいや、この国から逃げた方が…」

 その時、トランシーバーから銃撃戦の騒音と悲鳴が聞こえた。


虎狼組事務所組長室

「おい、谷崎、あのボス様に言っといてくれ! 儂たちは全面降伏をすると、お前の首が飛んでもいい! とにかく、今ここにいるイカれた奴らを何とかしてくれぇ!」

 虎狼組組長は今、机の下に歯を震わせながら、怯え隠れ、若頭を含む部下たちは銃弾を放つ。

 しかし、瞬間移動テレポートをしながら、回避する一人の少女がいた。

 白髪のツインテールと黄金の瞳を持ち、仕事の際は民族衣装のような黒い服を着た彼女『ルナリィ・ムーンフィッシュ』は両手に持った二本の曲刀を振るい、ヤクザたちを斬り裂く。

「ヤクザ、お父さんファザー、の、邪魔、殺す。」

 その傍らには赤い長髪と小さくて丸いサングラスに隠れた赤い瞳を持ち、赤スーツを着た痩せた男『ドラク・チカチーロ』がヤクザからの血を糸のように操り、戦前に戦った若頭や隠れていた組長を縛り上げ、目の前まで運び寄せた。

 赤い男は組長から持った無線機を奪い取り、話し掛ける。

「はいはい、変わりました。おたくの組長ボス若頭アンダーボスは手中に収めたけどね。鬼竜組の奴らはもう既にバラしたけど、早く降参してくれると助かるけど。」

 無線機の向こうにいる男、谷崎は気が動転したかのように笑い、こう言い放つ。

『てめぇら、今、笑っていられるのは今のうちだ! 今、この新宿には関西最大の極道、獅子神組が援軍に向かっている! お前らがどんなにインチキな力に縋ろうと無駄…』

「ああ、そっちなら数刻前に片付いたよ。」

『は?』


数時間前の新宿郊外

 待機していたはずの獅子神組のヤクザたちは突如として、黒いスーツのマフィアたちに襲われていた。

 しかも、マフィアは炎を出して牽制したり、念力で突き飛ばして気絶させたりと、それぞれの超異能アビリティを活かしていた。

 中でも灰色の短髪と白み掛かった灰色の瞳を持ち、茶色いスーツを着た筋骨隆々の巨漢『アッシュ・デザルポ』は見えない膜の鎧のように重力を纏い、銃弾の雨に晒されても、そのガタイを守っていた。

「ほらほら、効かねえぜ! 俺の超異能アビリティは無敵なんだよ!」

「ふふ、じゃあ、アタシの超異能アビリティは最強ね!」

 その後ろに控えていた茶髪のポニーテールと虹色の瞳を持ち、藍色の燕のマークがついた水色を基調としたパーカーを着て、それと同じ意匠の帽子を被った少女『マイラ・オカダ』は改造されたスタンガンの電気を増大させ、雷として放射させ、ヤクザたちを気絶させた。

「私に操れない力はないわ。さてと…」

 マイラは電話すると、少年の声が聞こえた。

『やぁ、マイラ姉さん。そっちはもう終わったのかな?』

「もう終わったわよ、イアン。そっちの交渉は大丈夫なの?」

『大丈夫だよ、もうすぐ譲歩してくれるから。』


 新宿の闇医者病院

「ほれ、娘さんはもう大丈夫だ。密輸された新鮮な臓器を移植したおかげだわい。」

「どうしてや? どうして、あんたに出来るんや。大金を叩いても、正規の病院はことごとく断られたちゅうのに。」

「儂以外の医者が世間の名誉ばかり気にする藪医者だからだ。」

 獅子神組の組長は自身の娘の病を完治させた闇医者に頭を下げた。

 その闇医者は白髪のロングヘアーと髭や茶色い瞳を持つ黒いスーツの上に白衣を羽織り、単眼鏡を掛けた老人『ロイズ・ルチアーノ』で、そんな彼は愉快に笑う。

 そこに茶髪のショートヘアーと虹色の瞳を持ち、藍色の燕のマークがついた水色を基調としたパーカーを着て、それと同じ意匠の帽子を被った少年『イアン・オカダ』が囁く。

「手荒に超異能アビリティを使いましたが、あなたの下っ端戦闘員ソルジャーは全て無事です。それでは新宿、ひいては東京都での我々の進出に手を出さないことを約束してあげますか?」

「ああ、約束や! 虎狼組や鬼竜組とは縁を切ったるさかい、ほんま大きに! ありがとうな!」

 泣き崩れた組長を見て、少年は口元を歪ませ、ニヤリと笑った。


新宿歌舞伎町路地裏

「お仲間も、援軍も、お前さんの組長ボスも全て俺の家族の手中に収めた。あんたも、さっさと降参した方が身の為だぜい。」

 路地裏の出入り口からガロッサが不敵に笑い、谷崎に近づく。

 谷崎は脂汗と涙目を流しながら、彼に拳銃を向ける。

「五月蝿え! この人外の屑が! 人の皮を被った怪物が! 弱連に歯向かうんじゃねえ!」

 銃弾を発砲した。しかし、その銃弾は突如現れた血の膜に阻まれ、弾み返され、撃った男の右脚を貫いた。

「いぎゃあぁぁぁぁ!? 脚が!? 脚が!?」

 その膜が開くと、そこにはガロッサに加え、彼の幹部六人であるルナリィ、ドラク、アッシュ、マイラ、ロイズ、イアンらの姿がルナリィの瞬間移動テレポートによって現れた。

「全く、親父は危なかっしいな。わざわざヤクザの下っ端戦闘員ソルジャーとは言え、数百人を相手すると言った時は頭抱えたよ。」

「自陣に引き篭もらず、敵地の戦線に立つマフィアの首領ドンなんて、世界中探しても、親父しかいねぇからな。」

「気にすんな、馬鹿息子共。結局はリハビリの相手にはならないくらい弱い奴らだ。数が多かろうが、問題はない。」

「問題ありまくりじゃ! 全く、お前って奴は!」

 殺伐とした雰囲気の中、マフィアの年長者組は愉快に談笑する中、谷崎は脚の痛みを抑え、再び拳銃を向けようとした。

「殺してやる、殺してやる、怪物共!」

 しかし、ルナリィが瞬間移動のすれ違い様に拳銃を持っていた谷崎の右腕ごと斬り裂いた。

「いぎゃあ!? 腕がぁ! 糞がぁ!」

お父さんファザー、護った、誉めて。」

「良くやったなぁ、ルナリィ。全くお前は可愛いく、健気だな。」

「ふふ、褒められた、嬉しい。」

 ガロッサに頭を撫でられたルナリィは満更でもない笑みを浮かぶ。

「この人の心を読んだけど、弱者連合の一員、異怪種否定主義者ノーマリアンで間違いないね。この人が三つの極道組織を裏から操って、僕たちと戦わせたらしいね。」

「黙れ、我々、普遍主義者ノーマリアンこそが、お前たちを罰する権利があるんだ! 人心を持たぬ人間の模造品が! ぺっ!」

 心眼通テレパシーをしたイアンは谷崎に唾を掛けられた。

 それを見たマイラは恐ろしい形相で谷崎を睨み、改造したライターの火を増幅させ、彼の顔を炎で燃やした。

「あがあぁぁぁぁ!?」

「私の弟に何してんのよ! 火達磨になって死になさい!」

 唾を掛けられたイアンは何喰わぬ顔で激昂したマイラを宥めた。

「気にしないでよ、マイラ姉さん。こんな雑魚のすることをほっておいても。」

「許せる訳ないじゃない! イアンに私だけなんだから!」

「マイラの言う通り、許してんじゃねぇよ。」

 ガロッサは懐から白いハンカチを取り出し、唾が付いたイアンの頬を拭き、谷崎に対しては燃えた頭を鷲掴みにした。

「お前が舐められることは家族全体が舐められることだ。ドラク、この馬鹿への拷問をイアンに教えてやれ。」

「分かったよ、親父。ルナリィ、この近くの廃工場に転移できるか?」

「任せて。」

 ルナリィがドラク、マイラ、イアンと瞬間移動テレポートをし、その場から消えると、ガロッサは一つの溜息を吐き、懐からスマホを取り出した。

「さてと、俺も先方に電話するか。には少し遅れると。」


 彼らの名は【アブノーマル・ファミリー】。

 アメリカ中の裏社会を牛耳るマフィアにして、最強の超異能アビリティ覚醒者・ホルダーの一家。

 超異能アビリティを振るい、我が物顔に裏社会を荒らす姿から傲慢の称号を得た悪の組織ヴィランドである。

 




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ヴィランド・コレクション @kandoukei

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