試験戦争~仁義なきカンニングバトル~

青猫あずき

試験戦争~仁義なきカンニングバトル~

 試験当日。

 青峰高校の3年C組は、異様な緊張感に包まれていた。

 期末試験の数学。これを乗り切らなければ進級に響く。

 だが、この教室にはひとつの暗黙のルールがある。

 それは—— いかにバレずにカンニングを成功させるか。


「ふふ……完璧な出来だ……」


 試験開始の合図を前に、技術オタクの森下は超小型プロジェクターを仕込んだシャープペンを手にして笑った。

 最新技術を駆使した彼の秘密兵器は、問題用紙の端に小さく答えを投影できる仕組みだ。


 一方、隣の席ではアーティスト肌の女子生徒、市川がボールペンをじっと見つめていた。

 ボールペンの芯には細かい文字で公式や答えがびっしりと模様のように書き込まれている。


「1本のペンの中にこれだけの情報を詰めるなんて……これぞ芸術的カンニングね」


 自画自賛しながらも、彼女はペンの微妙な角度を変えながら公式を盗み見ようとしていた。


 最前列には、おしゃれ女子の藤崎が座っている。

 彼女の髪をまとめるヘアバンド…それは単なるファッションアイテムではない。実は骨伝導ヘッドセットであり、彼女自身が読み上げた公式をリピート再生しつづけている。


「カンニングもオシャレにこなさないとね」


 教室の後ろ、ひと際静かに集中しているのは職人肌の渡辺。

 彼の手元には何の変哲もない消しゴムがあるように見えるが、その実、ケースの内側にびっしりと公式が書き込まれている。


「俺は古典的なカンニングに魂をかけている……」


 つぶやきながら、消しゴムをさりげなく操作して答えを確認する準備をしていた。


 そして最後に試験開始ギリギリまで、自身の作成したカンニングペーパーに目を通す生徒がいた。無論、ボクのことである。


「それでは、試験を開始してください」


 担任の中村先生の合図で試験がスタートした。静まり返った教室の中、カンニング戦士たちはそれぞれの技を駆使し始める。


 まず動き出したのは森下だ。ペン型プロジェクターを握りしめ、問題用紙の端に小さく答えを投影する。しかし、解像度が低すぎて文字がぼやけていることに気づく。


「くっ……ピント調整をしないと……」


 焦るうちに、余計に手が震え、ますます投影される文字は読みにくくなってしまう。


 次に、市川がボールペンを使い始めた。ペンの芯に書かれた小さな文字を覗き込もうとするが、文字があまりにも詰め込まれすぎて目を凝らさざるを得ない。


「これ、書いたときは完璧だと思ったのに……この問題を解く公式はどの位置に書いたっけ……」


 藤崎はヘッドセットから聞こえる自分の声に耳を傾けていたが今解いている問題に使う公式が都合よく再生されることはなく、無関係な公式が頭に響き続ける。


 渡辺は、消しゴムをひっくり返してケースの内側を確認しようとしていたが、手が滑って消しゴムが床に転がる。


「あ……」


 慌てて拾おうとした瞬間、中村先生が制止する。


「落ちた消しゴムは先生が拾おう」


 危ないところだった。もし落としたのが消しゴムでなくカバーであったならカンニングは露見していただろう。


 一方、ボクは静かに解答用紙を埋めていた。

 試験終了後、他の生徒たちが疲れ果てた顔で答案を提出する中、ボクだけが満足感を伴って教室を後にした。


 ボクのカンニングペーパー—それは、ただの努力の証だった。

 カンニングペーパー1枚に収まるように授業の要点をまとめたことで、書かれた知識は自分自身の脳にしっかり刻まれていたのだ。

 絶対にバレないカンニングペーパーの使い方はこうするのだ。

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