何でも話し合えるゲーム友達が実は同級生だった話。

柊なのは

第1話 ゲーム友達

 雨が降ったある日の放課後。俺、北村結翔きたむらゆいとはカバンに入れていた折り畳み傘を差して学校を出た。


 梅雨。ここ最近は雨が多く、何もかもやる気が失われる。


(はぁ……勉強する気にもならないし帰ったらゲームでもやるか)


 どうゲームを攻略しようか考えながら傘を差し1人歩く。


 1人で帰るのは毎日のことだ。誇ることではないが俺は友達がいない。入学して2ヶ月。俺は見事に友達作りに失敗した。気付いたらグループができていて、孤立。改めて自分が友達作りが下手なことがよくわかった。


 信号が赤になり立ち止まる。すると、ズボンのポケットに入れていたスマホが振動したので、手に取った。


 友達もいないのでこれはおそらくゲーム関連の通知かクーポンの配信とかそういったものだろう。


 スマホの電源を入れて画面を見るとここ最近やり込んでいるゲームのチャットで新着メッセージの通知が来ていたことに気付いた。


(あっ、リンさんだ)


 リンさんは、ゲームでよくオンライン対戦したり、チャットで話すことが多い。この時間帯にチャットなんて珍しいな。


『ノース、今電話いい?』


 ノースというのはゲームの中での俺の名前だ。いいプレイヤー名が思い付かず自分の名字から取った。


『30分後ぐらいなら』

『じゃあ、30分後に』


 メッセージがそこで一旦終わると信号が青になったことに気付き、スマホをポケットに入れて信号を渡る。


 やはり急用だろうか。ゲームで電話機能はあるが、たまにしか使ったことない。リンさんと話すときは基本チャットでだ。


 早歩きし、家に帰るとすぐに『電話、いけるよ』とメッセージを送る。するとリンさんから電話がかかってきた。


『ノース。聞いてよ!』

「お、おぉ……」


 相手が年上か年下かなんて会ったことがないのでわからないが、俺とリンさんは基本ため口だ。まぁ、俺はさん付けしてるけど。


『腹が立つ出来事が今さっきあったから誰かに話したくて』

「へ、へぇ……けど、なぜ俺に?」

『親しい友達には言えない話。ノースだから話せる内容』


 スマホを手に持ち、ベッドへと座る。聞くことぐらいなら俺にもできると思い、彼女の言葉を待っているとかなり空気が重たくなる話だった。


『私、彼氏いるって言ってたでしょ?』

「あぁ、言ってたな。同い歳の」

『最近、彼氏の様子がおかしいことは話したっけ?』

「まぁ、少し」


 話したことはあるだけで会ったこともないが、リンさんのことは色々知っている。まぁ、ゲームなので偽ってる可能性はあるが、俺が知ってるリンさんは同い歳の彼氏がいるらしく、ラブラブらしい。


 しかし、1週間前の電話でその彼氏が冷たい気がすると俺に話していた。


『今日も誘ったけど断られたらから私、彼の後をつけてみたの』

「それで?」

『知らない女とイチャイチャしてた』

「それってうわっ────」

『そのワード聞きたくない』

「ごめん。で、それを見てリンさんは怒りを爆発させたと」

『えぇ、すぐに彼に隣にいる彼女は誰かって問い詰めたわ』


 すぐにということは浮気相手もいるところに突撃していったのだろうか。だとしたら凄い。まぁ、浮気かもしれないとなったら俺もそう行動する気もするが。


『問い詰めたら彼、何て言ったと思う?』

「ごめんねとか?」


 浮気がバレたらまずその彼氏は驚いた顔をすると思うが、一言目はなんだろうか。謝罪かそれともこれは浮気じゃないと否定するか。


『謝っても許さないけどあいつはこう言ったの。好きな人ができたんだ。紹介するねって……はぁ、意味わからないんだけど!』

「お、落ち着いて……」


 耳に当てていたが、大声を出され俺はスマホを耳から離してスピーカーのボタンを押した。


『落ち着けないよ! 好きな人を彼女に紹介するってどうかしてると思わない?』

「どうかしてるな」


 さっきまで彼と言っていたのに先ほどあいつと言ったところからもわかる。彼女が物凄く今、怒っていることは。

 

『そうよね、私おかしくないわよね。あいつが爽やかな笑みでこの子はねって紹介するからもう私、怒りを通り越して怖かったわ』

「その男とはどうしたんだ?」

『別れたわよ。正確に言うとあっちから振られたわ。この子が好きだからもうあなたとは付き合えないから別れてくれって。ふんっ、それなら浮気がバレる前に振ってよって話!』

 

 再び、リンさんの怒りは爆発したが、その後、ふぅーと息を吐き、小さく笑った。


『ふふっ、話したらスッキリした』

「それは……良かった」

『ありがと、ノース。私の愚痴を聞いてくれて』

「いや、何かあればいつでも愚痴でも話でも聞くから溜め込まないようにな」

『ん、ノースは優しいね』

「そうかな……」

『そうだよ。やっぱりノースと話すの好きだな。じゃ、今夜ゲーム対戦よろしくね』

「あ、あぁ……」


 電話が切れると俺はどさっとスマホを手に持ったままベッドに寝転ぶ。


 相手が声を変えている可能性はあるがリンさんって女性だよな……。女性に好きだなと言われて俺は少し動揺してしまった。人生の中で家族以外に言われたことがないからビックリした。

 

 このときの俺はまだ知らなかった。翌日、今日聞いたような話をまた聞くことになることを。



***



 俺のクラスには美少女と言われるほどスラッとしたスタイルに笑顔が素敵な人がいる。彼女の名前は前島彩葉まえしまいろは。彼女にはサッカー部で男子の中では人気者である浜崎大和はまさきやまとという彼氏がいる。


 前島と浜崎は周りからはお手本のようなカップルだと言われ、1年生の中で2人が付き合っていることを知らない人はほとんどいなかった。


 2人は仲がよく、ラブラブカップルだと言われていたが、今朝、何だか様子がおかしい。


(まさか別れたとか……)


 昨日のリンさんの話を思い出したから別れたのかもと予想したが、喧嘩の可能性もある。


 まぁ、俺には関係のないことだが、気になっていると隣にいる女子グループの会話が聞こえてきた。


「ね、聞いた? あの2人別れたんだって」

「ほんと? あんなに仲良かったのに。別れた原因は?」

「私は前島さんが振ったって聞いたよ」

「何で振ったんだろう」

「さぁ……」


 予想が当たってしまった。やっぱり前島と浜崎は別れたのか。


 教室の端で友達と話す前島と少し離れたところで友達と話す浜崎の姿を見ているとスマホが振動し、視線を手元にやる。


(リンさんから……)


『爽やかイケメンが何事もなかったように今朝、挨拶してきたんだけど』


(爽やかイケメン……)


 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る