第2話 前島彩葉
『ぬぅ~ほんと意味わかんない。あっちから振って浮気までしたのに普通今まで通りに接してくる?』
今日もまた放課後にリンさんから電話がかかってきて、愚痴を聞かされていた。
学校にいる時に電話がかかってきたので誰もいない教室の前で話している。
「普通、気まずくなりそうだな」
『だよね! こっちは顔も見たくないのに私が一人でいたら声かけてくんの。教室では声かけないのに』
「……そういや、今日、俺の身近なところで別れ話があった。学校の人気カップルが別れたみたいで」
『へぇ、じゃあ振られ仲間だね……』
リンさんは声が小さくなっていき、黙り込んでしまった。
何か元気付けるようなことができたらいいのだが、無理に笑わせるようなことをするっていうのも逆効果になるかもしれないしな。
『ごめんね、今日も愚痴聞いてくれて』
「そこはありがとうでいいんだよ。愚痴言ってもいいって言ったのは俺だからな」
『……やっぱりノースは優しいね。彼氏がノースみたいな人だったら良かったのに』
俺みたいな……会ったこともない俺に優しいと判断するのは早い気がする。もしかしたら会ったらゲームとは違って優しくない人かもしれないのに。
「ゲームに関しては優しくないが?」
『ふふっ、確かに。手加減して欲しいくらいいつも本気だもんね。じゃ、ノース、またね』
「あぁ、また」
電話が切れると空き教室から自分のクラスの教室へ荷物を取りに行く。
階段を降り、廊下を歩いていると教室から大きな声が聞こえてきた。
(この声……前島?)
声がする教室(俺の荷物があり、今から行こうとしていた場所)へと近づき、教室をこっそり覗くと思っていた通り前島がいた。
彼女の目の前には別れたという浜崎の姿がある。
「ほんとに悪いと思ってるの!?」
「お、思ってるよ。もっと早くに言うべきだった」
「! わ、わかってない……大和、全然わかってないよ」
どういう話をしているのかわからないが、喧嘩している状況で俺が教室へ入ることは不可能だ。
前島の方を見ると彼女は泣きそうな顔をしていて、それに対し浜崎はなぜ泣いているのかわかっていない様子だ。
「お、落ち着いて彩葉。愛花のことを好きになって、内緒で付き合ってたことは悪いと思ってる。けど、これはしょうがないんだ。好きな気持ちは止められないって言うだろ?」
「……しょうがないって……やっぱり大和は、悪いと思ってない」
前島は浜崎の発言に呆れた様子で、大きな声を出すことに疲れて声が小さくなっていく。
話の流れからしてわかった。噂では浜崎が前島を振ったと聞いたが、本当は浜崎の浮気が原因で2人は別れたんだ。
あれ、どこかでこういう状況があったと聞いたような……。
「お、俺、これからバイトあるんだった……。またな」
浜崎はそう言うと逃げるようにカバンを持って教室を出ようとしていたので俺は隣の誰もいない教室に入り、身を隠した。
足音が遠くなっていくと俺は教室から出て、話は聞いてませんでしたよ感を出して隣の教室へ入った。
カバンを取るとすぐに教室を出ようとしたが、入り口を塞がれた。
目の前には両手を広げて、「むっ」とした顔をする前島。
「あの……通りたいんだけど……」
「ダメ。さっきの会話、聞いてたでしょ?」
「……ここで聞いてなかったと言うのは無理そうか」
「無理ね。隠れてたんだろうけど、私には見え見えだったし」
「……き、聞きました」
嘘偽りなく前島と浜崎の会話を聞いていたことを言うと彼女は俺の肩をトントンと叩いた。
「だよね。大和、酷いんだよ? 浮気したのに全く悪いと思ってないの」
(あれ、これ愚痴が始まる……?)
「そう、みたいだな。話を聞いてる限り」
「こっちはもう顔も見たくないし、話したくもないのに大和、俺は何もしてないけどって顔して話しかけてくるの」
顔も見たくないし、話したくもないしという言葉。リンさんと同じだ。状況も似ているし、まさか……。
「あっ、そのストラップ。『まほだん』じゃん。北村くん、好きなの?」
「えっ、あぁ、好きだよ」
カバンにつけているストラップを見てテンションが上がった前島は、俺の手を両手でぎゅっと握った。
『まほだん』というのは俺とリンさんが仲良くなったきっかけであるオンラインゲームだ。
「マジマジ!? あのゲームやってる人初めて会ったよ。嬉しいなぁ~」
「ま、前島……ち、近い……」
女子と話すことなんて数えるほどしかないし、手を握られた経験のない俺にこの状況は慣れなさすぎる。
「ね、今日から新イベだけど、装備どれがいいかな? 遠距離か近距離攻撃できる武器で迷ってるんだよねぇ。北村くん、どうする?」
「装備か……俺は────」
「彩葉、帰るよ~って、北村? 何でいんの?」
そう言って教室に入り、俺を見るなりガン飛ばしてきたのは前島の友達である
見た目はギャルで、陽キャグループの中でも中心人物的存在だ。
(俺、少し苦手なんだよなぁ……気が強そうで)
「ちょっと、美冬怖いって。北村くんとはゲームの話をしてたの」
「ゲーム? あぁ、もしかして彩葉が好きな『まほだん』?」
「そうそう。北村くんもやってるんだって」
「ふーん。てか、早く行かないと混むよ?」
「わっ、ほんとだっ!」
これからどこかに行くようで前島は慌ててカバンを取りに行き、俺と園川のところへ戻ってくる。
「じゃ、北村くんまたね! 愚痴聞いてくれてありがと!」
「お、おう……」
バタバタと前島と園川が教室を出ていくと辺りはシーンと静まり返った。
(ありがとう……か)
さっきの言葉を聞いたとき、俺はすぐにリンさんの言葉を思い出した。声も似てるし、状況も似てる。
(リンさんが前島なのか……?)
***
『なぁ~なんで、そっち行くの!』
「こっちの方が効率的だろ」
『いやいや、こっちの道の方が限定素材のドロップ率高いって』
夕食を食べ、お風呂に入り、もう後は寝るだけの状況になった後。俺はリンさんとイベントのダンジョン攻略を目指していた。
この『まほだん』ではプレイヤーでの戦いがメインだが、今回の新イベントでは協力戦だ。そのため全く違う戦い方をしている俺とリンさんは、最初の方から揉めていた。
「まぁ、確かに。一旦そっちから行くか」
『いいの? つよつよな敵来るかもよ?』
「大丈夫だ。いつもランキング上位の2人だからな」
『……そうだね! じゃ、しゅぱーつ!』
何とか決まり、ゲームを進め、中ボスと戦っているとリンさんが話し始めた。
『そだ、聞いてよ。ノース』
「どうした? ポーション不足か?」
『違う違う。今日ね、嬉しいことがあったのよ』
「嬉しいこと?」
ゲームをやりながら話すと話の内容が入ってこない気がしたが、リンさんは話したそうな気がしたので話を続ける。
『うん。なんと「まほだん」が好きって言う人に会ったのよ』
(ん……やっぱり……うん、だよな?)
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます