ギルド試験官は報告書が書けない
先崎 咲
ある冒険者の昇格試験について
俺はある冒険者ギルドの昇格試験官である。一応、BランクからAランクへ上がるときの試験官を担当している。地方の大都市であるこの街では周辺の町の冒険者ギルドではできないような上級冒険者試験を取りまとめているのだ。
これでも俺は元Aランク冒険者だからな。給料も悪くないし、冒険者時代の貯蓄と合わせてこれで食っていこうと思っている。まあ、はじめてようやく一年って感じなんだが。
報告書を書くのは面倒だが、最近は慣れてきた。その冒険者がどんな武器を得物にして試験を突破したかを書けばいい。俺は魔法の知識はあんまりないが、魔法使いは他の試験官が対応することも多い。俺は、戦士だのを冒険者知識から見極めればいいのだ。
さて、今回の昇級希望の冒険者は、っと。
はあ? 冒険者登録半年? ふざけてんのかこいつ。どんなに早くても三年はかかるだろ普通。それとも、どっかの騎士団からの流れとかか。いや、それにしたって十四歳は若すぎだろ。
まあ、基準に満たないなら落とすだけだ。試験内容は魔物の討伐でいいだろ。
ギルドに集まっている依頼から良さげなものを探し出す。おっ、いいの発見ー。Aランクモンスターのキメラウルフの討伐。ギルドマスターに頼んで試験用に回してもらう。
どうにも、今回の昇級希望者は魔法剣士らしいからな、どっちつかずでいるなら指導もしてやらんことは無い。まあ、この考えはバカげていたと後から思い知らされたんだがな。
あれこれ準備しているうちに試験当日になった。目の前にはひょろっこいガキが一人。白い髪に赤と青のオッドアイ。腰に下げている剣はいかにも高そうだった。いかにも、金持ちのガキといった風貌だった。
「テメェの試験内容はキメラウルフの討伐だ」
「そうか」
うなずくガキ。ガキらしくねえ話し方だな。どう見ても半年でBランクに達したようには見えない。
近場の森を荒らすキメラウルフの討伐。どうやら、どっかの錬金術師が逃がしてしまったらしい。街の近くでキメラを作るなよ、迷惑だな。まあ、こちらとしては報酬がもらえるからいいのだが。
森へ向かうガキの後についていく。ガキは何度かチラチラとこちらを見ていたが、あきらめたのかしばらくすると気にした様子を見せなくなった。
森の中は視界が悪い。しかし、試験官の意地でついていく。こいつ、この辺の冒険者じゃないのに、やけに迷いなく進むな……。地図でも持ってんのか?
「GUOOoo……」
っ! キメラウルフだ。嘘だろ、初手で引き当てるとか、あのガキも幸運なんだか不運なんだかわかんねぇな。
「
ガキが一言呟くと、キメラウルフはズタズタになっていた。はあ!?
「おい、お前!」
「あ、試験官」
「今のはなんだ」
「風魔法ですけど」
「詠唱は」
「必要ですか、それ」
ありえない。魔法は長ったらしい詠唱が不可欠だ。それをしないで魔法を使うなんて聞いたことがねぇ。あとで魔法使い担当の試験官に聞いておくか。というか、魔法剣士って聞いてたんだが、魔法特化なのかコイツ。俺より魔法使いの担当官のほうがよかったじゃねえか。
「とにかく、試験はこれで終わりですよね。ありがとうございました」
「おいおいおい」
ぺこり、と形だけと分かる礼をして、スタスタと迷いなく帰っていくガキ。気になっていたが地図は持っていないようだった。その割には視線は下を向いているが。
「あ」
「あぁ?」
ガキが突然止まり、上を向いた。晴れ渡ったそらに大きな影が差した。そして、その影を作り出した物体が目の前に降り立つ。
茶色の鱗。トカゲのような体。しかし、その体は人を三人並べてもなお届かない巨体。
「地竜!?」
「ちりゅう?」
待て、今の話し方、こいつ地竜を知らないのか!?
「まあ、帰るのに邪魔だし、倒すか」
「はぁ? 地竜だぞ、勝てるわけがない!」
「やってみなきゃわかんないだろ」
「んな、バカなこと……」
そういって、何かの魔法呟きを剣に
決着は一瞬で着いた。地竜の首が一撃で吹き飛んだ。地竜はSランクモンスターだ。Aランクの冒険者パーティーでも尻尾巻いて逃げるのを、たった一人で、しかも
なんだこいつ、強すぎる……!
こいつは昇級確定だ。というか、飛び級でもなんでもさせてやれ。あまりにも詐欺過ぎるだろ。しかし、俺は仕事上、Aランクに上げられるかどうかの判断しかできないし、この都市ではAからSに上がる試験をしていないため、権限もない。
いやでも、こいつの報告書、俺が出すのか。信じてもらえねぇだろ、こんなの。
はぁ。今回の
ギルド試験官は報告書が書けない 先崎 咲 @saki_03
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