ある魔道人形の死

@beni_haruka

ある魔道人形の死


王が息を引き取った。




涙のひとつもない異様な雰囲気の中、身内は穢らわしさに耐え切れず、ハンカチで口元を覆い、部屋を出ていった。教会の鐘がやけに低く、響いた。母親は子の耳を押さえ、足早に家に向かい、街から人の気配が消えた。






悪魔祓いも無数に行い、呪いの解呪にも手を尽くした。もはや出来ることは何も無く、諦めと失望の中、王は尊厳を奪われて死んでいった。




王の半身には大きな木箱が乗っており、その中では穢らわしい死の元凶、人の尊敬を奪う魔道人形が、動くことも出来ず、じっとしていた。体の中には王の萎びた陰茎が入っており、瑞々しい腰には王の干からびた両手がまだ乗っていた。






誰もその役割を望まなかった為、死刑執行人が呼ばれた。


木箱を外し、魔道人形を持ち上げ、何の役にも立たない貞操帯を着け、アイアンメイデンの中に納める。






火で炙ろうが何をしようが、髪の毛1本、爪の先さえ欠けない。何度封印しても必ず死者が出るのは、人間の欲望のせいである。






一見、整った容貌の人形は、月の光のような髪の色、


世界で最も澄んだ海のような瞳の色をしていた。




魔道人形は話せたし、動くことも出来たが、それを望む者はいなかった。






娘を喪い、狂った魔道士がこの人形を作ったとも言われるし、


古の、王の寵愛を失いし女が、呪いをかけて作ったとも言われる。






肌は張りがあり、血色が良く、温かい。まるで生きているかのような人形は、多数の男を死に追いやった。


一度でも中に挿入してしまうと、死ぬまで揺さぶり続けることになる。それでも、人形の中はどんな具合だろうと試みる男は絶えなかった。






人形は逃げ回り、自分のせいで死んだ人間について話した。


命と尊厳を奪うために作られた魔道人形なのだと説明した。


それでも、皆、死んでいった。






アイアンメイデンの中に納められた魔道人形は、罪人の眠る墓地へと埋められた。人形は心から安堵した。






それほど日も経っていないうちに、誰かが墓を掘り始めたので人形は身を固くした。祈りは届くことなく、掘り出され、鉄の処女の扉が開くと、そこには力なく横たわる魔道人形がいた。






青年は、大丈夫だから出ておいで、と人形の手を引いた。


魔道人形はまた、繰り返し説明をしたが、青年は話を聞かず、


人形に服を被せ、家まで連れて帰った。








綺麗に洗い、寝台に横たわらせる。


魔道人形は伝えた。青年は聞かなかった。


「壊してほしいか?」


青年の問いにしばらく沈黙して、人形は頷いた。


「最期に神に祈るか?」


人形は答えた。人形の祈りを神は聞き届けてはくださらない、と。






火で炙ろうとも、推し潰そうとも、湖に沈めようと、現れる魔道人形。「心はあるか?」の問いに「身体が壊れないから心が代わりに壊れた」と答えた。




哀れに思った青年は、魔道人形をうつ伏せに寝かせ、自身の木で出来たペニスを押し込んだ。人形のなかで細長い棒が伸びていき、ガチリ、と音がしたかと思うと、美しい魔道人形は、灰と、土と、腐った木片を残して、役割を終えた。






いくつかの古い魔法陣が浮かんで、消えた。




それを見届けたあと、耳の後ろのぜんまいをきりり、きりり、巻いた。


灰と炭と、土を残して青年も崩れ去った。






子どもたちが歌いながら走ってゆく。


人形が死んだ 人形が死んだ


土と灰と腐った木片


お前のゆりかごは死人のあばら


お前の糧は萎びた指先




人形が死んだ 人形が死んだ...


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