その縁起の良い名前とは対照的に、嬉野貴緒は鬼使いだ。

五木史人

鉄隕石の指輪

嬉野貴緒うれしのたかお

その縁起の良い名前とは対照的に、嬉野貴緒は鬼使いだ。

右手に付けた鉄隕石の指輪は、通りすがりの神から貰ったものだ。


神が通り過ぎる?

と思う読者もいるかも知れないが、この国には八百万の神がいるのだ。

そんな神だっているだろう。


神は名乗らなかったから、名前は不明だ。

そしてこの鉄隕石の指輪こそ、鬼を使役出来る指輪なのだ。


次の日に試験を控えていたにも関わらず、嬉野貴緒うれしのたかお勉強する気が起こらなかった。

そりゃそうだろう、鬼を使役出来る指輪を手に入れたのだ。


「鬼か」

ベットに寝転んだ嬉野貴緒うれしのたかおは、呟いた。

「そうだ、鬼に試験を解かせれば良い。とりあえず召喚してみるか」


メモ帳に書かれた呪文を唱えて見た。

「・・・何も起こらないか」

そう呟いた直後、4畳半の小さな部屋に、そいつは現れた。


鬼と呼んでも良い感じの生き物が現れた。

「俺を呼んだのはお前か?」

顔はかなり悪そうだ。鬼としたらかなり上級な雰囲気だ。

しかし、嬉野貴緒うれしのたかおの、鉄隕石の指輪を見ると

「うっ!それは!」

鬼は後ずさり逃亡を図ろうとした。


しかし、嬉野貴緒うれしのたかおは素早く、

「我は汝が逃げる事は認めない!」

と制止した。


鬼は動きを止めた。止めざる得ないと言った表情だ。


そんな鬼に

「汝は知能は高いのか?」

嬉野貴緒うれしのたかおの問いに、

「俺はチンピラ鬼とは訳が違う、上級鬼だ!」

「そうか」

「汝は姿を消して、我に知識を授ける事は可能か?」

「容易い」

「そうか」


明日の試験はこいつに任せよう。


次の日、嬉野貴緒うれしのたかおは、教室の中でもそいつの気配を感じていた。

「今日は楽勝だ」


英語の試験が始まった。

「汝、答えよ!」

すると凄まじい勢いで、試験が解けて行った。

「さすが上級鬼!」


その日、嬉野貴緒うれしのたかおは、自身の最高得点を獲得した。

あえて間違いを書きこみ、点数を抑えた位だ。



嬉野貴緒うれしのたかおは、鬼がどういう存在かまだ知らなかった。

数日後、上級な鬼は教師たちを従えていた。


職員室の片隅で教師たちは、上級な鬼にひざまずいていた。


「何をしたんだ!」

「なーに俺の鬼神的な美しき回答に、教師が魅入られた結果ですよ。あるじ」


鬼に憑かれた教師たちの目は異常だったが、

「そっか、それなら、まあいいけど」

「いいんかい!縁起の良い名前のくせに、あるじに人間の心はないんかい!」

「そんなの忘れたよ」







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その縁起の良い名前とは対照的に、嬉野貴緒は鬼使いだ。 五木史人 @ituki-siso

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