第3話 怠ける主人公(☆)
―スカイside―
突然だが、ボクことスカイはこの世界の主人公であり、転生者である。
元々ボクは
「ふ、ククク……! あ〜〜最強主人公に転生しちゃうとか運良すぎだろ! ひひっ、しかもこのゲームはハーレムものだったし、美少女のヒロインどもを好き勝手できるって最高かよ!!」
ゲラゲラと笑いながら家においてあった食料を貪り食う。
スカイは全属性を使えるキャラであり、レベルアップもしやすいチートキャラだ。しかも、今はまだストーリーが始まっていないだろう。おそらく、前日譚的な感じだからだらけ放題だ。
だから、今頑張ったとて関係ないだろう。
やっても無駄。仮に今努力してるやつがいるなら、嘲笑ってやりたいもんだ。
この世界でのお菓子的なものにも手を伸ばして貪り食っていたのだが、おどおどした様子の女性が話し聞けてきた。
「あ、あの……スカイ? そんなに食べすぎるとよくないわよ……」
この女は
以前の俺なら今すぐにでもここで押し倒したいと思っていただろうが、スカイの記憶もあるのでそのような気持ちに駆られることはなかった。
逆に、このように余計な心配をしてくるからうざったいのとこの上ない。
「チッ。うるせぇなクソババア! ボクに指図するな!!」
「ご、ごめんなさいねスカイ……。でも、急に様子がおかしくなっちゃったから心配なの」
「余計な心配だっつってんだろ! 話しかけてくんな」
すっかり食欲が失せてしまったため、ボクはわざと足音を大きくして歩き、外に出た。もちろん、扉は勢いよく閉めて大きな音を鳴らす。
「はぁ〜〜。ってか、暇すぎんだろ。なんか面白いことないかな」
村を何の当てもなく歩き始めるが、いかんせん最初の村。酒場や娼館なんかもあるわけがない。
歩き続けること数分、ボクの目に変なやつが止まった。
「うーん……脚力強化をチャージ式にしたらすごいことになるか? いや、まだ流石にそこまでの技量はないし、地道にやってくしかないか……。それより点の動きを習得しないと」
時折物々と何かを呟きながら蹴りの練習をしているボクと同じくらいのガキがいた。
癖毛の金髪に青色の瞳をしている整った顔のキャラクター。確か雑魚キャラのアレスタとかだったか。
立ち回りは雑魚そのものだが、整った顔でする悪い顔に射抜かれたプレイヤーは多数いるとかなんとか……。
(まぁ確かに可愛げのあるガキだが、今のボクには到底及ばないか)
それにしても、アイツってこんなに筋トレとかするキャラクターだったか? もっと陰湿な野郎だと思っていたが……。
ボクがじーっとアレスタのことを見ていると、あちらもボクに気がついた様子で視線向けてくる。
「ん? 俺になんか用か?」
「いや、何してんだよ。そんなブツブツ言いながら」
「見ての通り……鍛錬だが」
「っ……?」
アレスタが放った「鍛錬」という言葉には、何か俺に向けての特別な感情が孕んでいるように感じたが、気のせいだろう。
気分を切り替え、暇つぶしとしてボクはこのモブキャラをいじめることにした。
「ねぇ君……アレスタ、だっけ? なんでそんな鍛錬とかしてるわけ? どうせ無駄なのに」
「あ……? スカイってこんなキャラだったか……?」
「はぁ? ブツブツ喋ってて聞こえないんだけど? 怖気付いちゃったか!」
アレスタを煽ってみるが、ガキらしくわめき散らかして怒るとかは一切せず、やれやれと言わんばかりのため息を吐く。
そして、アレスタぽつりぽつりと話し始めた。
「〝努力は必ず報われる〟。俺はそんな言葉信じちゃいない。どれだけ頑張ろうが、報われないことがあるからだ。
だが、何も行動せずに報われなかった場合と、努力して報われなかった場合……後者のほうが悔いはない。俺は悔いを残したくない。だから、無駄だとか言われようが俺は努力を続ける。それだけだ」
一瞬何を言っているのか理解できなかった。
だが分かった途端、こんなガキがなんでこんな達観したことを言えるんだろうかと恐怖を感じる。次に怒りだった。
これじゃあまるでボクの方がガキじゃないかとふつふつとした怒りが湧く。
「意味わかんねぇこと言ってんじゃねぇよ! ただの雑魚のくせに!!」
「そうだな、俺は雑魚だ。まだ、雑魚だ」
「チッ! キメェなお前」
どうせ後々こいつをボコす未来が確定している。今ぶつけてもあとの楽しみが減るだけなので、ボクは舌打ちをしてこの場を立ち去った。
――この時のスカイは知らない。
レベルアップの概念すらなく、努力を積まなければ強くなれないということに。
さらに、今アレスタと戦ったとて、刃が立たない実力の差が大きく生まれているということに……。
次の更新予定
序盤で主人公にあっさり倒されるモブに転生した僕。負けず嫌いなので努力しまくった結果、主人公に圧勝してしまう 海夏世もみじ @Fut1
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