第2話 試される最強への道

「よし! じゃあ次はスクワット千回だぞッ!!」

「っ……! あぁ!!」


 鍛錬開始から一週間ほどが経過した。俺は毎日父親とともに筋トレをしたり、戦闘の技などを磨いている。

 具体的な内容はと言うと、一日に腕立て伏せ・腹筋・スクワットなどがそれぞれ五千回くらい。走りこみなどもするが、何度も嘔吐したことか。


 ただ、どれだけ疲弊したとて俺の母親が回復魔術の使い手かつ、回復ポーションの醸造ができる人ゆえに、一日だけで相当鍛えられるのだ。


「ぜぇ……ぜぇ……。きっつ……」

「よし、よくやり切ったな。さすがは自慢の息子だ! もうすぐ飯の時間だから、しっかり休憩しておけよー?」

「わーってる……」


 父親の言う休憩は筋肉を休ませると言うこと。

 ただ動かないと言うのももったいないので、俺はこの時間を有効活用して保有魔力量増大のための鍛錬もしている。


 ゲーム上であれば、レベルアップしたら勝手に魔力値がアップしていた。しかし、今いるこの世界にはレベルアップという概念が存在しない。


「ステータスオープン」


 ――シーーン……。


 返事がない、ただの屍のようだ。

 このように、自分のステータスすら確認できやしない。

 なので、自分の体力やスタミナ、魔力値などはジワジワと上げてゆくしかないのだ。


 体力やスタミナ、攻撃力などは普段の筋トレで鍛えることができている。が、魔力はそれで増えるというわけではない。

 魔力量を増やすには魔術を使う……もっと簡単に言えば、体内にある魔力を放出し、雀の涙ほどの魔力さえ残さず放出する。すると、やっと魔力の最大保有量がじわりと増えるというわけだ。


「こればっかりは時間が必要……だが、俺にはポーション醸造をしてくれている母親がいるのだっ! ふはははは!!」


 高笑いしながら取り出したの、はカオスな色をしている液体が入った瓶だ。

 これは母親が作ってくれた魔力回復のポーションであり、魔力が空っぽになったとてこれを飲めばあら不思議。一気にマックスまで回復させてくれるという品物である。


「そんじゃあ魔力をゼロにしますか。ほいッ!!」


 ――バチバチバチバチッ!!


 腹の底の温かいものを体に流し、一気に手のひらからそれを放出させた。するとそこから稲妻が飛び出し、目の前の木に傷をつける。

 アレスタというキャラクターは主に雷系統の攻撃を仕掛けてきたり、脚力を強化して蹴ってくるザコキャラだった。


 このゲームでは生まれながらにして自分が扱える魔術の属性は決まっており、それ以外は使えない。なので、俺は雷系と脚力強化系の魔術しか使えない。

 まぁ、主人公サマは全属性が使えるとかいうぶっ壊れだが……。


「ふん! そいっ! あ〜、どっこいしょ〜どっこいしょ!!」


 体内から魔力がすっからかんになるまで手のひらから雷撃を放ち、木を痛めつけ続ける。

 しばらくそれを続けていると、とうとう魔力がなくなって地面に倒れた。魔力がゼロになるとこのように動けなくなってしまうため、戦場では気をつけるべきだ。


「う、うぅ……ポーション……」


 地面においてあったポーションを手に取り、栓を抜いてぐいっと一気飲みする。


「ゔッ!? おぇ!! マッ……ズ!!!」


 枯渇した魔力を一気に回復してくれる超優秀なポーション。ただ一つ欠点を挙げるとすれば、クッッッソマズイということだ。

 例えるのならばそうだな……小学校の時、掃除したてホヤホヤな濡れ雑巾を絞って作られたかのような、そんな感じである。

 ……あ、やばい。具体的な味を想像したら胃の中がひっくり返りそう……。


「うっぷ……。さ、さてと……まだまだポーションの在庫あるし、続けちゃうか〜〜!」


 声が若干上ずって震えているが、これが効率的に強くなれるものだからやめられない。試される最強への道だが、負けず嫌いの俺は止まることを知らない。

 青い顔をしながら立ち上がり、再び木に手のひらをかざし、雷撃を放出し始める。


 全ては打倒主人公のため。さらに、この世界のどんな奴にも負けない力をつけるため。

 俺は鍛錬をひたすら続けるのであった。

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