序盤で主人公にあっさり倒されるモブに転生した僕。負けず嫌いなので努力しまくった結果、主人公に圧勝してしまう

海夏世もみじ

第一章 転生する双雷

第1話 序盤であっさり倒されるモブに転生した俺

 ――激痛。

 それが頭に走った途端、俺は目が覚めた。

 眼前には風で揺れる木々に、青い空を泳ぐ雲、そして心配そうに俺を見下ろす二人の子供がいる。


「あ、アレスタ起きたよ!!」

「おい、だいじょーぶかよ!?」


 アレスタ……聞き覚えのある名前だ。

 確か〝グレイス/クロニクル〟というファンタジーゲームのキャラクターだったか。辺境の村から旅立つ主人公のスカイに嫌がらせとして絡み、あっさりと倒されるキャラクターだった覚えがある。

 ただ、俺の名前は雷堂らいどう迅太郎じんたろうだったはずだ。なのにアレスタと呼ばれていると言うのとは……。


「……異世界転生ってやつか……? まじかよ……死ねなてないのか……」


 主人公にも悪役キャラにも転生できず、ただのモブキャラに転生してしまうとは……。

 このままいけば、俺は目の前にいる二人と一緒に主人公に挑み、無様に負けるだろう。


 ――そんなの絶対に嫌だ。


 俺は昔っから負けず嫌いで、どんな勝負でも勝たなければ納得がいかなかった。部活の試合も、テストの点数も、保育園時代のじゃんけん対決も全て勝つことだけを考えていた。

 勝つためならばどんな努力も積むし、勉強もするし、動体視力も鍛える。それに、使えるものはなんでも使う主義だ。


 あんなダサい退場の仕方なんてやってられるかよ。シナリオ改竄だって言われても知らねぇ。俺が勝ちたいから勝つだけだ。


「よし、そうと決まれば鍛錬あるのみだな。おっとっと」


 ガバッと起き上がると、頭に重りでも付いているみたいにふらつく。

 どうやら木に登って遊んでいたところ落ちて頭を打ち、地球での俺の記憶を取り戻せたみたいだ。


「おい! アレスタどこ行くんだよ!?」

「今から罠作って大人たちいじめよーって約束だったじゃん!!」


 俺が家に帰ろうとすると、後ろからやられ役のモブ二人が引き留める。


 男児の方の名前はヒータで、女児の方はマリンだったか。アレスタを含めたこの三人は、村でも悪ガキ三銃士として扱われていた。

 ヒータがリーダー的な役割だったので、そいつがモブA、次いで俺がモブBそしてマリンがモブCとプレイヤーからは呼ばれていた気がする。


 まぁこれから俺は強くなるために色々するつもりだし、イタズラは二人で頑張ってもらうか。


「悪い、俺もうこういうのやめる。お前らもイタズラはほどほどにしろよな」

「はぁ? お前どうしちゃったんだよ?」

「あ、頭打っておかしくなっちゃったのかな……」


 頭の上に疑問符クエスチョンマークを浮かべる二人に背を向け、俺は村への帰路を辿り始める。

 一応アレスタの記憶も残っているので、どこを歩けば帰れるかなどは分かっていた。


 ――数分後。


 俺たちの家がある始まりの村に帰ってくることができた。

 自分の家の扉を開けて、中にいる自分アレスタの家族に挨拶をする。


「ただいまー」

「あら、今日は早かったわねー」

「今日は悪さしてないだろうな?」

「だぅー」


 アレスタの深掘りとかは一切なかったからわからなかったが、どうやら両親と俺、妹の四人家族だったらしい。

 母は料理を作っており、父は今さっき帰ってきたのか着替えをしている。妹はベッドに転がって手足をパタパタ動かしていた。


「何もしてないよ」


 アレスタの記憶によると、どうやら父親はかなりの腕前の持ち主らしく、冒険者としても名を轟かせていたとかなんとか。

 今の俺は雑魚同然だし、鍛錬を頼むのならば父親に頼むのが効率的だろう。


「父さん」

「ん? なんだ?」


 父親は服を脱ぎ、オーガのような筋骨隆々な肉体を露わにしている。ムッワァといつオノマトペが出てそうな謎のフェロモンを放つ父親に若干苛立ちを覚えながら、俺は頼みごとをした。


「強くなりたいんだ。明日から鍛錬に付き合ってくれないか?」

「な、なんだとッ!? いつも筋トレを断るお前がどうしたんだ!!?」

「えーっと……実は頭を打って目が覚めたというか、なんというか……」


 主人公に負けたくないから超強くなりたい。とか言っても「なに言ってんだこいつ?」ってなるしなぁ。いい言い訳はないもんか……。

 キョロキョロと見渡すと、ふと妹に目が止まる。


「何があっても妹を守れるくらい強くなりたいって思った」


 その場しのぎに言ってみたのだが、思ったよりも真剣な口調と自然になった自分に驚いた。

 どうやらアレスタは妹のことを大切に思っていたみたいだ。


「あ、アレスタがそんなこと言う日がくるなんて……!! アレスタは私たちの自慢の息子よっ!!」

「うぉおおおおおお! お前の思いをしかと受け取った! 必ずお前を世界最強に鍛えてやるからなッ!!!」

「きゃっきゃっ!」


 母は涙を流して喜び、父は雄叫びをあげて喜び、妹は何が何だかわからないまま笑って喜んでいる。

 以前のアレスタがどれだけ手のかかる悪ガキだったか、この反応を見れば知らなくとも大方想像がつくな。


 こうして、打倒主人公への鍛錬の日々がスタートした。

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