第1話 久しぶりの地上
「うーん、空気が美味い!」
俺は肺いっぱいに空気を取り込む。やはり久々の地上は素晴らしい。あのダンジョンの中にいるとこんな余裕は無かったから余計に美味く感じてしまう。
「それにしても、ここってこんな所だったか?」
前まではもっと森の中だった気がする。だが今はどうだ? 近くに小さな村が見える。それも石造りの家だ。
「数週間であんな家を建てるとは。よっぽど腕の良い奴がいるのか」
せっかくだし寄ってみるか。もし、良いものが売ってたらあそこでお土産でも買うことにしよう。俺はそんなことを思いながら村に寄った。
「へぇー。結構良い所だな」
村の中では人もそこそこにいて賑わっている。俺も冒険者を引退したらこう言うところで隠居生活をしても良いかもな。
「お、あそこ良さそうだな」
俺はおもちゃが売っている店の中に入る。
「すいませーん。子供が喜びそうな物ください」
「はいよ、ってあんたどうしたんだ? やけにボロボロの服だけど」
「あー、ちょっとさっきまでダンジョンに潜ってたんで」
「ふーん、大変だねぇ」
爺さんは俺をまじまじと見る。確かに服がボロボロだ。とりあえずここで服も買っておくか。
「子供が喜びそうな物か。これなんかどうだ?」
出されたのは手のひらより、少し大きいだけのただの石。なんだこれ? どうやって遊ぶんだ?
「ふふん、お客さん。今からただの石じゃねーかって思っただろ?」
髭を蓄えた老人は得意げな笑みを見せる。いや、どう見てもこれただの石だろ。
「これ実はな? 魔力を流すと……どうだ? すごいだろ?」
「お、おぉ! すげーな」
何の変哲もない石は竜に変形して動き出す。これは確かに、すごいな。
「じゃあ、これ一つと後はここら辺でお菓子とか売ってるとこってないですか?」
「それなら、ここを出て右に出た所にクッキーを売ってるぞ。婆さんが焼くクッキーは美味いから買ってみな」
「クッキーか。それにするか」
俺は石のおもちゃを購入してクッキーを買った。後ついでに服も。
〜〜
俺は街へと戻る途中であいつらのことを思い出す。
「結構長いこと家空けたからなぁ。あいつら絶対に怒ってるよなぁ」
以前も1週間くらい家を空けた時があった。その時は3人全員が大号泣しながら抱きついてしばらく離れてくれなかった。
それからはあんまり家は空けないようにようにしてたんだけど、久々にやっちゃったなぁ。絶対に怒ってるよなぁ。
「まぁ、とりあえず。お菓子も買ったし大丈夫だろ」
あいつらと暮らし始めてから2年が経ってんだから扱い方はよく分かってる。これで機嫌も直るはずだ。
「お、見えて来たな」
街が見えて来た。俺は少し歩くスピードを早くして街に帰った。
「やっぱり久々に帰って来ると安心感があるなぁ」
いつもと変わらない活気溢れる街だ。冒険者たちがいて、たくさんの店や屋台がやっている。でも、気のせいだろうか?
「………なんか変わったか?」
宿や店が微妙に変わっていたりいなかったり。おかしいな? 知らない間にリニューアルでもしたのか?
「まぁ、良いか。それより帰らないとな」
俺は家とは違う方向に歩き出す。俺が長いこと家を空ける時は俺の信頼してる婆さんにあいつらを預けてるからな。迎えに行かないと。
「おーい、婆さーん。ちびっ子達を迎えに来たぞー」
俺は扉をノックする。しばらく待っていると眼鏡をかけた白髪の老婆が出て来た。
「よぉ、婆さん。久しぶり」
俺が挨拶をするとクレア婆さんは目を見開いて口をぱくぱくとさせている。そして震える指を俺に向けてーー
「あ、あんた。レンヤかい?」
「おいおい婆さん。当たり前だろ? まだボケるには早いぞ」
やれやれ、数週間でこんな信じられない物を見るような目をされたらあいつらはどんな反応をするんだろうか。とゆーか、あいつら来ないな。いつもなら飛んで来るのに。
「なぁ、あいつらは」
「この馬鹿タレがぁあ!!」
俺は婆さんに関節を極められてしまう。
「ちょ、ちょちょ! 痛いんだけど!? 折れる、折れるって!!」
「このくらいされて当然さね! 6年間も行方不明になってからに!!」
「え、はぁ!?」
一体この婆さんは何の話をしてるんだ? 6年も行方不明? 誰が? 俺が?
「い、いやいや。俺が家を空けたのって 数週間だけ」
「問答無用!!」
「いででで!! ギブギブ!」
俺はしばらくの間、関節技を極められ続ける羽目になった。
ダンジョンで戦っていたら数年が経過してた件について クククランダ @kukukuranda
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