第6話 女子4人の勢いに押されて

 小幸こゆきと濃厚な口づけをしてから、しばらく経ってからのある日。


小幸こゆきちゃん、聞いたよ」

「なにを?」


 腕や足を組み仏頂面で応対する小幸こゆき

 それとは対象的に満面の笑みを浮かべて、女子4人が小幸こゆきに話しかける。


成瀬なるせくんと仲良いんだってね♡」

「な!?」


「文芸部室で放課後はいつも、ふたりっきり」

「帰りはスーパーで一緒に買物」

「家は隣で、お互い一人暮らし」

「もういくとこまでいってるとか」

『キャー』


「どこからそんな情報……」

「もう校内ですっごい噂、流れてるよ。知らない人はいないくらい」


「ねーねー実際、どうなの? 話、聞かせてよ」

「ちゅーした? ちゅー」

「もうしてるんじゃない?」

「ふたりでなにしてるの?」

『聞かせてよ♡』


 さすがの小幸こゆきもたじたじで、組んでいた腕や足はほどけ、顔を真赤にさせ、もじもじしている。


「ここじゃ恥ずかしいから……家でなら……」


 教室でこんな小幸こゆき、見たことない。

 女子4人はパーっと花咲く笑顔を浮かべて、小幸こゆきのもとから去っていった。


「じゃ、放課後、約束ね」

「やった」

「楽しみ〜」

小幸こゆきちゃん、かわいい」

『ねー』


 なんかすごいのを見た気がする。



 文芸部室でひとりの時間を終え、家に帰った。

 今日はもう、小幸こゆきには会えないだろう。


 夕飯は適当になんか作って済ませるか。

 小幸こゆきと一緒に料理をするのが日課となっているため、材料は揃っている。

 そんなことを考えながら、家の扉を開ける。


大知たいち、おかえりなさい」

「お風呂にする?」

「ご飯にする?」

「それとも――」

『わ・た・し? キャー』

「ちょっとやめてよ、恥ずかしい」


 クラスの女子4人と小幸こゆきに出迎えられた。

 小幸こゆきには合鍵を渡しているからいても不思議ではないが、不意打ちをくらった。


「はいはい、入って入って」


 女子の1人に背中を押され、部屋の中に押し込められる。

 部屋にあるローテーブル前に腰掛けさせられる。

 ローテーブルの上には菓子や飲み物が散乱していた。


「まさか、ずっと俺の家にいたわけじゃないよな?」

「ずっとじゃないよ。小幸こゆきちゃんと話してたら、大知たいちの部屋の合鍵持ってるって話になって。せっかくだから驚かしてやろうと」

『ねー』


 この4人、息ぴったり過ぎだろ。


「なんで帰ってきたのよ、大知たいち

「いや、ここ俺の家!」

「さーさー、話を聞かせてもらおうかー、大知たいち


 それから俺は女子4人による嬉しくも、恥ずかしくもある質問攻めにあった。

 俺の部屋にクラスの女子が5人もいる状況は落ち着けるはずもなく、自室であるはずなのに緊張しっぱなしだった。


 こういう時の女子の勢いを止めるすべを知ってるやつがいたら今すぐにでも教えてほしいものだ。



「じゃあね」

「また明日、学校で」

「また話、聞かせてね」

「お邪魔しました」


 女子4人は嵐のように来て、嵐のように去っていった。


「疲れたね」

「だな」

「今日の配信どうしよう……」

「俺も執筆が……」


 ふたりしてぐったりだ。

 こんな大人数でわいわいしたのはいつぶりだろう。

 中学生時代からボッチを極めていたからな。


 ――ピンポーン!


「誰だ? こんな日に」


 重い腰を上げ、呼び鈴に出る。


「はい!」

「母ですよー」


 そういえば今日来る日だっけ。


「それじゃ私、戻るわね」


 そう言って、ゆらゆらと小幸こゆきが外に出ようと扉を開ける。


「ちょっと、待っ――」


 ガチャッ!


「あら?」

「あ……」


 疲労ゆえだろう。インターホンが鳴ったことを小幸こゆきは認識できていなかったらしい。


 小幸こゆきと母が対面し硬直する。


大知たいちくん? このお嬢さん誰? 大知たいちくんの彼女? もしかして一人暮らししたいって言い出したのはこれが理由?」


「はじめまして、根元ねもと小幸こゆきと申します」


 それから質問攻め第2幕の幕が上がった。



 母が帰り、ふたりしてぐったりしている。


「さすがに今日の配信はいいかな」

「俺も諦めた」


 ふたり笑いあい。

 幸せな雰囲気が部屋に充満する。


大知たいち、ありがとう」

「こちらこそ、小幸こゆき


 ふたりで歩む未来はこれからも続いていく。

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転校してきたツンデレな彼女はどうやら俺が好きなVTuberらしい 越山あきよし @koshiyama

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