第3話 女騎士を待たないまま旅に出る
「旅に出る!?」
「いろいろあってそうなった。正直外には出たくないけど断れない事情があってな。うん……」
「森にだって今でも行きたくないと駄々をこねるアストが旅なんて出来るわけないじゃないか!? やめておきなよ!」
「いろいろ事情があってな。うん……」
「シリウスってアストが呼んでたこの人が原因?」
「人を疑うなんてひどい話だな。まあこの場合はお前の推測が正しいと認めておくが」
「やっぱり!」
どうしてこうなった。
「この村に来る女騎士が来る前に前倒しで旅に出るぞ」
原作修正するぞ、と言った後ラスボスが開口一番提案したのは女騎士ヒロインが来る前に村を出るというものだった。
「何でです?」
「星の子の成長のためだ。ベガの奴に気に入られて庇護下に入られれでもしたら星の子の成長が阻害されてしまうではないか」
「なるほど」
この人プロキオンを育てて戦いたいんだなということは分かった。じゃあ女騎士ベガは確かに邪魔か。
女騎士ベガ。金髪碧眼の可愛い系が好きなショタコンである。確かプロキオンの容姿が好みだと言っていた。彼女に見初められて小姓として王都に向かうというのが序盤の展開なのだ。その際アステリオスとは別れる。見初めたのはプロキオンだけだったからね。この人がそばにいたらたぶんプロキオンの代わりに戦闘はこの人が行うことになるだろう。つまり成長の機会が少なくなる。
「プロキオンが旅に出ますかね?」
「ある意味簡単だ。出る理由なら作ってやればいい」
「はぁ」
それで何で俺が旅に出るって話になるんだよ! いや、プロキオンを旅に出させるだけなら俺は村に置いて行ってもいいんじゃないか? また会おうとか言って別れてもいいじゃないか?
「ほし、プロキオンよ。二人で少し話がある」
「え、嫌ですよ。何で怪しい人と話をしないといけないんです?」
「アステリオスのことだ。お前には重要な話だろう」
「……まあそれは確かに」
「では行くぞ。アステリオスの行く末にかかわることだ」
行く末ってなんだよ。俺実は死亡フラグかなんか立ってたりする? 気になるんだが。でも聞き耳建てたら普通に殺してきそうだからやめとくか。星をぶん投げるやつだからな。
「何ですか? アステリオスのことって」
今まであったこともない不審な美形の男にプロキオンは身構えていた。大事な幼馴染を引き合いに出されてのこのことここまで来てしまったが正直来たくはなかった。
「お前も共に旅に出てアステリオスの面倒を見るのだ」
「いや、それは村を出なくてもできますよ?」
「アステリオスは臆病な男だな」
「そうですけど何か悪いですか?」
「悪い。あやつは見た所もうこの周辺の森の魔物は余裕をもって討伐できる力を持っているだろう。お前もそれは分かっているはずだ。なのに心がまるでついて行っていない。体の出来と心の成長がかけ離れているのは良くない。お前もわかっているはずだが?」
「わかって、います。だから毎日連れ出して少しでも魔物を怖いと思わなくなるようにと」
「だから街に出るのだ。街には魔物と戦う冒険者もギルドを拠点に多く活動している。それらの姿を見せて自覚させるのだ。あれ? 自分はひょっとして魔物を怖がるほど弱くないのではないか? と。魔物と無理やり戦わせるのでは無く他人と比較して自分の強さを自覚させるのだ。あれの強さはすでにその辺の冒険者よりはよほど強くなっている。なのに心がその強さと大きく乖離している。これは肉体と精神のつり合いが取れずにいずれ良くないことになるだろう。だから街へと向かうのだ。アステリオスのためにお前がそばで見守りながら自分の事を自覚させるため村を出る。お前はアステリオスを愛玩動物のように飼いたいだけなのか?」
「愛玩どうぶっ……あ、いやもちろん成長してほしいと思いますよ。そうです、確かに必要なことかもしれませんね」
一瞬興奮に震えたのが見えたので言葉選びを間違ったかと不安に思ったが一応大丈夫だったようで久しぶりにシリウスは安堵、というものを覚えた。
「そうだろう。心と身体の成長度は離れすぎていてはいけない。何度も言うが今のあやつはあまりよくない状態だ。分かっているな?」
「もちろんわかっています」
分かっているはずだ、とさも常識を理解しているのは当然という意識を押し付けるやり方は詐欺師のようだな、と少し微妙な気分になった。
「アストはもう少し広い世界を見た方がいいと僕は思うよ。本を読みたいって言ってたよね? 街に本でも読みに行こうよ! 僕もついていくから!」
何で意見くつがえっているの? ラスボスさん変な洗脳でもした?
楽しそうにしている星の子と何故急に意見を翻したのか疑問の表情を浮かべている幼馴染の男。
「あれを困難な状況に放り込めば星の子はそれを解決するために奔走する。成長のためにはいい触媒だ」
殺して復讐心に駆り立てるという手も考えたがおそらくあれは生かして長期的に成長のための餌にした方が伸びしろがあると判断した。策をめぐらせて絶えず争いの渦中に置けば星の子だ。いずれ自分に並ぶほどの成長を見せる可能性はある。
「困難に磨かれ私に並ぶ力をつけるといい。星の子よ」
それに中身はともかく肉体の素質だけなら幼馴染の男もかなりのものだ。最終的にはそれなりの力にはなるだろう。
「その時を楽しみにしているぞ」
そう言っていずれ世界を滅ぼしうる災厄になりうる男はまずはどんな困難を与えるかを考え始めた。とりあえずは兄貴分の男とやらとは遭遇しないようさせておこう。
打ち切りバッドエンドの不人気アニメのモブ友人キャラに転生したけど死にたくない @noskilldenoyoung
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