第2話 ラスボスとエンカウント

 ラスボスとエンカウントしました。


 ……言っておくがステラアデプトで幼少期にラスボスとエンカウントしたなんて描写はない。なのに急に現れてこんなことを言い出したのだ。 ラスボスに序盤で唐突にエンカウントとかホラーにジャンル替えしたようなものじゃないか!?


「星の子がまさか存在するとはなおもしろそ


「シリウス=カンタータじゃないか……」



 なぜ俺の名前を知っている?」


 あ……終わった。ぐるりとこちらに視線を向けて射貫くように見つめている。終わった……もう駄目だ。うっかり知らないはずの名前を言ってしまった。完全にバカそのものだ。



「い、いやそれは…………ああ! くそ! もうどうにでもなれ! プロキオン、ちょっとこのおじ、お兄さんと話があるから少し向こう行っててくれないか。たぶん殺されない……はず。たぶん」

「……つまらない話でなければな」

「僕も行くよ」

「いや、この人だけに伝えないといけない話なんだ。だから頼む」



 納得はしなかったけどラスボスの威圧はやっぱり凄かったので結局プロキオンは悔しそうな顔をしながらもうなずいてくれた。






「お前は生まれ変わる前の記憶があって前世で見た物語の一つに俺が首魁として登場していた? 最後には星の達人となって世界を滅ぼしただと?」

「つまらない世界だな。とか言った後『この世界は私の掌の上にある』とか言って世界丸ごとぶん投げて滅ぼしてました。たぶん張り合いのある敵が出てこなくて世界に飽きたのかと」

「確かに私はここ数十年は刺激もなく退屈を覚えていた。だがいくら何でもこの世界は私の掌の上にあるなんて恥ずかしいことを言いながら世界を滅ぼすなどあるわけがないだろう」


 いや、原作ではやってましたよとは言いたいが死にたくないのでやめとこう。


「もしかしたら別の平行世界を観測できる能力者が別の世界のあなたを観測してそれを自分がひらめいた物語の構想だと思い込んだ可能性はありますよ。たぶん別の世界のあなたは退屈で退屈で仕方なかったんですだからもう滅ぼそうと決めたんじゃないかと」


「だが星の子を見つけた。少なくともその時点でそこまで退屈は覚えないはずだが」


 そこがおかしいんだよな。


「この年であなたとは会った描写ないんですよ。主人公のプロキオン、あなたの言う星の子と会った描写がない。いや、まあ覚えている物語ではプロキオンは気弱で力も弱かったんですけどね。俺が魔物におびえて引きこもったんですけどたぶんそれをなんとかしようとしたからですかね。引きこもりを何とか外に連れ出そうとする母親みたいな性格になってしまいました。何か力も強くなってるし明らかに覚えている物語よりずっと力が強くなってるんですよね」


いや、明らかに原作終盤より強くなってるわ。原作のプロキオンヒロインと基本イチャイチャしかしてないぞ?


「それだな。おそらくお前の読んだ物語の中の星の子は覚醒していなかった。だがこの世界の星の子はお前の性根を叩き直すために己を磨いて自らの力を覚醒させたのだ。そしておそらく物語の私は未覚醒の星の子に気づかず通りすがり、私は覚醒した星の子に気づいてこうして邂逅した。おそらくそういうことだろう」



 ぐぁあ! 俺のヘタレが原作完全に変えてるじゃないか! あれ? でもラスボスの飽きが伸びたっぽい感じになってるから悪くない?


「なるほど……ということはこの展開は俺が魔物におびえて引きこもろうとしたから起きてしまったということになる?」

「そうだな。お前の根性の無さが星の子の覚醒を促したのだ。誇るがいい」

「それは誇って大丈夫なことですか?」


 それは情けなさを表すだけのエピソードなのでは? と思ったが怖かったので言わなかった。ただ、ラスボスのシリウスは原作ではあまり見なかった好奇心をうかがわせる目つきをしていた。原作だと大体つまらなそうな表情しかしていない。いいことか悪いことかは知らない。


「取りあえずお前の覚えている物語を思い出せるだけ語れ」

「はい」


 怖くて断れるわけがないので全てゲロった。


「ひどい物語だな。私なら脚本を八つ裂きにしているところだ」

「脚本がゴミだと言葉で八つ裂きにされまくってましたよ。言葉と実際の八つ裂きがどちらがつらいかは分かりませんがたぶんこの先別の物語を書いてもあの糞展開を描いた脚本とことあるごとに言われて揶揄われるんじゃないでしょうかね」

「……ある面では実際に八つ裂きにするより酷ではあるな」



「はぁ……あまりにひどい脚本だ。こんな出来の悪い物語の首魁役など虫唾が走る。私自身が物語を修正してやろうではないか」

「は?」



 ステラアデプトが糞アニメだといわれたのはいくつか理由がある。


 星や月がないとかいう設定が受けなかった。というより真っ暗な空の書き方が気味が悪いと不評だった。


 主人公を美少女めいた男の娘にしてヒロインとイチャイチャさせて疑似百合で百合好きを呼ぼうとしたが疑似百合やるくらいなら最初から女の子主人公にしておけよと不評だった。


 兄貴分キャラが村から出た後に合流するが大変な戦いは兄貴分ばかりにやらせて主人公はヒロインとイチャイチャしてばかりだったのでそれならもう最初から日常系しとけよと叩かれた。と言うより兄貴分の方が憐憫補正で人気が出た。主人公いらないという感想が毎回大量に出る。主人公のはずのプロキオンは最後までまともに戦わなかった。本当は戦わせて成長させるはずだったらしいが兄貴分の方が人気が出たのでイチャイチャ担当にシフトしたとか言っていたがそれが主人公不要論になったので別にいい決断でも何でもない。


 百合至上主義者を名乗る過激派百合厨(≠百合好き)によって男の娘は百合に入らないと叩かれる。百合好きは何も言わずに大半が去る。男女恋愛好きにも疑似百合要素が受けずに結局恋愛目当ての層のほとんどに受けなかった。


 あまりに叩かれすぎて展開がやる気のなくなった脚本によってとんでも展開が8話から毎回出るようになる。糞アニメ好きが集まってくるようになるが人気自体は上がらず。


 星の達人になったラスボスが世界を持ち上げた描写をした後ぶん投げて世界を崩壊させる意味不明エンドを迎えさせる。悪い意味でバズった。



 こんなラスボスがこの糞脚本自ら修正するのかよ……








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