そっと思い立つ
碧科縁
心情記憶の森
すぐ背後まで闇が迫っていることに気づいたとき、どうしますか。
遠い過去はもちろんつい数年前のできごとまで思い出せないのを知った時。主メモリの中に巨大な虚無空間が存在すると悟った瞬間。
振り返れば大地まで飲み込む暗黒の
それでもまだ、流れゆく雲海に浮かぶ望月が来た道を優しく照らし、反対側では冷たい光を放つ星の海が未来に
薄墨で描かれた雲を透かして見れば、
忘れたい記憶は太古に組み込まれた指令に従い幾度も
どれも自分の体験とは違うかもしれない。何よりその時に想ったこと、感じたことがそこには皆無。
楽しかった思い出、うれしかった会話、感激したこと、学んだ膨大な知識、正しかった選択、それらを格納したはずのメモリはすぐ近くまで失われている。
使われない経験値はどんどん消えていく。
簡単な漢字すら手書きしようとすると指が宙を
会話の途中で言葉に詰まる。もどかしくも背筋が凍る瞬間。急ぎメモリを
あれほど読んだ本の内容も、ちょっと会わなかった人の顔と名前も、幾度となく聴いたに違いない音楽や歌も、映画あるいはアニメの感動的なシーンも、なかなか浮かび上がってこない。
視聴済みのはずなのに結末間際まで思い出せない。積み上がった書物に封じ込められた物語だって何度でも楽しめちゃうけれど、そのたびに残る切符の五千分の一が払い出される。
これではいけない。記憶の森が枯れつつある。
虚無に追いつかれ飲み込まれる前に何とかしなければ。この世を照らす光の下で
ならば、遅まきながら外部メモリを増強しよう。これからは、外に森を育み
そっと思い立つ 碧科縁 @yosuga1047
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