第三話 ㊙ 未知ワールドへ、ようこそ!

鮎風遊

第三話 ㊙ 高原料亭:真赭(まそほ)の芒(すすき)

 ㊙ 未知ワールドのプラン2『㊙ ビーナスの森』の訪問を終えて、私・洋一と露払いの助、別称ツユスケは薄暗いアパートへと帰って参りました。

 その姿は、疲れ切ってる私はヨタヨタと。一方ツユスケは内蔵された核融合バッテリーでエナージーは満タン。そのせいなのでしょう、いつものソーラン節を軽く歌いながらの御帰宅でした。

「♫ 男度胸ならのからだ 波に上 チョイ ♫ ヤサエーエンヤーンサーノドッコイショ ♫ ~~~ ♫」と調子良す過ぎ……、でんがな。

「もう止めてけれ!」と懇願するエネルギーも私にはない。ただただ沈黙のままドアを開け、ヨッコラショ、ヨッコラショとDKへ。それからぼやけた灯りを点し、何はさておき冷蔵庫へと。

 後はギンギンに冷えた缶ビールを取り出し、それをデコチンに当てる。その後はシュパッと開けて、グイグイと、――、無言で。

 これで少しばかりですが、体力並びに魂が蘇り、ホッ! そしてドサッと椅子に着座。それからおもむろに天を仰ぎました。

 まさにその瞬間です、泡含みの黄金色の液体を天井に向かってブーと吹き上げてしまったのです。私の毛の生えた心臓までもが飛び出したのではなかろうかと思われる衝撃&驚愕。こんな事、今までの我が人生にあったでしょうか? 答えは

 そうなんですよ、その理由わけとは……、天井近くにフワフワと浮かんではったのですがな、――、が!!

 ツユスケさえもが得意の歌を詰まらせ、後はただただ目を丸くしての硬結。そして30秒の時が刻まれ、やっと私は口周りの液体をタオルで拭き取り、「忍者フンワリ君、約束を守ってくれたんだ、だけどこんなに早くとは思わなかったよ、ありがとう」と話し掛けました。

 するとフンフンと空中で頷く仕草。そして球体の一部を絞り、人差し指のような形状を作り、なんと……、私の手の中にある缶ビールを指差すじゃありませんか。その上にですよ、人差しフィンガーの先っちょの腹を上にして、と折り曲げやがるの。

「おいおいおい、フンワリ君、缶ビールをくれってことか?」と訊くと、球体の表面にしわが寄り、まるで笑顔に。それからウンウンと頷きはりました。

 ここまで要求されるともう仕方がない。冷蔵庫から缶ビールを取り出し、球体から突如伸びた手に渡してやると、それを球体表面に作った口へと持って行き、グビグビと。その後空き缶を床にポイと投げ、元の球体に。

 それから暫くすると球体の色合いが少し赤みを帯びて来て、後はプカプカと。いやいや少し違って、ヨレヨレと浮かんでやがるの。

「お前、結構おもろいヤツだな」と私は一旦吐きはしましたが、少々不満。そこで言ってやりましたよ、「おい、フンワリ、礼はないんかい!」と。

 すると忍者フンワリ君、ちょっと頭を下げるような仕草をして……、!!

 なんとビーナスの森で出会った森の妖精に化けたのですよ。そのフェアリーが羽を羽ばたかせ私の肩へと停まって来ました。

 私は「いいじゃないか、メルヘンチックで」と呟きながら肩の妖精の顔を覗き込みますと……、大、大、大、

 なんと、なんと、それは奈那ちゃんじゃありませんか。不覚にも私は叫んでしまいました、「奈那ちゃん、大好き!」と。

 それから抱きしめようと手を伸ばしたら、奈那ちゃん妖精はスーと消え、元の球体に戻りやがるの。それからというものは我がボロアパートの一室、その天井近くをフンワリフンワリと浮遊ばっかり。

「阿呆にすな~!」、てな事ではありますが、これは……、実にオモロ~イ!

 こうしてツユスケとフンワリ君との、予想をはるかに超えた温もりのある暮らしが始まったのであります。

 もちろん私が出勤してる間でもツユスケとフンワリ君は予想外に喧嘩もせず仲良くしてるようです。そして帰宅するとフンワリ君はフワリフワリと空中に浮かんでましたし、またツユスケはいつものソーラン節を歌ってたり、電子版将棋に挑戦してたりのお気楽暮らしでありました。


 そんなの2週間が経ち、早朝ヤッチンが奈那社長を乗せ、いつものボンボロボンのSUVで私とツユスケのピックアップに来てくれました。それはもちろん『㊙ 高原料亭::真赭まそほすすき』を訪問するためです。

 ただし忍者フンワリ君はアパートで待機。というのもケイタイの位置情報で私たちの到着をまず確認し、後は彼の得意技・時空間移動で現地で合流することと致しました。


 さてさて真赭まそほすすきという名の高原料亭、その名の真赭というのは赤い色のことです。具体的にはススキの穂が帯びたほのかな赤みです。

 と言うことは、その高原料亭はきっと淡赤うすあかのススキに囲まれた中にあるのだろうと想像しました。

 乗車後、奈那さんの亡き父・金太郎さんのノートに書き残されてあった地図に従って、2時間車を走らせました。そして木々に覆われた空き地へと。多分この奥に広大なススキが自生した高原が広がっていることなのでしょうね。

 こう当たりを付けた私たち、早速奈那社長からツユスケに業務命令が。

「露払いの助、あなたの御頭おつむトンボを飛ばして、現地確認して来て下さい」と。これにツユスケは「マイ・プリンセス、合点承知の助でやんす!」と即答し、頭から回転羽根を出し、後は頭部のみがブルブルンと離体。そしてあっという間に天高くに。

 これを目で追い掛けていたヤッチンが突然声を上げました。

「おいおいおい、ハヤブサがヤツに向かって急降下で攻撃して来てるぞ、その時速は300kmだ、だけど見てみろよ、ツユスケ・トンボはヤツより早いじゃん!」と。奈那ちゃんも私も木々の合間からそのスピードが確認できました。

「ワアー、ツユスケ君、格好いいわ、やっぱり持つべき者は優秀な部下ね」と奈那社長は私たち野郎をチラ見し、後はご満足のご様子。私はこれに「やっぱ1千年先を行く技術で作られたAIロボット、スゴイよな」と嫉妬の独り言を。

 これを耳にしたヤッチンが「ひがむな! ヨッチンには貧乏に耐えられる宇宙一の忍耐力があるじゃねえか」と傷口に塩を揉み込む励ましを。これに奈那ちゃんが「その通りよ、洋一さんが生き延びてる事自体が……、宇宙の奇跡なのよ」と岩塩増し増しセリフを。

 私はプッツン、「もう帰る!」と言い掛けた時に、ブーン、ブーンと羽音が徐々に大きくなって来ました。こちらに御帰還のようだ。そう思ってる内にツユスケの頭部ドローンはすんなりカッチャンと着体。そして直ぐさま報告が。

「奈那社長、ここの林を抜ければ一面ススキの野っ原があります、そしての方角、半里先に澄んだ池があり、その水辺に朽ちかけた屋敷がありました」と。

 私はこれに「またまた尺貫法かよ、俺はもう分かるぞ、北に2kmって事だろ、AIロボットだからといって現代ホモ・サピエンスをなめんなよ!」と言ってやりました。これを耳にした奈那社長、「あらっ、そんなに賢かった?」とさらりと疑問符を。

 そして間髪を入れず、「ところで、ツユスケ、そこに人はいたの?」と問われました。これにツユスケは「くたばり気味の高等生物、2匹を確認致しました」と。

 この報告にヤッチンと私が「ホッ、ホー、面白くなりそうじゃないか!」と。するとほぼ同時に奈那社長から「そこへまず行ってみましょう、ツユスケ君、道案内をよろしくね、さあ、皆の者、出発じゃ!」と命令され、ときの声「えい、えい! えい、えい!」と発せられました。

 これに一同は「おう、おう、おう」と三回応え、その後露払いの助を先頭に私たち一同第一歩を踏み出したのであります。


 木々の合間を100mほど前進しますと突然視界が大きく開かれました。前方には真赭まそほすすきの高原がダツ・ダツ・ダーと広がっていました。すぐに私たちはそれらをかき分け小道を見つけ、ツユスケの報告通り北へ北へと歩みを進めたのであります。

 そしてほぼ2kmの地点に到着。そこは少し高台で前方が開かれ、一望無垠いちぼうむぎんでありました。さらに焦点を絞りますと、確かに300mほど先に青く澄んだ碧水へきすいの池があり、その水際に朽ちかけた屋敷が確認できました。

 ここまではツユスケの報告通り。されどもそれになかったのは、池中央に小さな島があります。そこには高さ10m以上あるでしょうか、一本の木、いや不明ですが、空へと伸びていました。

「ツユスケ、1千年先を行くロボでも見落とすことあるんだな」と言ってやりますと、「スンマヘン、弘法も筆の誤り、『Kobo was also a mistake.』の最初の『K』を『R』に変えて下され、洋一殿」とどこまで行っても屁理屈野郎だ。

 そんな時でも冷静な奈那最高経営責任者兼社長は「皆の者、何はともあれ前進あるのみぞ、栄光は我らに輝く!」と素晴らしい決断を。だけどね、そこはかとなく漫画チックなんだよなあ。

 しかれども私たちはワンチーム、「仰る通りです」と拳を天に向かって突き上げて、疲れてた足を余計にカックンカックンさせながら、かつヨロヨロと真赭の芒の坂を下りて行ったのであります。


 池の水際に建つ古びた屋敷の前までやっと辿り着きました。すると、何とツユスケの報告通り、2匹の生物が……。その風貌は、目は紺碧色、耳は三角形でピンと立ち、口はトンガリ、肌は銀色、背丈はツユスケと同じくらい、つまり5尺程度、しかも尻尾もあります。

 実にワイルド! されども充分高等生物なんでしょうね、2匹が門口にある縁台に座ってチェスをやってました。

 私はこんな場面で似合うのは『玉より飛車を可愛がり』のだろと思いながら「よっ、名人、大変お取り込み中ですが……、ちょっとお尋ね」と声を掛けました。

 しかれどもこの問い掛けを完全無視しやがるの。しばしの冷たい沈黙が。

 そしてそれを破ったのが老いた方の生物、その一匹が発声を、「チェックメート!」と。これに若い一匹が「リザイン」と返し、頭を深々と下げました。

 私は邪魔をしてしまったかなあと反省し、ただただ突っ立っていました。すると年若が声を掛けてくれました。「探してるのでしょ、高原料亭:を」と。

 私は図星を刺され、即座に「恐れ入谷の鬼子母神、そうなんですよ!」と大声で返しました。これにニコニコッとされ、若い一匹様が答えてくれたのです。

「よろしいですか、そこに池があるでしょ、それを反時計回りで一周しなされ、そうすれば、そこの場所にお目当ての料亭はありますよ」と。

「えっ、えっ、えっ?」 私たち全員、この案内に三回首を傾げました。その様子を見ていた老いた生物が「金太郎さんのお嬢さまですよね、お待ちしてましたよ、お父上からはどこまでねぶっても金太郎さんの顔が出てくる金太郎飴を頂いたりで、随分懇意にさせてもらいました」と恐縮するほど深々とお辞儀をされたのであります。

 ヤッチンと私は「おいおい、またまた金ちゃん飴が飛び出したぞ」と思わず吹き出すのをぐっと堪えてると、「その節は父が大変お世話になったようで、ありがとうございました」と奈那さんが礼儀正しく頭を下げられました。

 すると「皆さん、初めてでしょうから、私ども並びにこの地についてのザックリとしたオリエンテーションをさせてもらいます」と。

 これは嬉しい。「お願いします」と頭を下げると、私たちの前でスッと背筋を伸ばされ、次のような話しをしてくれました。


 皆さんはホモ・サピエンスですね。一方私たちは地球高等生物、『コンコン・サピエンス』です。

 起源種はこの地に多く住む『銀ギツネ』でございまして、そこの池の周りに広がる真赭まそほすすき高原で人類のような高等生物へと進化して参りました。

 現在の総生存数は――、過去、あるいは未来の世界にワープしている数も含め、ホモ・サピエンス風に言えば、約5万人ほどでしょうかね。

 そしてこの池はコンコン池と申しまして、真ん中にある島はコンコン島と呼んでおります。いずれにしてもここはコンコン・サピエンスの聖地であります。

 特に島で高さ10m以上に伸びた植物は真赭の一本ススキでありまして、時間の重要な芯になっております。

 ざっくりですが、以上です。


 この説明に私たち全員、????。

そこでヤッチンが声を上げました、「ちょっとジッチャン、さっぱり分りまへんがな!! で、……、質問!」と。

 すると老いたコンコンさんは「そうですか、ホモ・サピエンスさんの御頭おつむはコンコン・サピエンスと同レベルの……、でんな」とボソボソと呟き、「はい、どうぞ」と指を指されました。

 こんな所で喧嘩しても、<<Nothing will happen.>>

 ヤッチンはシレッと「池を反時計回りで一周しろとか、真赭の一本ススキが時間の芯だとか、一体どういう事ですか?」と尋ねました。

 これにジッチャンは「コンコン池を反時計回りに1周すると60年前の過去に、10周すると600年前の世界へと行けるんでんがな、反対に時計回りだと未来の世界へしっかりワープ、ね、どうだい、面白いだろ」と話してくれて、後はニコニコのしわくちゃに。

 これに微笑み返しをした奈那社長、「じゃあ、私たちは反時計回りの1周をして、60年前の高級料亭を訪問するということですね、オモシロ~イ!」と今度は満面の笑み。これにヤッチンも私も万歳して、ホッ! ツユスケはというと、またもやソーラン節をなぜか歌い出したのであります。

 こんな事態にコンコン・ジッチャンは首を傾げて、「お前たち? 念のため言っておくが、帰って来る時は、いいか、時計回りの一周だぞ!」と。

 優しいじゃありませんか。私たちは再会を約束し、奈那社長の発声「皆のもの、いざ出陣じゃ!」と。その後ほら貝と銅鑼どらの音が高らかに鳴り響き渡り、コンコン池、反時計回り一周へと踏み出したのであります。


 左に澄み切った池を見ながら、ツユスケ、ヤッチン、奈那社長、私の順、つまり社長を守りながら側道を一歩一歩安全を確認しながら歩き進みました。そして池の中央にある島、そこに天へと伸びる植物は確かに真赭まそほすすきでした。

 私が「ああ、あれが池の中心であり、時の回転軸でもあるのかもな」と呟くと、前の奈那ちゃんが「1周60年逆戻りって、昭和にワープするのよね、まだ生まれてなかったわ、だけど何かおもしろそう」と。私は少し不安の中で「そうだね」と返しました。

 それでも一歩一歩、そして約1時間掛けて辿り着いたのです、壁が弁柄べんがら色の威厳ある日本家屋に。そして大きな木製の看板に『高原料亭::真赭の芒』とありました。

「ここだわ、私たちが訪ねてみたかったのは、さあ、!」

 こう言い放って、奈那社長は先頭に立ち、玄関へと続く門道かどみちをさっさと歩き進まれました。私たちはその度胸に呆れながらただただ背後から付いて行くだけでした。そして大きな格子戸を躊躇ちゅうちょなくガラガラと開けらたのです。

 するとどうでしょうか、玄関の畳の間に銀キツネ似、きっとコンコン・サピエンスの女将おかみさんなんでしょうね。

 その着物姿は大変上品で、まず手を付いて畳にちょっと尖った口先が付くくらい深々とお辞儀をされました。そして仰られたのです。

「ようこそ、奈那お嬢さま、お父上からはいつか娘が訪ねて来るだろう、その時はよろしくと頼まれておりました、やっとお会い出来て光栄でございますわ」

 これに奈那社長が「ありがとうございます、短い滞在ですが、よろしくお願いします」と返され、全員深々と頭を下げました。これを受けて、女将は「さっ、真赭まそほのお部屋にご案内させてもらいます」と廊下を先に歩かれました。

 もちろん私たちは追い掛けたわけですが、背中越しに女将さんがサラッと仰られたのですよね。「お連れ様がお待ちでございますよ」と。

 これに私たち全員、ハテナ~~~???。

 やっと心を落ち着かせて、「お連れ様って、どなたですか?」と私が尋ねますと、女将さんはまずはホホホと柔らかく笑われました。その後、「どう表現したら良いのでしょうかね、とにかく部屋の中で……、フワフワと浮かんではりますわ」と。

 しばらく全員沈黙。その後、「宇宙絶滅危惧種の忍者フンワリ君、現時代での我々の位置確認した後に合流するはずだったのに……、60年の時を遡っての現位置確認だぞ、スッゲーなあ、あいつの時空間移動の忍者技!!」と。

 私が大声でこうリスペクトすると、奈那ちゃんもヤッチンも「スンバラシー!」と同意。 さらにですよ、私たちの1千年先を行くネアンデルタール人の技術で造られたAIロボット・露払いの助までもが珍しく「負けやんした!」と涙目で賞賛の声を発してやがるの。

 こうなると忍者フンワリ君に早く会いたい。私たち長い廊下を小走りで真赭の部屋へと。そしてふすまを勢いよく開けると……、私の安アパートにいる時のようにただただフンワリ、フンワリと浮かんではりました。

 これを目にした奈那お嬢さまが声を上げられました、「カワイ~イ!」と。

 するとビーナスの森で初めて出会った時のように森の妖精にささっと変身しやがって、後はヒラヒラと羽ばたき奈那ちゃんの肩に停まっちゃうじゃありませんか。これに奈那ちゃんの瞳からポロポロと……、幸せ涙が。

 正直これに私は強い嫉妬を感じました。だけどここはホモ・サピエンスの男の意地、ぐっと堪えて、「忍者フンワリ君、ここで再会出来て嬉しいぞ、お前の時空間移動の技は宇宙で一番だ」と褒めてやりました。

 するとフンワリ君の変身フエアリーはサッと消え、今度は私の肩にいつものフワフワ球体状態で乗っかって来ました、何の躊躇もなく。

 これを見たツユスケ、「おい、フンワリ、気を使いスギ薬局だよ、もっとお気楽に行こうぜ」と放ち、「♫ 男度胸ならのからだ 波に上 チョイ ♫ ヤサエーエンヤーンサーノドッコイショ ♫ ~~~ ♫」と聞き飽きたいつも歌を。

 これにフンワリ君はドッコイショ ♫ ドッコイショ ♫ と調子を合わせ、また天井近くをフンワカ、フンワカと浮かんでやがるの。

 一体こいつらは何なんでしょうね、理解不能的な奇妙奇天烈!


 こんな事があった広間、窓からは透き通った水をたたえるコンコン池が望める。その美しさに心を落ち着かせ、私たちは着座しました。するとコンコン女将が「本日の料理は高級スッポン鍋です、よろしいですか?」と。

 これに、「えっ、スッポンて、あの亀みたいなヤツ? スッポン、スッポンポンでっか……、食べられるの?」とヤッチンがオロオロとしてます。されど我が美人社長は「あっら~、ご馳走だわ、元気も出るし、よろしくお願いします」と。

 私はこの時初めて知りました、学生時代のお嬢はオムライス一択だったのに、今はゲテモノ趣向に大変身。ひょっとしたら雌狐?

 こんな疑惑の中で、女将は「スッポン鍋、承知しました、お酒は当地の大吟醸・コンコンがお薦めです」と。これに社長はニコニコッとされ、「常温コップ酒でお願いします」、だって。

 これってかなり年季が入ってますよね。私は「社長はオッサンか? あっちゃちゃ~!」と訳のわかない呻き声を上げてしまいました。

 それから手際よく大きな鍋が運ばれ、現れたのです、1時間半ほど前に見送ってくれたコンコン・ジッチャンとチェスで負けた若いのが。二人は白い調理ハッピを着てました。

「女将から急に呼び出され、追っ掛け60年遡って来あんした、私は板長、若いのは弟子です、ただ今よりこの場でスッポン鍋をお作りします」と説明があり、実に手際よく実演。

 それを眺めながら、奈那社長、ヤッチン、私、それとツユスケも忍者フンワリ君も大吟醸の常温コップ酒をと。気分は最高!!

 そんな時に「さっ、ホモ・サピエンスの皆の衆、召し上がれ」と。これを受けて一斉に鍋からスッポン肉を摘まみ上げる。実に美味。気持ち悪がってたヤッチンも「ムイ・サブロソー(muy subroso)!」と。

 私が「何じゃ、それ、麻雀か?」と訊くと、横からツユスケが「洋一は知らんのか、スッポン語じゃなくスペイン語の美味しいだよ」と言いながらガツガツと食いやがるの。横の忍者フンワリ君は銀キツネに変身し、素早く口へと。

 しかしながら暫くするとお腹も一杯、酔いも回ってきました。「ああ、美味しかったわ、ごちそうさまでした」と奈那社長が箸を置きました。

 もちろんヤッチンも私も満腹。酒も入り、疲れもあったのでしょう、眠くなって来ました。ツユスケと忍者フンワリ君には「良きに計らえ」と告げ、社長、ヤッチン、そして私は広間でゴロン。そして気持ちの良い眠りへと急降下。


 どれくらいの時間が経ったでしょうか? 多分1時間くらいでしょうかね、隣室が騒々しい。どうも小太鼓に三味線のようで、歌声も聞こえてきます。

「ウッセイなあ、静かにしてくれ!」と私が怒鳴ると、奈那社長もヤッチンも目を覚まし、「五月蠅いわね」、「やかましいなあ」と声を上げました。

 一体隣室で何が起こってるのでしょうか? 私は這いながらも襖へと。そしてそろりと開けてみて、その状況を目にした瞬間、私は大声を張り上げてしまいました。

「何じゃ、これ? オッタマゲー!」

 そこで見たものは、コンコン・サピエンスの芸者さんたちが小太鼓を叩き、三味線を弾き、それに合わせて別嬪べっぴんのコンコン芸者さんとツユスケが向かい合って大声を発しながら踊ってるじゃありませんか。

 その上にですよ、忍者フンワリ君がその周りをいつもソーラン節と違うリズムでフ~ン、ワ~カと4分の2拍子で回ってやがるの。

 後ろにいたヤッチンは「なんじゃらほい!」と吐き、奈那社長は知的に「what’s on earth is this?」と、いわゆる訳すとビックリ仰天!

 一体何が起こってるのだろうか? 私は心を落ち着かせ、よ~く聴いてみました。すると分かったのです、コンコン芸者さんとツユスケは昭和のお座敷ゲーム・野球けんをしているのだと。


 ♫ 野球するなら こういう具合にしやしゃんせ ♫ 投げたら こう打って 打ったら こう受けて ランナーになったらエッサッサー ♫ アウト セーフ ヨヨイノヨイ あいこでホイ ♫


 これを知った私たちはただただあんぐり口を開けて……、ポッカーン。そしてほぼ1分が経過し、我に返った私たち。まず奈那社長が口を開きました。

「そろそろ帰る時間よ、この辺でお開きにしなさい」とツユスケと忍者フンワリ君に命じました。

 これに1匹のロボットと1匹の宇宙絶滅危惧種は「嫌だ、嫌だ!」と駄々をこねやがるの。こんな態度に奈那さんは「これは業務命令です!」とちょっとお怒りのご様子。

 そこで止めとけば良いのに、ツユスケが「あれ、俺たちは奈那旅行社の従業員じゃありませんよ」ときつく反発。しかし奈那社長はさらりと、「その内働きたいと、頭下げて私のとこへ来るわよ」と。

 こんな言い合い、これはちょっとまずいんじゃないかと私は考え、「まあまあまあ……」と言葉を掛けかけた時、いつの間にか来ていたコンコン女将がツユスケと忍者フンワリ君に向かって仰ったのです。

「野球拳を気に入らはったようどすな、だけどあと5分で一座敷はお仕舞いえ、あんさんたちに『』と……、そないなこと言わせんといておくれやっしゃ」と。

 これに奈那社長もヤッチンも私も、こわ~! そしてツユスケと忍者フンワリ君、下向いてシュ~ン。

 こんなドタバタの後、私たちは帰り支度を。そしてそれを終えて、奈那社長は女将さんに「今回の私たちの訪問の目的は……」と語り始められたのですが、コンコン女将はその言葉を耳にし、「わかってまっ、すべて『㊙ ビーナスの森』のキンカンガル・デンガナさんから聞いております、同条件でこの㊙ 高原料亭::真赭まそほすすきを『㊙ 未知ワールド』のプラン3として使って頂いてよろしおすえ」と嬉しい回答をもらいました。

 これに社長と他全員が「感謝申し上げます」と頭を下げると、「金太郎飴でなく、心機一転の奈那飴もよろしくね」と女将は確認されました。これにツユスケが「合点承知の助! 僕は露払いの助でやんす」とまたまたこんがらがるようなことを言いやがるの。

 されどもコンコン女将はこんなロボットを扱い慣れているのでしょうね、「蟻ンコが10匹よ」と。これにツユスケは訳分からず、ただただポカーン。

 これにヤッチンが「お前、1千先の技術で造られたA1ロボなのに、分からんとは……、不良品か!」と責めるものだから、シュン。

 この事態を見かねたのか奈那ちゃんが「蟻ンコが10匹は、アリがトウよ、僕ちゃん、もっと勉強しようね」と傷口にさらなる粗塩の励まし。私はこれで暫くおとなしくなるだろうと期待し、実にうれしかったです。


 こうしたドタバタもあったのですが、「それではこの辺で引き上げさせてもらいます」と玄関を出ました。「今度はコンコン池を時計回りで1周よ」と女将の再確認がありました。

 その後は ♫ また逢う日まで 逢える時まで ~~~ ♫ の歌が大音響で流れ、そんな昭和を背中に受けて出発点に戻って参りました。

 すると古い屋敷の前でコンコン・ジッチャンと若いのが出かける前と同じくチェスをやってました。その様子を見て、60年前から今に戻ったきたのだと、ホッ!

 だけど奈那さんは違いました、社長業のさが、「参考のためお聞きしたいのですが、最近、㊙ 高原料亭::真赭まそほすすきを訪ねた人おられますか?」と再リサーチ。

 するとジッチャンはボソボソと、「う~ん、そうだな、そう言えば、1週間前に……、デコピンとその家族が来てくれたかの」と。

 これに全員絶句! そんな事態にまったくお構いなしのコンコン・ジッチャン、突如大声を発せられました。

「チェックメート!」 これに暫く沈黙をしていた奈那総監督は大声で発せられたのです。「満塁大ホームラン!」と。


 いろいろドタバタもあり~のの『㊙ 高原料亭::真赭の芒』から、忍者フンワリ君は現地に置き、奈那ちゃん、ヤッチン、私、そしてツユスケの三人一匹は帰路へと。

 その途中です、次の業務命令が下りました。

「よろしいですか、次の訪問地は……、当社への投資を充分して頂いてる町の相場師、山岸様ことヤッチンからたってのご要望がありました、ちょっと胡散臭いと思いますが、次の『㊙ 未知ワールドへ、ようこそ!』のプラン4、それは二週間後に、『㊙ セブンデイズ先島さきしま』を訪ねることと致します、よろしいか、それまでの間、身を清め、待たれよ!」と。

 これにヤッチンは涙ながらに「蟻が十匹に、さらに太陽が九つ!」と叫びました。私はヤッチンが一番の友達ですが、こいつは一体何を考えて生きてるのか分からなくなってきました。

 そこで私は親愛なる仲間への返事「OkeyDokeyオキドキ!」と返しました。すると自己中のツユスケはほぼオウム返しで「合点露払いの助」と叫んでました。もう複雑、訳分かりまへん!

 そんな疲れも加わったのですが、なんとか無事に安アパートへと帰ってきたのであります。


 プラン4、乞うご期待を!!


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

第三話 ㊙ 未知ワールドへ、ようこそ! 鮎風遊 @yuuayukaze

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

参加中のコンテスト・自主企画