現代版の、『笠地蔵』!

崔 梨遙(再)

1話完結:1200字

 僕は多田野太郎。アラフィフの『ぽっちゃりさん』だ。普通の会社員(バツあり、子供無し)。二年前に同じ職場に中途採用で入社した、10歳年下の灯里(あかり)さん(バツあり、子供無し)のことをずっと密かに想い続けている。


 僕にはコンプレックスがある。お腹周りを中心とした、この『でっぷり』とした贅肉だ。僕は、自分の体型にコンプレックスがあって、灯里を誘えずにいたのだ。


 40歳までは良かった。170センチ、59キロ、筋肉質だった。“多田野は脱いだらスゴイ”と言われた。しかし、40歳を過ぎてから、まさかの中年太り。今の体重は90キロだ。1.5倍になってしまった。


 その日は雪だった。僕はトボトボと家路を辿っていた。そこで、頭から雪が積もった地蔵を見つけた。僕は、『笠地蔵』のお話を思い出した。ここで地蔵を大切にしたら、何か良いことがあるかもしれない。僕は地蔵に積もっていた雪を払って、地蔵の手に傘を持たせて帰った。


 早朝、自宅のマンションで、ドシンという音がした。部屋のドアを開けると、米俵が置いてあった。そして、メモ。


“お礼 by 地蔵”


「違う! 違う!」


 僕は地蔵の所に行き、頼み込んだ。


「僕が欲しいのは、肉です! 肉が欲しいんです!」


 翌朝、ドアを開けると、スーパーの半額シールの着いた肉のパックが大量に置かれていた。牛肉、豚肉、鶏肉、“違う! そうじゃない! 頼み方を間違えた!”


 僕はまた地蔵の元へ行き、


「僕が欲しいのは体中の筋肉です! 全身を筋肉質にしてほしいんです!」


と、ひたすら懇願した。


 翌朝、鏡を見て驚いた。僕は昔のような痩せマッチョになっていた。“これでいいんだ!”、僕は昔のような自信を取り戻した。


 早速、灯里を誘った。人のいない廊下で。


「灯里さん、今日、飲みに行きませんか? よろしければ僕と付き合ってください」


僕はマッチョポーズで筋肉をアピール。


「すみません、私、『ぽっちゃり』した人が好きなんです」

「えー!」

「昨日までの、『ぽっちゃり』した多田野さんが相手でしたら、食事のお誘いもOKしたんですけれど……』


 僕は、また地蔵にすがりついた。


「お願いします! 元の体型に戻してください」


 翌朝、何の変化も起きなかった。ドアを開けたら、メモ。


“いい加減にしろ by 地蔵”


 遂に地蔵にも見放されてしまった。僕は自力で『ぽっちゃり』に戻ることにした。怠惰に過ごし、夜食や甘い物を食べ、贅肉を身に付けた。やがて、僕は元の90キロの姿に戻った。


「灯里さん、僕と付き合ってください!」


 誰もいない廊下で、もう1度告白!


「すみませーん、少し前から豚男さんとお付き合いしてるんです-!」

「えー!」


 豚男は、僕の同期の『アラフィフぽっちゃりさん』だ。まさか、豚男に……。



 落ち込んだ僕のデスクに、健康診断の結果の通知が置かれていた。僕は糖尿病になっていた。







  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

現代版の、『笠地蔵』! 崔 梨遙(再) @sairiyousai

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

参加中のコンテスト・自主企画