残酷! 逆らえぬ身体! 絶対服従の命令!

「ふふっ、ふふふ……ふへへ……! ふへっ、ふへへ……! ふひひ……! やった……! やっちゃった……! ついに後輩くんを私が開発した催眠アプリの毒牙にかけちゃった……! これで後輩くんは私の彼氏! 私は後輩くんの彼女だ!」


「……あ、あの、せ、先輩……?」


「やったあああああああああああああああああああああ!!! これで一緒にクリスマスしよ、って言える! 一緒にクリスマスパーティーしよ、って誘える! やったやったやった! 本当に頑張った私! うん! 偉い! 流石は私! 後輩くんと一緒に色々としたいが為に催眠アプリ開発して本当に良かった!」


 何て言えばいいのだろう。

 めっちゃ……言いづらい。


 『自分、催眠かかってないっすよ』って言ったら、なんか、うん……先輩が哀れな気がしてきた。


 というか、先輩の笑い声、ちょっと気持ち悪くて可愛いな。


「――いや、待った。催眠がちゃんと掛かっているかどうかの検証がまだだね」


 おっと、これってまさか?


「うん、後輩くんに命令してみようか。今の後輩くんなら何でも私の命令を聞いてくれるだろうから……うん! もしこれで後輩くんが催眠に掛かっていなかったらどうしようかな私! いきなり催眠をしてくる先輩だなんて嫌われて当然――あれ?」


 おっと、いきなり雲行きがやべぇ事になってるぞ?


「嫌われ……? 私、後輩くんに……嫌われる、の……?」


 おっと、もしかしなくてもこの先輩は泣き出すぞ?


「……うぇっ……ひぐっ……! やだぁ……やだよぉ……! 後輩くんに嫌われるのだけは嫌だよぉ……!」


 おっと、この先輩が俺に向ける感情が重すぎるぞ?


「……そんな事になったら後輩くんと一緒に心中するぅ……!」


 おっと、この先輩、メンヘラだぞ?

 

 というか、心中?

 え? もしかして俺が催眠に掛かっていない事がバレたら俺とこの人が死ぬの?


 ……マジかぁ、責任重大が過ぎるぞ、コレ……。


「大丈夫大丈夫……絶対に大丈夫……うん大丈夫……本当に大丈夫……脳神経に作用する透明光を見た相手はどんな命令でもぜったい遵守だし……家で飼ってるモルモットで何百回も試したし……命令させて無理やりに色々させたし……」


 おっと、この人、実験動物の代名詞であらせられるモルモットを飼ってるぞ?

 そういう人ってヤバイ印象があるんだぞ?


「……毎日健康でいてね、とか……これ身体に良いから苦いだろうけど食べてね、とか……絶対に無事に子供を産んでね、とか……怪我しないように楽しく遊んでね、とか……安らかに眠ってね、とか……うっ、うぅ……モルちゃん……! モルちゃん……! どうして老衰で死んだのぉ……⁉ 長生きさせられなくてごめんねぇ……! こんなダメダメな飼い主でごめんねぇ……! モルちゃんと過ごした13年間、本当に楽しかったよぉ……!」


 おっと、この人、余りにも良い人が過ぎるぞ?

 というかモルモットの平均寿命って確か5年から7年ぐらいじゃなかったけ?

 2倍じゃねぇか。

 凄いじゃねぇか。

 愛があるじゃねぇか。


「天国で見ててね、モルちゃん……! 私、頑張るから! そ、そういう訳で――こ、後輩くん!」


 そして、意を決したのであろう先輩は何度も、何度も、物凄く何度も瞬きと深呼吸を繰り返し、全身をぷるぷると震わせながら、スマホの充電が0になっている所為で真っ暗な画面を俺に突き出し、絶対服従という残酷極まりない命令を放った。


「わ、わ、わら、わたひ、私とっ! で、ででで……でぇぇぇぇ……! でぇぇぇぇ……でぇ! で……ででででで……! で……で、で、で……でぇ……! ………………と、して、くれませんか……?」


 放課後デートしようって誘うだけで30分も掛かるこの人、本当に何なの? 

 可愛いがすぎない?

 は? 可愛くてキレそう。


「あ、いや、えっと、その、あの……! 別にキミの予定の方が大事だからね⁉ 何か予定があるのなら言って貰えると……! そ、その……嬉しくはないけど……意見を言って貰えると嬉しいから……予定があるのなら遠慮せずに、言っていいから……私の事は気にしないでいいから……私は1人で帰るだけだから……後輩くんと2人きりでテストお疲れ様会をしたかっただけだから……それだけ、だから……」


「……別にいいですけど……」


「え。……いいの? 無理矢理に催眠されてない?」


「無理矢理じゃありませんけど」


「……えっと、キミ、催眠されてる?」


「はい。催眠されてます」


「……本当に?」


「はい」


「本当の本当に?」


「催眠されてます」


「絶対?」


「コレ絶対催眠されてる」


「やったああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!」


 そういう訳で。

 哀れなるモルモットと、悪の女科学者によるバレたら両方死ぬヤバいデートが始まる事になった。

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