Fランク探索者Lv999~幼馴染の女の子に振られた上、パーティを追放されたので最強を目指します~

島風

第1話幼馴染の女の子にフラれた上、パーティを追放された

俺は放課後、幼馴染の女の子に呼び出されて校庭の端の桜の木の下に急いでいた。


俺は如月きさらぎ伊織いおり、彼女は七瀬ななせつむぎ。


子供の頃からずっと一緒だった。


一生ずっと・・・そう自然に思えるくらい。


これから甘酸っぱい青春のイベントが待っているのじゃないかって?


それはあり得ない。


何故って、俺はつむぎへ一年前の今日、この日、告白した。


それから二人は幼馴染から彼氏彼女の関係になった。


なのにワザワザ呼び出されるイベントって・・・俺は彼女の言う言葉が既に頭に浮かんでいた。


桜の木の下に行くと、そこには黒髪が綺麗な、俺の幼馴染、つむぎがいた。


俺の彼女としては不釣り合いだろう。


彼女の容姿はこの学校でも一二を争う。


俺達は永遠に一緒。ずっと一緒、そう自分で勝手に思いこんでいただけなことは、これから起こることでわかってしまうのだろうな、と、そう思った。


そして、つむぎの口から出てきた言葉は予想通りのものだった。


「・・・私達、別れよう」


「・・・ああ」


「悪いのは私。わかってる。全部・・・私が悪い・・・。でも、私、キチンとしたいから・・・」


「あ、ああ、察しはついていたよ」


俺は涙を流していた。つむぎ、俺の彼女、俺の幼馴染。


わかってはいた。


だけど、俺の脳裏には子供の頃からの記憶が走馬灯の様に蘇った。


子供の頃、「伊織のお嫁さんになる」そう言ってくれた。


高校一年生の春、遅咲きの桜が散る頃、俺はつむぎに告白をした。


「やだ、伊織? 何をそんなに見つめてるの?」


「・・・ずっと、見ていた」


「・・・えっ?」


俺の胸はキュンとした。『ずっと見ていた』。その言葉の重さが自身にのしかかる。


俺にとってこれ以上ない言葉。


俺のつむぎへの気持ちの全て。


「つむぎ、好きだ。俺と付き合ってくれ、彼氏彼女として、駄目かな?」


「・・・」


つむぎは沈黙してしまった。


即答して欲しい。


だけど、混乱しているのか、すぐに返事を返してくれない。


何か考え込んでいる。


途端に不安に襲われた。


気がついたら、つむぎは泣いていた。


「どうして泣くの? 俺じゃダメ? ごめん。俺、変なこと言っちゃったかな?」


「・・・嬉しい」


俺を見上げながら、桜の花びらが舞い散る中、つむぎは柔らかに笑った。


そして、濡れ続けた目も拭わずに言葉を続けた。


「・・・私もずっと好きだった」


こうして俺達は彼氏彼女の関係になった。


付き合い初めて一ヶ月目の時、学校の帰り道、寄り道した河原のあぜで初めてのキスをした。


二人は将来を誓いあった。「何があっても一緒になろうね」つむぎはそう言ってくれた。


それが、このわずか三ヶ月の間に他の男に恋するようになっていた。


俺とは十五年も関わっていたのに!


「じゃ、私帰るから」


「・・・」


つむぎがそう言って帰ると、俺はつむぎの性格の悪さを初めて知った。


「ぎゃははははっはは!? 笑える!!」


「ほんと、こいつ、マジで泣いているわ!!」


「全部ばっちり、スマホで撮ったぜ! すぐに学校中の奴らに拡散だぁ! 底辺なヤツの惨めな姿はみんな涎を垂らしてまっているぜぇ!!」


気が付くと、周りに同じ探索者パーティのメンバー伊勢崎、宮本、秋山達が取り巻き、俺をあざ笑っていた。


二人きりじゃなく。公開処刑にしたのか・・・。


俺の中の幼馴染は、この時、どこかに消えてしまっていた。物理的にも、精神的にも。


「そういう訳だから、伊織、お前にはパーティから出て行ってもらう」


「そういう訳か。わかった」


いつの間にか現れたのは俺達探索者パーティのリーダー藤堂。


気が付くとつむぎが藤堂の傍に寄っていた。


・・・やっぱりそういうことか。


「お前、ハッキリ言われなきゃわかんないの?」


「私達Aランク探索者に対してあなたはFランクよ!」


「普通わかんないかな? 俺達とお前じゃ住む世界が違うってことによ!」


「まあ、そんな当たり前の事を指摘してやるなよ。失礼だろ」


一番失礼なのはお前だろ? 藤堂?


だが、俺のことをあざ笑う元メンバー達を後に残し、俺はフラフラその場を後にした。


帰り際に一瞬、つむぎの方を見た。


舞い散る桜の花びらを髪にまとい、とても綺麗だった。


あの時と同じ様に。


どうやって帰ったのか覚えていなけど、家へたどり着くと母さんの処へ行った。


「母さん、帰ったよ」


モノ言わぬ母さんの目には涙が伺える。


「・・・私・・・嘘・・・なんて・・・」


「母さん。また悪い夢を見てるんだね」


母さんは十五年前この世界に突然現れたダンジョンにおける探索者に関する論文を発表して、それがインチキだと決めつけられ、学会を追放されてしまった。


父さんは母さんを庇いきれず、それ処か自殺してしまった。


遺書には俺達の生活費のために・・・そう書いてあった。


お金なんて要らない。


父さんにずっていて欲しかった。


母さんを守ってあげて欲しかった。


父さんがいなくなってから、母さんが一人で俺を育ててくれた。


父さんが遺したお金だけでは心細いからと、母さんは毎日遅くまでパートで働いてくれた。


母さんは超一流の研究者で、国立の誰でも知っている研究機関の研究員だった。


そんな母さんがパートで稼ぐのはとても辛かった。


だけど、ある日、母さんがあの研究者、羽生真白はにゅうましろだと知れて、パート先を追われた。


それから何度か職場を変わったけど、同じ事の繰り返しだった。


気丈に振舞っていた母さんの心が壊れるのには大して時間はかからなかった。


それ以来、精神安定剤と睡眠薬は欠かせない。


今も睡眠薬で眠っている筈なのに、夢の中で虐められている。


「母さん、ダンジョンに行って来るよ。俺は必ず最強のダンジョン探索者になって、母さんの論文が正しかった事を証明してみせるよ」


俺はそう決意を新たにし、装備を整えるとダンジョンに向かった。

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