2日目 うろうろ移動中
九月某日。
母の車の運転で、お見送りの弟も一緒に、那覇空港へ出発した。持っていく鞄は、着替えなどが入ったキャリーバッグ、財布などを入れる小さめのリュックサックの二種類だ。
私の家から空港までは、結構な距離がある。移動時間は十分あるはずなのだが、思ったよりも道が混んでいたりして、間に合うかどうかハラハラしながら乗っていた。
気を揉みながらも、飛行機の出発時間の約十五分前に到着。さらに、空港内で少し迷って、スーツケースを預けて、チケットを提示して、何とか手荷物検査場を潜り抜けるまでいった。
待合室に座る。スマホの充電やばいけど、充電器を持っていない。しかも無料で準電できるところがある。うーん、リュックに入れとけばよかったかなぁ。代わりに本を読んでおくかぁと思いながら待機。
しかし、中々集合がかからない。可笑しい。もう、出発時間になるはずなのに……と思っていたら、どうやら飛行機の出発時間が三十分遅れているらしい。母のラインに、「出発が遅れる」と書いているうちに、さらに十五分に延びた。
やっと飛行機に乗る。私の席は真ん中の列の、また真ん中の席だった。これはトイレに行けないな、乗る前に行っておいてよかったと思う。
ふと、左の席を見ると、そこに座っている女性がポケモンGOをしていた。わ! 珍し! 私もやっているんです! とは思ったが、言い出せなかった。コミュ力ある人は、きっとここでフレンドになっていたことだろう。
そうこうしている間に、電子機器使用禁止令が出て、飛行機が走り出す。ぐんぐんとスピードを上げて、不意にふわっと飛び上がる。あの瞬間、私はかなり苦手だ。何回か経験しても、「浮いた!」という恐怖心が芽生える。
ここから、羽田空港に向けて二時間ほど空の旅。飛行機はどんどん高度を増していく。斜めになった機体が怖い。まだ上がる。これでもかと上がる。なんか足の下がギシギシ言っている気がする。エンジン音も気になる。人類が重力に逆らおうなんて間違っていたんだ! 怖い! 降りたい!
はた目から見れば、大人しく座っているだけだろうが、内心はずっとそんなパニック状態だった。よし、読書に集中しよう。そう思って『マリアビートル』を開いてみるが、一度読んだことがあるからか、あんまり没頭できない。
飛行機が雲の上まで抜けて、機体が水平になったら私の心も安定した。窓の外は直接見えないが、空が青いのは分かる。ああ、綺麗だなぁ。
機内サービスのお茶を飲んでいるときに気が付いた。私の右側に座るおじさんは、どうやら耳が聞こえないらしい。CAさんや、斜め後ろに座った席の同乗者さんと、筆談で話している。そういえば、さっきは気付かなかったが、ポケモンGOをしていた女性は、頭はすっぽりとスカーフを巻いていた。顔をはっきりと確認したわけではないが、ムスリムなのかもしれない。多様性の時代だなぁ。
そんなしみじみしたのも束の間、今度は、飛行機が下へ降りて、着陸態勢に入る。また斜めに! 怖い! でも、もうすぐ降りれるぞ、と思っていたのだが、そんな瞬間こそ、やってくるまでが長く感じるものである。早くしてーと辟易している内に、ゴンという音がして、飛行機の車輪が地面に着陸した。
羽田空港に到着。曇り空だが、涼しいほどではない。正午を過ぎていたので、東京駅内で昼食を摂ることにする。何にしようかなぁと、特に決めずにぶらぶら歩いているうちに、端の方で、蕎麦屋さんを発見、入店。鴨南蛮そばをいただく。鴨は好きなのだが、中々食べる機会がないから嬉しい。
さて、今度は羽田空港を出て、東京駅に行かないといけない。事前に調べてはいたが、改めてルートを確認する。羽田空港から東京駅に行くには、乗り換えが必要らしい。何で直通がないんだと、首を捻りながらも、交通費よりも行きやすさ、分かりやすさを重視して、電車を選ぶ。
ちなみに、私が取っていた新幹線のチケットは、17時出発だった。結構開けていたのは、お昼を食べる時間を入れたかったのと、どうせ迷うだろうから、余裕を持って行動しようと思ったから。そして、その予想は、悪い意味で当たってしまう……。
電車に乗り込み出発。スマホのマップを見て、電車の路線図の色が途中で変わっていたので、ここまで乗って、この駅で乗り換えかと思っていた。その通りに降りて、一度改札から出て、もう一度別の改札から入るという、謎のムーブをかます。それから、あとから来た電車が、さっき降りた電車とどうやら同じ道を辿っているらしいと知って気付く。これ、別に乗り換えいらなかったんじゃないの? と。
沖縄には電車はない。モノレールはあるが、私の地元では走っていない。バスもあるが、子供の頃から両親の車に乗っていたし、今は私も車持ちなので、全然使っていない。いや、でもこうして色分けしていたら、乗り換えだと思い込むんじゃないのか。グー〇ルマップの欠陥じゃないかとか思っているうちに、東京駅に到着。
新幹線出発にはまだ時間がある。実は、旅の目的の一つに、Kirby Café PETITに行くというものがあった。こちらは、東京駅内にあるカービィカフェの持ち帰りケーキ専門店である。私は、博多のカービィカフェに行くくらいカービィが好きなので、ここも是非にと思っていた。
さあ、またスマホのマップを頼りに、Kirby Café PETITを探すぞ! ええと、ここを曲がって、ここはまっすぐで、この位置に……何もない。見つかっていないのに、目的地に到着したからと、勝手にナビが終了する。ちょっと待ってくれ、まだ見つかっていないんだけどと、同じ位置を行ったり来たりして、気が付いた。階が違うんじゃないか、と。
まさか地下とは思わない。グー〇ルマップの以下略と心の中で文句を言いつつ、下に降りる。そこは別世界のように、色んなキャラクターのお店で溢れかえっていた。知らないキャラもいっぱいいるなぁと思いつつ、Kirby Café PETITを発見。少し並んだが、マキシムトマトのチョコタルトを購入した。
そんな風に、東京駅ぐるぐるしているうちに、新幹線の時間が迫る。しかし、今度は新幹線の乗り口が分からずに、またうろうろする。そして、ふとリュックを見ると、財布を入れている外側のポケットが空きっぱなしになっていたことに気付いた。よくよく見て、財布が無事だったのでほっとしたが、あんなに血の気が引いたのは、センター試験の一日目の後に、会場で受験票を無くしたかもと思った時以来であった。
ともかく、みどりの窓口から新幹線用に改札を抜けて、待合室を通り抜けてホームへ。いやぁ、ここまで長かった。新幹線の真っ赤な機体を写真に撮ったりしていたら、今度は、私の切符に載っている車両が見つからない。またしても泣きそうな気持でうろうろ。新幹線が二列に繋がっていて、その二列目の方だと知らなかったので、何とか見つけ出した。
窓側の席に座る。新幹線が走り出すと、結構な振動があることに驚く。テーブルの上で、チョコタルトを食して、外の景色を見たり、『マリアビートル』を読んだりする。地理に詳しくないので、東北新幹線が、茨城や福島ではなく、埼玉や栃木を通っていくのが不思議に思えた。
ゆっくりと空が紅から漆黒に染まっていくのを窓の外から見る。遠くの方で、なんという名前か知らないが、山が見える。『マリアビートル』の登場人物たちも、あの山を見たのだろうか、いや、それどころじゃなかったのかもしれないと考えているうちに、二時間の旅が終わる。
あんまり新幹線内では読めなかったなぁ。でも、トイレとかは確認できたからいいかぁと思いながら、下車。仙台駅に到着。ここもいろいろ降り口があって、また迷いながらも、私が最初に予約したホテルへ向かう。
ホテルは、小さなビジネスホテルで、あるホールにはちょっとした本のコーナーがある。でも、まずは自分の部屋に入る。もう夜なので、夕食を食べに行きたいが、疲れていて、なかなか行けない。
マップを見ながら、近くの居酒屋の筍ご飯がおいしそうだなぁとか思い、十一時過ぎてからやっとそちらへ行ってみたが、もうフードの時間は過ぎていた。隣の居酒屋に行き、そこでトマトのお酒と、サンマのアヒージョ、珍しくて思わず注文した和梨のキムチを肴にする。
久しぶりのお酒に少し酔っぱらってホテルに戻る。テレビとか見てから就寝。早速、だらだらしていたが、それがまさかその後も続くとは、思いもしなかったのであった……。
ぐうたら旅行記・仙台編 夢月七海 @yumetuki-773
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