ぐうたら旅行記・仙台編

夢月七海

0日目 旅行をする前から旅行です


 今の会社に就職してから数年目。貯金もそれなりにある。有給も増えた。そんな状況で、私はふと気付いた。

 これ、旅行できるんじゃね? と。


 そんな思い付きから、行きたいところを決めて、ホテルも予約して、あちこち巡ったのが、2023年のひとり博多旅をした。十分に楽しかったのだが、しかし、飛行機がめちゃくちゃ怖かったので、「年に1回が限界かぁ」と思った。

 そして、2024年。どこに行くか→仙台だな、というのは、すぐに決まった。


 理由は、私が中学生の頃から伊坂幸太郎さんの大ファンなのと、『ジョジョの奇妙な冒険』の特に第四部が好きだから。伊坂さんは仙台在住の作家さんで、仙台を舞台にした作品は数多くあり、『ジョジョの奇妙な冒険』の第四部の舞台は架空の町・杜王町だが、そこは作者の荒木さんの出身地である仙台をモデルにしているからだ。

 場所は決まった。では、時期はどうするか。最初は七月の祝日を挟んだ日にしようかと思っていたが、法事があるのでやめた。でも、真夏も大変だろうし、しかし、真冬は寒がりの私には無理だからと考えて、おそらく、丁度良い気候になっているはずの9月に決定した。


 次に泊まる場所。博多旅行の時は、ホテル内の本が置いてあるブックホテルなるものを知り、そこに泊まった。宿泊中に本が読めるのが面白かったし、値段もビジネスホテルの一面もあるので、さほど高くなかったため、今回の旅も仙台のブックホテルを調べてみることに。すると、2カ所見つけたので、そちらを利用しようと思った。

 最後は移動手段。普通に飛行機で仙台まで行こうかと思っていたが、ふと思った。東北新幹線に乗れば、『マリアビートル』の聖地巡礼も出来るのでは……? 『マリアビートル』とは、東北新幹線の「はやて」が舞台の、伊坂さんによる殺し屋アクション小説であり、以前にハリウッドで映画化もされた名作である。丁度、映画の後で買った文庫本を読み返していなかったので、新幹線内で読むことにした。


 さあ、これで、計画はできた。……頭の中で。こうしよう、ああしようと決めたのはいいのだが、肝心の予約をまだしていなかった。

 博多旅行の時に要領を得たので、ネットを使えばホテルも航空機も、あっさり予約できるのは知っているのだが、いざやろうとすると面倒くさい。昨日も予約できなかった、今日も予約できなかった、明日こそ予約できるだろうを1か月繰り返し、2か月繰り返し、やっと予約を入れたのは、旅行1日目から1か月切ったタイミングであった。ホテルの部屋や飛行機と新幹線のシートに空きがあったのが奇跡的だ。


 あとは、こまごまとしたものの準備だ。気温は沖縄とそんなに変わらなさそうだから、Tシャツを新しいのにしよう。そんな気持ちで何となく買ったTシャツが偶然檸檬の柄だったので、私は雷が直撃したかのように閃いた。

 『マリアビートル』には、「檸檬」と「蜜柑」というコンビの殺し屋が出てくるぞ……それなら、蜜柑柄のTシャツも買わないといけないのでは……? この謎論理に突き動かされて、私は地元のショッピングモールを徘徊。蜜柑柄ドンピシャのTシャツはなかったが、檸檬と蜜柑や色んな食べ物の絵が描かれたTシャツを手に入れた。ついでに、檸檬や蜜柑の絵が描かれたハンカチをそれぞれ1枚、檸檬と蜜柑の絵が描かれた靴下を色違いで2足、『マリアビートル』とは関係ないけれど、偶然見つけたスイミーのワンシーンを抜き取ったハンカチを1枚購入した。


 まだまだ準備はある。実は、ジョジョが好きだと書いた私だが、『ジョジョリオン』だけは、まだ途中までしか読めていなかった。理由は、買った19巻を無くしてしまったから。7月から買うのと読むのを再開し、急ピッチで全27巻のうち、25巻まで読んだ。中途半端な数は、26巻を仙台で読んで、最終巻はせっかくだから仙台で買おうかと思ったから。

 それから、キャリーケースに着替え、ブラシや日焼け止めクリームなど、身だしなみを整えるための道具セット、本などを入れた。忘れ物がないようにと、スケジュール帳の「欲しいものリスト」を旅行先にもっていくリストに変えて、何度も足りないものがないかどうかを確かめた。


 そうして前日の夜を過ごした私は、緊張しながら眠りについて、翌朝、出発日、旅行1日目を迎えたのであった。
















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