第4話

帰り道、薄暗い街路を足早に歩いていた。頭の中には昨日の帰り道の出来事と、飛山の言葉しかなかった。

考えていくほど、足取りは遅くなっていくが、その度にふと正気に戻ると前を向いて再び早歩きで道を進む。


ただ、昨日と同じ空気がそこには漂っていた。


電柱を見ると、当時の記憶が蘇る。異様な変化をした犬、それとも人間なのか、今でも理解しきれない。


突然、ある人間に目が留まった。何の変哲もない一般的な学生だろう。それなのに、何故か強いオーラのような違和感のような、言葉に出来ないものを感じた。


「これでも気づくのか…。」


それまで普通に歩いていただろうに、その人間は目の前に立ちはだかった。こちらを向いて、鋭い目つきをしている。


「どうしたんだ?声が出ないのか?昨日は何とか声に出せたのにとか思ってるだろ。考えてることはわかってるんだよ。」


上手く思考を読まれて戦慄していた。

予期していない事態に、口が開かなかった。


「お前は俺の手中から抜け出せない。これは必然であり、この未来を変えられない。精々、夢を見た気分で生きてるんだな。」





授業中、強い日差しが手元を照らしていた。窓から色が変わった葉っぱたちが風に揺られて地面に落ちていくのが見えた。学校の外、犬と散歩しているご老人が枯れ木を眺めているのが微かにわかった。


キーンコーンカーンコーン、と鳴ったチャイムは先生に向かって「授業は終わりですよ」と言い聞かせる。


「これで授業は終わりです。挨拶は要りません。明日は一限から能力学の授業なので、寝坊しないように。」


思考が停止した。

一瞬で、頭の中に多くの情報が入ってきてパニック状態となった。


「おい、鈴木野。鼻血出てるぞ。ティッシュやるから、これで抑えな。」


友人の三影は、友人らしく、僕の心配をしてくれた。

けれども、そんな事を考えてる暇はなかった。

初めて「人間の顔をした犬」を見た、飛山の論文について本人に聞いた、再び「人間の顔をした犬?」に出逢った。

それらの情報が押し寄せてきた。


これ程まで明確に矛盾に気付いたのは初めてだった。昨日、だと思っていた日から今日までの記憶。これは明らかに奴の力に他ならないことがわかった。

今までに抱いた違和感も全て、「人間の顔をした犬」と出逢ってからのことだった。

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