8 口内炎
喉の奥に口内炎ができた。伝わるだろうか、唇の端にできた口内炎でさえ痛みで満足に麻婆豆腐が食べられなくなるというのに。それが喉の奥に発生したのだ。何が食べられないとかそういう話ではない。最早、飲み物さえも凶器だ。さらには、自分で作り上げた唾液さえもがブルータス。自分の意思では製造を止められないのだから厄介だ。人間はこうも頻回に唾液を飲み込んでいたのかと発見に驚きさえする。口に溜まっていく液体を、真綿で首を絞められる速度よりもわずかばかり早く自覚する。限界まで蓄積された負債に、覚悟を決める。喉仏が下がる準備を始める。喉が縦に開くのを感じる。ピリっと嫌な痺れにも似た痛みが走る。口内のものが移動を始め、触れる。私は電気ウナギを口に飼っていたのだろうか、バリバリという衝撃を受け、無意識に奥歯を食いしばる。喉にも力が入るのを感じる、首の後ろが強張った。と、気付けば嵐は過ぎ去り、遠雷のごとく微かになったチリチリ感を感じながら、私は奥歯と首の緊張を解いた。
その繰り返しだ。溜まっては飲み込み、食いしばっては解き。行く川の流れは絶えずして、積んだ石を流して行く。私の親は健在だと叫びたくなった。今は夜中の11時42分。まだ常識はあるようで、黙々と布団に入った。どうか、明日には治っていますようにと祈る他なかった。
ライティング練習 @kz369ii
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