宇宙最新の百物語

朝食付き

舟幽霊


 トレロからメリダまで。標準時にして約7日間とちょっと。航路に難しいところはなく、俺のような一人親方の船乗りには安定的な収入を得やすいいいルートだ。

 今回の依頼も貨物の運搬になる。定期的な物資のやり取りは大手だとか企業や星の契約業者がやるものだが、突発的な荷物の配達ってのは小回りが効く零細にも回ってきやすい。

 俺自身が勝ち取ってきた信頼もあるが、安定ルートならそこそこの仕事をもらえている。ありがたいことだ。


 さて、小さな星を飛び出し大いなる銀河の渦巻を望む我々人類。はるか宇宙を行き交うこの時代、星と星の行き来くらいは平気で行われている。古い例えを持ち出すなら、飛行機っていうのが近い。プロペラがくるくる回る珍妙な乗り物と宇宙船を比べるのはあまり良くはないが、それでもそのくらいの感覚に近いということだけわかってくれればいい。


 そんな宇宙の旅人、宇宙船を自在に操る航宙士というのはどんなお仕事なのか。最新の宇宙船を乗り回し、宇宙海賊と切った張ったの大立ち回り。なんてことはない。まあ基本的には航路の決定や調整、突発的なトラブル対処のために搭乗している。はっきり言えば大概のことはAIがあれば事足りるのだ。惑星内の圏内飛行やステーションでの係留あたりは人の経験と操縦が必要だが、航宙時間の多くはAI任せが実情だ。

 まあ、デブリへの対処は人の判断だし、破損した時の修理は人力だ(船外活動用保守ロボットを遠隔操作だが)。ここらではまず見ないが、宇宙海賊なんてのも実際にいたりするから、戦闘も人の両分だな。そんなわけで、航宙士は宇宙船の管制室、通常センターにカンヅメだ。寝る時もアラートで飛び起きるようになっている。強制覚醒寝具の進化は目覚ましい。

 

 ともあれ、センターに一人で過ごすというのは気楽なものである。個人事業主のメリットはここにある。上司がいるとそんなことはできないからな。

 もちろん何もしないでサボっているわけではない。常に船体のステータスモニタを視界に入れているし、航路周辺の突発的なデブリ群の発生がないかレーダーにも目を配っている。1日に3度は航路確認と見直しをしているし、忙しい時はそれなりに忙しいのが航宙士というお仕事だ。


 穏やかな宇宙を計画通りに進んでいく。困ったことは何もない。隙をどう潰すかくらい。いや、実際に暇つぶしというのは航宙士にとって重要なファクターだ。大船団の艦長でさえ暇つぶしには悩まされる。どれだけ外宇宙まで足を伸ばせるようになっても、人間という性質は変わることがない。暇も過ぎると悪さする奴がいる。悪さというか、イタズラというか。暇あればろくでなし、だったかな?なんかそんな格言をライブラリで見た覚えがある。

 俺が聞いた範囲の事例ではあるが、例えば好奇心のままに積み荷の中身を確認してみたり、意味なく急加速減速を繰り返したり、そんな行動をとることがあるらしい。どちらも信用問題に発展するから、万一バレると死ぬほど怒られるし、俺みたいな独り身なら全部の信用をなくす。初めのちょっとしたイタズラが大嵐を巻き起こすこともある。

 

 だから隙を潰すものってのを色々みんな考えるわけだ。

 俺の場合は暇潰しというより、仕事の手間を増やすという方法で乗り切っている。航宙日誌をあえて手書きで打ち込むのだ。今時の船、一般家庭ですらブレインタッチ思考読み取り式入力が主流の中、あえてだ。数秒で終わる報告書を1時間かけてやる。もちろん忙しい時は別だが、意外と目も覚めるし時間も経つ。悪くない時間潰しだと思っている。

 だが今日はそれすらやる必要性を感じないほどの凪だ。だからつい呟いてしまった。

 

「あー、今日はもう何もないな。」


 独り言は癖になるから良くないし、呟いた内容は輪をかけて良くないものだ。

 好事魔多し、えてして問題ないことを口に出すときに限ってトラブルはおきるものだ。

 

 突如としてセンター内にビープ音が響き渡る。けたたましい警告に思わず顔を顰め、AIへ状況を確認する。

 

「どうした? 状況を報告しろ。」


 AIが即時反応を返す。


 "貨物室にて船内エアの減少が確認されました。"

 

「貨物で? 何でまた。いや、良くないな。デブリでも当たったか? シールドはどうなってる?」

 

 "シールド出力は規定値です。船体への衝撃反応も見られないため、デブリによる破損の可能性はわずかです。"

 

「ならなんだって言うんだ。船内カメラを映せ。貨物室で、一番エアが減ってるところだ。」

 

 "了解。メインモニタに映します。"


 すぐにメインのモニタに真っ暗な映像が表示される。非常灯しか光源のない室内の映像は分かりにくい。だが、それでも""が動いているのが確認できた。

 壁際にもぞもぞと、何か揺らぐものがある。

 

「なんだ? 貨物に入り込んだ密航者でもいるのか? まさか荷物が生き物だったってことはないだろうし。」

 

 "貨物室内に生体反応はありません。機械の熱源反応もです。"


「……なら何が動いてるんだ?」

 

 "不明です。貨物室内の明かりをつけますか?"


「このままじゃ何も分からん。このままコソコソされるよりは対象を確認したい。ま、暴れられなきゃいいがな。」


 "了解。明かりを付けます。"


 パッと照明が灯り、映像が白飛びする。すぐに露光が調整され、貨物室内が明瞭に映る。目を凝らし、動いていた何かを見る。一度二度と瞬きをし、無意識に伸びた無精髭をさする。ゾリゾリとした感触が現実を告げる。


「おい、フィクションドラマを映せと言ったつもりはないぞ。」

 

 "心外です。これはリアルタイムの貨物室内映像です。"

 

「じゃ、あれはなんだ? あれが、エアを減少させてる原因だとでもいうのか?」

 

 AIの回答に間が開く。どのような質問にも瞬時に答えを弾き出すこの最新AIも、困ることはあるらしい。まあ無理もないか。大方この船に搭載しているデータベースの隅々まで回答の足しになるものを参照しにでも行ったのだろう。役に立つデータがあるとは思わないが。


 明るくなった貨物室がメインモニタに映っている。壁際にはそこに蠢いていた存在が明瞭に映っている。


 ──


 薄暗い半透明で、肘から先だけが船内に突き出されている。どれだけの数かは分からない。貨物室内の壁に、ポコリポコリと伸びている。無数に伸びる腕は重なり合い、すり抜け合う。かつてフィルムで見た地球の海にいたというイソギンチャクという気持ち悪い生き物を思い出す。だが、あれだってこの映像に映るほどではない。

 集合体恐怖症というのも聞いたことがあるが、まさにそうなりそうだ。壁一面に蠢く人の腕というのは、ここまでおぞましく見えるものか。人の体から伸びている腕からは決して感じることのない薄気味悪さがそこにはある。

 

 さらに言えば、その腕の群れは何かを持っている。棒の先にコップをつけたような道具だ。一本一本の腕がそれぞれ小汚いその道具を持って、空気を掻くような仕草をしている。そして、まるで水を零さないように気をつけているかの如く、慎重に壁へ容器を当てている。そのまま容器は壁を貫通していき、それを追って腕も消えていく。消えた場所には新たな腕が生えてきて、延々とその動きを繰り返している。

 

 自分でも頭がおかしくなったのかと思うが、船内の空気を掻き出しているとしか思えない。事実、腕がそれを振るって壁の向こうに消えるたびにエアの残量が減っていく。

 唖然として口を半開きにしていると、AIがデータベースの海から上がってきたらしい。


 "映像から得られる情報を精査した結果、舟幽霊というフィクションのキャラクターがヒットしました。詳細の説明は必要ですか?"


「……頼む。」

 

 "それでは舟幽霊について説明します。舟幽霊は、地球の日本という国で語られていた幽霊の一種です。海や川で溺死した人々の霊であるとされています。彼らはしばしば船乗りに水を求めたり、船を沈めようとするなどの伝説があります。舟幽霊は、海難事故や水難事故の恐怖を象徴する存在として、古くから語り継がれています。"

 

 AIのもっともらしい解説には笑うしかない。あの腕に対しては確かに、気味の悪さを感じている。何をしでかすのかが分からない、理解を越えたものへの恐ろしさもある。だが、それ以上に馬鹿らしい。

 ここをどこだと思っているんだ? この宇宙で最新鋭をいく技術、その粋を凝らした科学の結晶である宇宙船だ。デジタルもアナログも内包した科学の子だ。そこに旧時代の胡乱な伝説が入り込む余地などない。それをたかだか水に浮かぶ程度のオールドな船と一緒にしてもらっては困る。

 

 そう嘯くものの、事態は悪化していく一方だ。映像に映る腕は際限なく増え続けている。既に貨物室の壁にはびっしりと腕が並び、空いているスペースは一切ない。貨物室の奥から手前へと腕はその範囲を増やし続け、それに伴いエアの減少速度も増し続けていく。

 

「このまま、腕が増え続けたら……、エアはどれくらい持つ?」

 

 "エアは1時間程度でゼロになります。一般的な人体に必要なエア量を基準にした場合、30分が限界です。なお、予備の圧縮エアを開放した場合、ゼロになるまでは20分程度の延長が見込まれます。"

 

 そんな短い時間で駆け込める星やステーションがあるはずがない。まして、何と言って逃げ込めばいいのだ。緊急避難以外でのアポなし入港は基本的に歓迎されない。まして助けてといった理由が、”舟幽霊にエアを抜き取られているんです”なんて言う奴ならなおさらだ。よしんば入港できてもそのまま病院行きが落ちだろう。

 そもそも穏やかで問題のない航路だからこそ、問題が起きた時の避難場所はほとんどないのだ。どうにかして対処するしかない。


「……待て、語られているなら、語るやつが、生き残りがいるってことだよな? そいつらはどうやって舟幽霊とやらを追っ払った?!」

 

 "舟幽霊に遭遇した際の対処法としては、 柄杓で水を渡さないこと、 護符や祈祷など、伝統的な方法で霊を追い払うことが上げられます"

 

「クソがッ! 柄杓なんぞで水を渡すバカがどこにいる! 未開の原住民じゃあるまいし胡散臭い護符なんぞあるわけないだろうが!」


 "その他、柄杓を逆に渡す、穴の開いた柄杓を渡すなどの対処法が考えられます。"

 

「もう持ってんだよ柄杓を奴らはよ! 俺は持ってないのにな! あったとしても2本目を受け取らねぇだろが!」

 

 頭を掻きむしる。船内ステータスを見れば、すでに通路のエアまで減少を始めている。狭い船内だ、じきにセンターまで腕は到達するだろう。

 どれだけ持つかは分からないが、ないよりマシだとスーツ宇宙服を装着する。どうする? どうする? 頭の中は信じがたいトラブルへどう対処するか、それだけがぐるぐると回っている。


 船の中のエアを全て抜いたら、あとはスーツの中だけだ。あの腕が、このスーツの中に溢れかえることを想像すると発狂しそうになる。船から空気を抜き出すほどの柄杓が、俺の体を打ち付けるのか、それとも肉ごとそぎ取っていくのか。頭を振り想像を散らす。

 だが、動いたことで頭に血が回ったのか、先ほど聞き流した言葉がちらついて言葉に出る。

 

「底の抜けた柄杓を渡す?」


 "はい。底が抜けているので水を汲むことができず、最期には諦めて舟幽霊は去っていきます。"


 そうだ、そもそも船を沈めるほどの水を、あんな小さな柄杓一本で汲めるわけがない。だからあんなに大量の腕が現れるのだ。だが、あれほどの数の腕が満足するほどの柄杓など、いかに古臭い旧世代の船だとしても用意してるはずもない。

 

 じっと映像を見つめる。一本一本の腕は全て違う特徴を備えている。若い腕。細い腕。マニキュアされた爪のある腕、ヨボヨボで血管の浮き出たような腕。だというのに、柄杓の見た目は一様だ。古びた木材で出来ていて、黒カビがいたるところについている。汚らしくも、同じ見た目になることはあり得ない。だが、映像ではまるで同じものだ。何一つ違いのない柄杓が空気を掻き出していく。


「まさか、増やしたのか……? 一本の柄杓を? だから穴の開いた柄杓で沈められなくなった……?」

 

 "資料には直接的な記載はありませんが、一本の柄杓を渡すことで沈められた事例が紹介されていることから、一本の柄杓を増やしているのだと推察されます。"

 

「ちょっと黙ってろ!」


 "サイレントモードに移行します。"

 

 一本の柄杓をコピーしていく。それはいい。問題はそれがどれをベースにしているかだ。オリジナルがあって、それをコピーしてるなら出来ることはない。だが、一本が共有されるなら、何とかなるかもしれない。


 考えをまとめようとするその前に、再びビープ音が鳴る。


 "緊急事態としてサイレントモードを解除しています。センターへの通路のエアが除去されました。船内でエアが残るのは、センターのみです。"

 

 何も音はしない。だが、何かが入り込んでくる感覚を確かに捉えた。ゆっくりと、振り向く。センターからの唯一の出入り口、自動扉を見つめる。

 ──初めに柄杓が姿を見せた。突き出すように柄杓が扉から伸び、柄杓を掴む腕が現れる。ああ、何と見慣れた腕だろう。おれの腕が、そこから生えている。

 

 もう考えている時間はない。宇宙服の腰に備え付けられたホルダからブラスター加速粒子弾投射装置を抜く。


 "警告。船内でのブラスター使用は深刻な問題を引き起こす可能性があります"

 

 問題なら既に起きてる。

 ブラスターとスーツの通信は快調で、ブラスターの着弾予想位置が照準としてスーツのヘッドセットに投影されている。狙うは柄杓、その底だ。まだ、底は見えていない。だから待つ。油断をするその時を、底を見せるその時を。俺の腕を模したそれが、柄杓が何もない空中を掻く。いや、エアを掬い取った。


 一瞬見えた柄杓の底目掛けて引き金を引く。


 ブラスターから放たれた白い熱弾が、柄杓を撃ち抜く。極限まで加速された粒子の弾丸は、柄杓などという脆い道具に勢いを削がれることなくセンターの内壁を鋭く穿ちその役目を終えた。

 

 一瞬動きを止めた腕だが、それでも再び空気を掻き出しはじめた。その腕が、柄杓が扉の先、船外へと消えていく。そして次の腕が現れる。2本、3本と現れるたびに数を増していく。その無数の腕が持つのは、──穴の開いた柄杓だ。

 ブラスターの熱弾によって開けられた穴が、次々現れる腕が持つ柄杓にも投影されている。

 

 一本の柄杓が船内に現れては消える腕すべてに行き渡っていく。


「エアの減少は、どうなった?」


 "エア減少は確認できません。船内の気密は保たれています。"

 

「よし、このままモニタリングしろ。減少したらすぐに言え。」


 思いつきだが、どうも何とかなったらしい。古臭いフィクションであってもたまには役に立つことはあるようだ。

 今も腕は延々と現れては柄杓を一搔きして消えていく。どうあがいても無駄な努力を繰り返している。それでも先ほどのように無尽に増えるということはなくなった。むしろ徐々に少なくなっているようにも見える。

 

「腕の数は減ってるか? カメラとセンサの推移はどうだ?」

 

 "カメラによる腕の数は減少傾向にあります。センサでは検出していません。"

 

 センサには映らない? また意味の分からない謎が増えた。が、既に減少しつつあるならば何でもいい。このスーツもさっさと脱ぎたいところだが、まさかということもある。完全に消えるまでは脱がないほうがいいだろう。

 戦闘など度外視だった俺に、必須だからといって押し付けられたブラスターが役に立つとは思わなかったな。


 それから30分ほどして腕は完全に姿を消した。底の抜けた柄杓は分からないくせに、効果がないことだけはわかったらしい。ふざけた話だ。

 

「エアの抜けた区画へ再充填。それと、腕の出てた壁と船体外部についても異常がないかもう一度セルフチェックだ。」


 AIへ調査指示を出した後、深く長いため息をつく。宇宙を無尽に旅するようになった人類。おとぎ話も怪談も、科学と文明が作り上げたこの宇宙船には全く持ってミスマッチだ。

 だが、あの青い星に置いてきたはずのそれらは、ただ眠っているだけだったのかもしれない。今自分が遭遇したように、目を覚ました想像上の怪物どもは宇宙に適応している。

 

 もしも、だとかまさか、なんてもう口に出せやしない。出る。そう考えるべきだ。

 

「タスク設定。着港後、ネットワークへ接続。幽霊や妖怪とか、不思議な話についてデータを収集すること。とくに対策について重点的に。」


 "了解しました。ネットワークへの接続および当該データの収集を行います。"

 

「それと、船幽霊出現までの状況から普段とは違う挙動があるかどうか確認しろ。併せてここまでのカメラとセンサ、エアのモニタ含めて全データを保存、バックアップまで。」


 "了解しました。"

 

 今度こそ俺がこなすべき指示は出し尽くした。緊張が緩んだせいで気が抜けてしまった。少しでも早く日常に戻るべきだ。そのためにはルーチンが有効。とりあえず自身の整理のためにも航海日誌に記録をしようかと思い立つ。バックアップはとるように命じたが、自分でもまとめておきたい。誰かに報告するようなことは起きるとは思えないが、万一後で見直すときにデータだけでは不足だ。

 

 ただ、この一連のトラブルをどう書くべきか。入力デバイスは個人的な趣味で手書きだ。何となしに、表題欄に思いついた言葉を並べる。

 

 『宇宙最新の百物語』


 馬鹿馬鹿しい。何が百物語だ、アホらしい。万一の危険に備えはする。航宙士としては当然だ。だがこの広い宇宙でそんなイレギュラーに遭遇する可能性がどれだけあるというのか。

 

 雑に二重線で文字を消し、文書ファイルごと消去する。そしてそのまま立ち上がる。いい加減スーツは脱いでもいいだろう。少し催してきたし、気を張り続けるのも疲れた。適当にタングスティックでも決めて気分を変えよう。スーツを物入れに戻してセンターを出る。

 

 背後で自動ドアが音もなく閉まっていく。


 

 誰もいなくなったセンターで、モニターがちらつく。ノイズが走り、巻き戻すかのように画面がきりかわっていく。

 映し出されたのは、削除されたはずの航海日誌。タイトルに書かれ、取り消された文字。ノイズが生じて文字を覆い隠し、まるでかき消すように二重取り消し線が薄れていく。残るのは、入力した文字そのもの。


 『宇宙最新の百物語』


 さらに、ジジジと何かが焼き付けられるような音を立て、その下にある記載欄に文字が刻まれる。


 『百物語第一話 舟幽霊』


 そしてふつりと画面が落とされた。あとには静寂だけが、冷たく残る。

 しばし後にセンターの扉が開く。何者かによって復元された航宙日誌に気がつくこともなく、新たな日誌を作成し書き始めている。


 ──それはすでに、人の隣にある。人が想像力をなくさない限り、影のように分かち難くそこにあるものなのだから。

 まだ、人はそれに気がついていないだけ、ただそれだけなのである。

 


 おわり


 

 

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