~セブン~『夢時代』より冒頭抜粋

天川裕司

~セブン~『夢時代』より冒頭抜粋

~セブン~

 陽気な雰囲気(ムード)に気軽に打たれた春の日の事、俺の姿はそれまで通(かよ)ったD大に居り、明るく仄かな〝お天気ムード〟が何処(どこ)とは知れずに喝采され得て、一人の友人・辰巳の脚(あし)など気楽に捕まえ用事を射止めて、彼の話を心豊かに聞いて遣った。俺の思惑(こころ)は大学(ここ)まで来るのに成る程色々経過(とき)を観(み)て来て用心深く、一寸やそっとで自分の心中(こころ)をひけらかさぬ程、未熟な定めに揚々燥いで凡庸に在り、友人から成る幾多の場面をこれまで識(し)り得た生活模様へ薄ら準え覇気など保ち、今日の朝陽が何処(どこ)から来るのか、静かな表情(かお)して期待して居る。大学(そこ)まで辿って自分に纏わる周囲(まわり)を見遣ると、色々豊かな景色など知れ、仄(ほ)んのり浮んだ桜並木は人集(ひとだか)りをして花曇りを観(み)せ、遠くに浮べた人の活気は淡い熱など静かに負い行く自分の界隈(そと)など如何(どう)でも好いほど狂い咲き活き、俺へと対せた現行(いま)の麓へ一つの覚悟を仄(ぼ)んやり放って、自分と景色が同化して行く〝二重の景色〟を飾った様(さま)にて、彼等を観(み)て居た俺の向きには、彼等に出会って話したい、等、静かな覚悟がやんわり固まり自重を呈した。辰巳とは又大学(ここ)で知り合い、一年頃から知己と成り得た若い紳士で明朗でもあり、歳の程度は十(とお)程離れて在るのに、静かに気構え、身構え、自分の調子をはっきり立たせて独歩に呈する自己(おのれ)の労苦は誰にも採れ得ぬ強靭(つよ)さが具わり落ち着く様子で、彼の周囲(まわり)に彼の気質にほとほと懐いた友など在ったが、俺の興味は俺に対して自然に落ち着き、彼が呈する身辺(あたり)の友には御供の体裁(かたち)をくっきり見抜いて馴れる事無く、揚々飛ばした文句(ことば)の穂先は何時(いつ)でも辰巳にほっそり向けられ、俺と辰巳は大学(そこ)に居座る限りを節目に互いに近付き互いの意見(おもい)をほとほとぽとぽと、投げ合う事など努めて行った。煌びやかな陽(ひ)が学舎を構えた前庭辺りをきゃっきゃと歩行して行く女子の頭髪(あたま)を軽く射(しゃ)す頃(とき)、俺と辰巳は頃合い計らう哀れな展(ながれ)を互いに見て取り仄(ぼ)んやり浮き立ち、微笑(わら)って始めた会話(はなし)の当てにと、これまで観(み)て来た髪の形や人間性など、人に就いての身軽の話を独言豊かに開始して行き、そうした会話に辰巳の意見(おもい)は、

「坊主頭は性(しょう)に合わずに退屈であり、はた又緩んだ口元(くち)から健気に流行(なが)れる無能な交響(ひびき)は自分の記憶も疎らにして行く気力が在るから、相対(あいたい)する際、自分の過失へ揚々近付き敵いやしない。坊主頭は俺が憶えた性(しょう)に似合わず、頭の良くない低俗気取った言動(うごき)さえ知れ、俺の思惑(こころ)はこうした奴等を心底嫌って寄り付けないのだ。俺は坊主頭を気取れる奴らがこうした理由(わけ)にて嫌いであった。現行(いま)の俺にもこうした経過はそれほど変らず根付いて在って、坊主頭を赦す事無く俺の熱気は君の前方(まえ)でも俺の目前(まえ)でも全く変らず煌々(きらきら)している。…好く好く解って大目に見てくれ。」

等言う自分勝手を絵図へと仕上げ、それでも〝熱気〟は怯む事無く辰巳(かれ)の身辺(あたり)で首(あたま)を擡げて気丈を振舞う。辰巳(かれ)の活気は熱気を取り添え勝気を勝ち取り、中々倒れぬ未熟の強靭(つよさ)を宙(そら)へと投げ出し幻想(ゆめ)を観ていた。俺と辰巳を程好く離れた学舎の裏手に、喫煙所へ行く何時(いつ)もの男子がちらほら続いて陽気に在った。そうして続いて男子の内(なか)には誰に対する主張を構えぬ坊主頭の醤油顔など、疎らに浮き立ち透って在った。彼等の衣服は白と黒との対照され得る性差の交響(ひびき)が狭い通路で所狭しと大鳴(おおな)り続けて、俺と辰巳を少々射止めて圧倒して行く微弱(よわ)い暴力(ちから)が分別顔する落ち着く男女を我が物とする。薄ら仕上がる花曇りは唯五月晴れほどお堅い空へとすうっと上がって曇りは取れ活き、堂々巡りの初春(はる)の萌芽に自体(おのれ)を呈せる立場を拡げて、俺の目前(まえ)から宙(そら)へ失(き)え行く自然の気運(ならび)に沈黙して居た。何時(いつ)もの調子で辰巳(かれ)の身辺(あたり)に〝沈黙〟拾える初春(はる)等在ったが、俺から観え行く辰巳(かれ)の調子は何分(なにぶん)無いほど両手を拡げて五月晴(そら)を仰げる〝冷静〟なんかが仄々仕上がり無重を擁し、体裁(かたち)と立場を悠々失くした辰巳(かれ)の〝発揮〟は何処(どこ)へ在っても若気に至って完熟する等、俺の脳裏は辰巳(かれ)の仕上げにほとほと独歩(ある)いて瞑想する儘、辰巳(かれ)が退(の)け得るしどろもどろの悪言多言を思惑(こころ)の内にて決着させ行く魅力を晒して気取ってあった。これまで活き得た俺を象る後光(ひかり)の内には、俺から離れた晩春(はる)の芳香(かおり)が揚々豊かに流行(なが)され始めて俺の行く先を想う疲れた果(さ)きなど、束の間呈せる初春(はる)の迷走(はしり)に俺の遣る気は化かされ始め、社会人から東京・関西二つの地区にて、自分の居場所を活き活き求めた過去(むかし)の記憶を自ら掌(て)にして呆(ぼう)っとして行き、自分の周囲(まわり)に学舎の周辺(あたり)に、揚々集える若い活気が各自の芽吹きを謳歌する頃、俺に失くされその身を細めた健気な熱気が哀しく鳴り出し経過を刻み、俺の身内(うち)では如何(どう)する間も無く経過(とき)を重ねる人間(ひと)への定めが情緒豊かに仕上がり始める蛻の表情(かお)などぽろっと零れて地道に固まり、不動の記憶が欠伸をしながら俺を擁して、事々吹くまま初春(はる)の宮中(みやこ)に散漫に在る。年功序列を努々謳えた社交の内では向きに成ったが、若気が謳得る宮中(みやこ)の内では〝土台〟を掴めず散行(さんこう)して居り、俺を熱する熱い木霊は記憶の内から伸びて行くのに、若気を衒った清(すが)しい者には一切通じぬ年齢(とし)の厚みが白壁を成す。完熟して行く辰巳(かれ)の総身は会話をする毎熱気を上げ行き上気して生(ゆ)く分身(みがわり)なんかがふっと失(き)え行く暗(やみ)を見せ付け宙へと翻(かえ)し、学舎の横手に居残る我には〝活気〟の為にと何にも掴めぬ哀れが小躍(おど)って降参して活き、空気(もぬけ)に透った自分の記憶を具体(かたち)を取り添え仕上げて行くのは、現行(いま)へ懐ける脆弱(よわ)い肢体(からだ)に変らないのだ。辰巳(かれ)の立場と自分の立場を置換出来得る新たの場所など隠見(いんけん)しながら、それでも自己(おのれ)の位置など酷く気にして立脚させ行き、若体(じゃくたい)呈する未熟を愛して悶絶して在る。こうした余韻を学舎で執られる講義の内へと固く落して発揮して活き、自体の延びなど成果を掲げて散見しながら、可なり以前(まえ)から結託して居る自然と我との調和の程度(ほど)など〝若さ〟に独歩(ある)ける温(ぬく)みを睨(ね)め付け傍観して居た。孤独の姿勢(すがた)を如何(どう)にも落せぬ自体の不憫を嘆いて在っても、如何(どう)にも想えぬ狭い境地に徘徊して行く一匹孤狼(いっぴきころう)の獣の謳歌がどんどん翻(かえ)って愛撫され活き、経過を隔てる自分の総身にほとほと根付ける哀れな傷など癒して行く内、若気が生育(そだ)てるお堅い〝派閥〟が大団気取って〝一つ〟と成るなど、この俺目掛けて強靭(つよ)い中枢(からだ)が一つの教室(ばしょ)にて出来て行くのが末恐ろしさを巧く掲げて俺の孤踏(ことう)を傍観しつつも朗笑(わら)って在った。ごろりと反転(ころ)んで俺の周囲(まわり)へそれでも集まる知己を見定め安心して活き、自分の表情(かお)など血色豊かに誰にも対せる丈夫な立脚(あし)など揃えて在っても、つい又友への供など、俺の寝床を酷く揺るがす自然の腕力(ちから)に圧倒され行き、自体を打ち行く黒い枷など何にも映らず明朗仄かな気色が生育(そだ)って微笑んでるのに、俺の孤独は孤踏(ことう)に暮れ行く孤高を連れ添い、〝一つの教室(ばしょ)〟にて〝派閥〟の絆を自ら離して〝温(ぬく)み〟を忘れる孤独を手に取る勇気の糧には、どれだけ踏ん張り努力を知っても、結局辿れる企図へ対せず届かずにある。それ故、学舎を望める広い場所でも狭い教室(ばしょ)でも、俺から発する辰巳(かれ)への姿勢(すがた)は立場を忘れず気丈へ有り付き、明朗豊かな表情(かお)など携え、明るい環境(ばしょ)でも明度の具合へ同化するまま自分の調子を明るくして活き、辰巳(かれ)から伝わる会話(はなし)の具合に自念を抑えて彷徨して行き、おべっかなど識(し)り、二人の会話を崩さぬ程度の歩調(ペース)を仕留めて辰巳(かれ)の主張を出来るだけ採り朗笑(わら)って在った。学舎の横にて陽(よう)に巻かれる女子を観ながら涼風(かぜ)に揺らめく頭髪(あたま)を掻きつつ俺も静かに、

「坊主頭は、んー、何か…あんまり頭が良さそうには見えへんかなぁー…」

等言い、辰巳(かれ)の独語(ことば)に妙に対する下らぬ幻想(ゆめ)など仄かに掲げて仄(ぼ)んやりして在り、それを観て居た何時(いつ)しか留(と)まった辰巳のお供は引き金引かれた楽への弓矢を上手に放って場を取り囲み、辰巳(かれ)に対せる俺の元気を喝采するほど細目に見て取り囃して行って、その場の雰囲気(ムード)気楽に落せる身軽の〝一矢〟を観賞して居た。彼等が上げた笑い声には緻密な活気が根付いて在ったが、誰に見得ても揚々呈せる雰囲気作りが事々根付かせられ得て愉快にも在り、可なり大きな笑い声でも、それを気取って嫌悪して行く人の群れには露とも出逢わず整ってもある。俺の心身(からだ)はこれまで独歩(ある)けた独自の経過を記憶を通して覗き見た後、〝彼等〟が呈した経過(とき)の渦へと談笑連れ添い這入って行って、〝彼等〟の陽気を更に活気付け得る諸刃の言(ことば)を用意するうち自力の活歩を〝彼等〟へ沿わせて謳って行った。

「何(なん)か坊主頭を見ると、多分他の事をイメージすんねんな、野球とかまぁ、何らスポーツの類(たぐい)で、勉強するより体使う方を意識させられるから、能力自慢じゃなくて体力自慢になって、頭悪い、ってなんねんやろな」

俺の言(ことば)は文句を気取って、後(あと)から後からどんどん付け足し始める事後の修飾(かざり)に粘着し始め、空気(もぬけ)を飛ぶうち俺から発(た)ち往(ゆ)く総出の意識は、取り留め得ぬ程「表裏(ひょうり)」を定めた自分の独語を解(と)いて行きつつ、裏腹仕立ての安い言(ことば)を巧みに見て取る〝彼等〟の懐(うち)へと放って在った。〝彼等〟から見た俺の姿勢(すがた)は辰巳(かれ)の目前(まえ)での煌びやかさをして充分運べる文句(ことば)の選びに〝緻密〟数えて感嘆して居り、俺から覗ける〝辰巳〟の姿態(すがた)は俺から放(ほう)った文句(ことば)の目数(めかず)にそれ程興味を上手く示さぬ退屈(ひま)な衝動(ふるえ)がやんわり霧立(きりた)ち、恰好(かこい)を付けない妙な分業(ノルマ)を俺と〝彼等〟に仄(ぼ)んやり仕上げた〝辰巳〟の姿勢(すがた)が浮び上がった。辰巳の孤独は孤独ではなく煌びやかであり、無視の出来ない律儀な派閥が俺の周囲と〝彼等〟の周囲へやんわり降り立つ契機を見せつつ散在して在り、俺と辰巳の居座る場所には常に失(き)えない陽(あかり)が灯って陽気を連れ添い、何時(いつ)しか違(たが)えた場所の映りは学舎横から教室へと行き、〝彼等〟を含めた俺と辰巳の気色の内(なか)には切っても切れない人気の陽(ひ)の輪(わ)が光輪(ひかり)を晒して君臨して居た。

 そうした最中(さなか)に俺と辰巳の二人の姿勢(すがた)を静観して居た女子の気配が、呆(ぼう)っとしている後光(ひかり)の内へと紛れ始めて、俺と辰巳は周囲(まわり)に集(つど)った多勢を気にして笑って在ったが、次第に仰け反る空気の余韻(のこり)が狂々(くるくる)廻って語らい出して、辰巳を退(しりぞ)け、俺の姿勢(すがた)が壇の前にて皆へと目立ち、自分を観て在る〝女子〟の姿勢(すがた)を詮索し始め、辰巳(かれ)から程好く離れる無為の孤独を、如何(どう)でも欲しがり〝女子〟へ阿る身分の相異に想いを馳せ行く苦労の途次へと従い出した。〝女子〟の姿態(かたち)は丸々肥え行く独気(オーラ)の自流(ながれ)に我執を込め生(ゆ)く〝新たの光景(ひかり)〟を揚々並べてほっそりして在り、没我を呈さぬ不思議な迷いが〝君の前方(まえ)から退くから…〟と、俺から外れた外界(そと)の雰囲気(オーラ)へぐいぐい根付いて根深(ねぶか)を伝(おし)え、〝思惑(こころ)の白紙〟へ軌道を添え付け苦労をするから、しっくり操(と)れない柔い精神(こころ)が疼いて行く、等、俺の挑戦(ためし)を一つの教室(ばしょ)から外界(そと)へと遣れない〝苦労〟の水面(みなも)を〝自由〟に任せて固く弛ませ、俺の一滴(しずく)は〝彼女〟を憶えて瞑想して居た。彼女の名前は何時(いつ)か何処(どこ)かに落した名であり、俺の心身(からだ)が酷く奮えるD大教授の人渦(じんか)の内から無理矢理引き摺り出したのでもあり、彼女の細(こま)かは彼女の目前(まえ)にて透って佇む白壁(かべ)に象(と)られて複雑さえ観(み)せ、教授の立場を一つ離れた〝准教授〟へと、身元を落して輝いて居た。准教授へ迄その身を低めて俺の前方(まえ)へと並んだ彼女は、〝辰巳〟の引き行く人の山へと静かに辿って総身を落ち着け、嗜み豊かな国語の教師を心豊かに伝(つた)えた四肢(てあし)は耄碌して行く自然の発破を子供の態(てい)して隠した様(さま)にて、俺から離れた辰巳の影には、野退(のっぴ)きならない〝二人の温床(ベッド)〟が臨場豊かにほっそり立ち活き、過去を知り得ぬ淡い家畜は文句(ことば)豊かな固陋の〝刹那〟を上手く独歩(ある)ける夢想(ゆめ)を識(し)るうち眠たくなった。俺の掌(こころ)に仄(ぼ)んやり宿った彼女の態(たい)から、じんわり滲んだ汗の芳香(かおり)は〝盲導豊かな精神(こころ)の古巣〟を上手に着熟す名前であった〝西田房子〟の嘉名(かみょう)を採り得た、上品ながらに気品の鋭い鋭敏豊かな女性を呈する、佳人を想わす孤独の豊かな貴婦人でもある。そんな〝彼女〟を上手く騙せた一つの妙味はそうした〝佳名(かめい)〟に鋭く化(か)え出す青い表情(かお)など垂らせて行って、教室(ここ)へ集まる皆へ対する体裁(かたち)の裾には、苦労の絶えない奇妙の上手が、わんわん吠え生(ゆ)く男女の樞(ひみつ)をひっそり教えて享受して居り、俺に生れた〝新た〟な卑屈は飛び越えられない他人(ひと)の〝白壁(かべ)〟へとすんなり寄り付き藻掻いてあるまま彼女の感覚(いしき)を隅々捉える強靭(つよみ)を仕留めて死太く夢見た。彼女はそれから俺と辰巳(かれ)とが久しく微笑(わら)えた教室(ここ)での気運(はこび)を上手に操(と)る儘、後方(うしろ)へ下がった人塊(かたまり)等見て薄ら笑った機動(うごき)を見て取り横並びに延び、俺と辰巳(かれ)との立ち位置など観て静かに流行(なが)れた〝笑いの匣〟など暫く開(あ)け行く恰好(かたち)を気取って無頼に就いて、〝意味〟の判らぬ妙な仕草へ陶酔しながら人畜無害の犬歯(きば)を剥き出し明朗へと寄る。俺の独気(オーラ)は一度大学(ここ)から自然に流行(なが)れて白光を呼び、心身(からだ)の具合を世間へ置く内、社会に呑まれた妙な輝彩(ひかり)へ自体を逸して傾き始めて、あれ程嫌った〝偏見〟等への荒んだ思惑(こころ)を露わに吟味(あじ)わい我流に乗って、彼女の立ち得る立場迄への一通路(みち)を辿れる可能性(ゆめ)など見付けて揚々羽ばたき、彼女が識(し)り行く人間(ひと)への倣いに自分も準じて〝近付け得る〟など脆(よわ)く呟き努力(つとめ)を表し安堵を見て居た。社会人から拾い上げられ大学(ここ)へと入れた我が身の陰影(うつ)など久しく見るまま順々透った小さな空間(すきま)へその実(み)を滑らせ、うっとり透った他人(ひと)の活力(ちから)を机を並べる〝同期〟の姿勢(すがた)へ念押しするまま体裁(かたち)を従え努め独歩(ある)いては苦心を絶やさず、そうした〝同期(われら)〟と打ち解け得るのが現行(いま)へ流行(なが)れる自分の経験(かて)だと奮迅して活き、「明日(あす)」へ象る学生(いのち)の姿勢(すがた)は、村八分にせぬ身分の相異を心行くまで堪能して醒め愚かな行為を〝自分〟の代物(もの)へと決着するのが〝丈夫なのだ…〟と、俺の過失は彼女を見ずまま向きに捉えた両名を観て、傍観して行く〝白紙〟の母体を〝彼女〟に任せて失態を識(し)る。

 准教授に就く彼女の発声(こえ)には素早く通(とお)った棘の〝いろは〟が肩身を崩さず熱却(ねっきゃく)され行き、初めて透せる俺の体裁(かたち)は皆の目前(まえ)にて両手を挙げ得ず彼女を捕えた空間(すきま)の許容(うち)にて欠伸をするまま授業から出て活き活きする儘、伸び伸びして生(ゆ)く俺の才には不思議な独気(オーラ)が四方(しほう)を彩(と)り行く奇妙を幻想(ゆめ)見て妄想され得る彼女の興味を事細かに立て佳境を知って、

「こいつには未(ま)だ後光(ひかり)が在るな。大丈夫だな。」

とでも彼女の表情(かお)から火の粉の出るほど呟かせて行く初春(はる)の〝延び〟には、姿勢(すがた)を崩さぬ〝鬼神(おに)〟が化け生(ゆ)く不思議の空気を自然に取り入れ流行(なが)され始める夜気(よぎ)の魅惑も荒んで在った。西田房子は微笑(わら)って在った。彼女の体裁(かたち)は朗らで在りつつ、俺との間合いをしっかり取り行く気丈を呈して嘆いて在った。彼女を照らした初春(はる)の後光(ひかり)は俺の背後(うしろ)へこっそり佇み、人渦(じんか)へ呑まれた男女(かれら)の心地の気流へ伏した。如何(どう)して〝彼女の分身(かわり)の我が身〟が廃れ始める俺の体(たい)観てる朗笑(わら)って在るのか、括(てん)で判らず前途は曇り、辰巳と俺とに酷く分れた白紙の岐路には、「明日(あす)」へ華咲く〝豊かな彼女〟がでんと座って動こうとはせず空気(もぬけ)を晒して虚空を惑わす幾多の妄想(ゆめ)など手腕を講じて飾って在った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

~セブン~『夢時代』より冒頭抜粋 天川裕司 @tenkawayuji

現在ギフトを贈ることはできません

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ