第6話 君じゃないけど、君なのです

「わかった、俺が質問する。波瑠がタイムリープしたのは、今からどれくらい経った時期なんだ?」


「あ、えっとね。高校卒業して大学に入る前の春休み。三月かな」


「となると、今から二年後か……波瑠はこの高校に入学して卒業まで過ごしたってことでいいんだよな?」


「うん、そういうことです」


 ここまで俺に対して固執しているってことは、少なくとも知人以上の関係ではあったのだろう。

 ……となると、さっき聞いた波瑠の説明の中で断片的に言っていたワードを掘り下げざるをえない。


「さっき、俺に告白されてフッたって言ってたよな。俺達の関係性について、教えてくれ」


「んー……私達さ、親友だったんだよ」


 波瑠は、少し俯きながら口ごもる。

 あまり言いたくはない内容なのだろう。


 まあ、そのフッた本人に対して"あなたを未来でフリました"なんて説明は確かにしたくはない。普通に気まずいよな。


「それでね、高校の卒業式の日にツバメに告白されたの。でも、私あんまり恋愛とかピンとこなくてさ。お断りしたんだよね」


「それで、俺に距離を置かれたと?」


「そうなのっ! もう、一方的にシャットダウン! 気持ちはわかるけど、あまりにもひどいよっ!?」


 知らんがな。

 なんで、俺が怒られてるんだ。


「落ちつけ。旅に出て轢かれたとか言ってたやつは?」


「なんかツバメ、自分探しの旅だ!とか言って自電車で家を出たんだって。でも、わりと近場でトラックに轢かれちゃったの」


「そして、俺はどうなった?」


「意識不明の重体。もう、本当なにやってんの!?」


「……うん、何やってんだろうな」


 思ってたよりめちゃくちゃダサいムーブかましてるな。何も悪いことしてないのに、申し訳なくなってきた。


「私もヒバリちゃんも、わんわん泣いてさ。それで、私その夜に神様にお願いしたの」


「なんて?」


「もう一度、やり直させて下さいって。そしたらね、気づいたらさっきだった。入学式が終わったホームルームの時間」


 なんか、テンポ感早いな。

 そんなポンっと奇跡なんか起きるものなのか?


 しかし、この話しぶりからは嘘を言っているようには思えないし。なんとなく、今までの波瑠の言動が繋がってきた気もする。


 ……ん? もう一度やり直したい? 

 これは、ひょっとすると。

 ひょっとしなくても、そういうことか? 


「い、一応聞くぞ。やり直したいっていうのは、その……俺への気持ちに気づいて、告白の返事を変えたいとかそういう——」


「わけじゃない」


「だよな、そうだよな。知ってる知ってる。一応聞いただけだから」


 危ねえ。

 また早とちりして、恥ずかしい思いするところだった。いや、若干アウトか。


 波瑠は真っ直ぐな黒髪をクルクルと指で巻きながら、どこか気まずそうにしている。少しの沈黙を置いたあと、俺の眼を真っ直ぐに捉えた。


「ねえ、聞いて。私はね、ツバメのことが嫌な訳じゃないの。多分男性として見れないとか、

友達以上にはなれないとか……そう言ったものでもない気がする。きっと、私の問題なの」


 また波瑠の目が潤んでいる。

 たいぶ抽象的ではあるが、これは本当に心から出た言葉なのだろう。


「きっとすごい傷つけたんだよね、ごめん。私のこと嫌いになっただろうけど……でも、ツバメにはそばにいてほしかった。私にとって、すごく大切な人だから」


「それは、未来の俺に言ってやれよ」


「……そんなの、わかってるよ」


 

 そのまま俯き、波瑠は言葉に詰まってしまった。少し冷たい言い方をしてしまったか。


 ただ、俺は常磐ツバメだが、波瑠が一緒に高校生活を過ごした常磐ツバメではない。事情は理解しても、現実味がなさすぎて気持ちが追いついてこない。


 ……が、今にも泣き出しそうな女の子をこのまま突き放す訳にもいかないか。



「……はぁ。あのな、波瑠。俺はいいヤツではないけど、そんな悪いヤツでもないんだよ」

 

 波瑠は、急に何を言い出したのかと目を丸くしている。


「俺が波瑠と距離を置いたのは、多分時間が欲しかったからだ。気持ちの整理がしたくて、自分探しの旅だとか訳わかんねえことやり出したんだろ。波瑠のことを嫌になったり、憎くなったワケじゃない」


「そう……なのかな」


「だから、そっちの常磐ツバメに代わって言ってやる。こっちこそ沢山傷つけて、ツラい思いさせて悪かった。波瑠は何も悪くない」


 少しクサいことを言ってしまったと、気恥ずかしさで波瑠の顔を見れなかった。


 だから、ボロボロと効果音が聞こえてきそうなほどに波瑠の瞳から涙が流れていることに気づいた時には、既に波瑠の整った顔はグシャグシャに崩れていた。


 多分、波瑠が抱えていたのは罪悪感だ。


 "やり直したい"と言っていた意味が、少しわかった気がした。


「……よかった、ツバメだ。ちゃんと、私の知ってるツバメだ……」


 波瑠は必死に袖で涙を拭い、気合いを入れるように自分の両頬を"パンッ"と叩いた。随分、古典的な切り替え方をするものだ。

 

 そして、自分の中の悪いものを全て出し切ったように、これ以上なくスッキリした顔を俺に向けた。


「よしっ、任せてっ!」


「何がだよ?」


「今度こそ、私がツバメを幸せにしてあげるっ!」


「……は?」


「私が、ツバメに最高の彼女を作ってあげるから!」


 ……どうして、そうなった?

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未来から来た美少女が、俺のバッドエンドをハッピーエンドに変えるまで フー・クロウ @hukurou1453

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