第5話 秘密の暗号


「タイムリープの話な」


「ああ……えっとね。ツバメが告白してきて、フったら旅に出ちゃって轢かれて、悲しいなって泣いてたら、さっきだったの」


「なるほど、全然わからん」


 説明下手すぎるだろ。俺はこの話の全容を理解するまでに何時間費やさければいけないのだろうか。


 ……なんか、面倒臭くなってきたな。

 そもそも、タイムリープなんて到底信じられないし、頭おかしい娘なのかもしれん。


 もう適当にはぐらかして、これ以上関わらない方向に持ってくか。


「えっとね、だからね……」


「わかった、なんかタイムリープして大変なんだな。でも、俺も色々と忙しいんだ。とりあえず、今日のところは解散としよう」


「なにそれっ! そもそも、ツバメ信じてないでしょ!」


「信じるかどうかは、家帰ってゆっくり考えるとするよ。それじゃっ」


「ちょ、ちょっと、待ってよ!」


 少し可哀想な気もするが、よくよく考えてみると俺の方がよっぽど可哀想な目にあっている。


 人間関係というものは、時には潔さも肝心。超絶美少女との関係を切るのは惜しいなどという、よこしまな気持ちに引っ張られてはいけな——


「……常磐ツバメ。父親は単身赴任で、母親と妹の三人暮らし。妹の名前は常磐ヒバリ。ヒバリちゃんは、今は中学二年生かな」


「……は?」


「出身は、北栄中学だったよね。野球部だったらしいけど、高校では続ける気はなし。坊主時代の写真は意地でも見せてくれなかったなあ」


「な!? お、俺の家族や過去を調べ上げて何が目的だ!」


 ヤバいヤバい、本当にヤバい娘だった。

 ストーカーか? いやいや、こんな可愛い娘が俺の熱狂的ストーカーなら逆にハッピーなのか。いやいやいや、落ち着け、、、何考えてるんだ。仮にそうだとしても、普通に怖いだろ。


「だからー、調べたんじゃないって! 私は、知ってるの!」


「タイムリープしてきたからって言いたいのか? そんなこと言われても、簡単に信じられる訳ないだろ」


「……0826」


(ビクッ!!)


 ……なんでだ。なんで、その数字を波瑠が知っている。

 その番号は、誰も知らないはず。というよりも、絶対誰にも知られちゃいけない数字のはずなんだ。


「この数字、わかるよね」


「……なんのことだか」


「ツバメの部屋のクローゼットに、不自然に置いてあるダイヤル式のボックス。その中には、何が入っているでしょうか」


「おまえ……嘘だろ?」


「"巨乳先生の秘密の授業" "隠れFカップのギリギリ密着——」


「や、やめろおおおおお!!!!」


 俺に思春期が訪れ、衝動が目覚めたころから密かに集めている丸秘DVD。しかし、それは誰にも見られてはいけない。


 だからこそ、鍵付きのボックスに入れて保管していたはずなのに。なぜ波瑠がその開封のシークレットナンバーを……というより、中身まで知ってるんだ。


「大丈夫だよ、ツバメ。ツバメだって、一人の健全な男の子だってことだよ!」


「わかったから、やめてくれ」


「あ、あれは私が勝手に開けた訳じゃないからね? ヒバリちゃんが、秘密だよ?って教えてくれたヤツだから」


「そうか。殺すなら、殺せよ。すでに、オーバーキルだけどな」


 ヒバリがね。はいはい。

 あんなに懐いてる妹が、裏では兄の秘境を簡単に踏み荒らす悪魔だったとは思わなかったよ。なんか、もうどうでもよくなってきた。

 何が、タイムリープだ。さっさと、未来へ帰れ。


「……おーい、ツバメー?」


「……」


「……死んじゃった?」


「生きてるよ。心は死んだけどな」


「わ、悪かったって。あまりにもツバメが信じてくれないから……ご、こめんって! その顔やめてっ!」


 俺はどんな顔をしているのだろう。

 絶望というものは、無意識にでもちゃんと表情に現れるのだな。一つ勉強になった。


 波瑠も、とんでもないことをやらかしたのだと気づいたのだろう。慌てふためきながら、必死に謝ってくる。こんなに謝られると、更に何かツラいものが押し寄せてくるな。


 ……にしても、これはさすがに信じざるを得ないか。


「……とりあえず、タイムリープのこともう少し順序だてて教えてくれ」


「信じてくれるの!?」


「一応な……100%って訳ではないが」


「わかった、説明苦手だけど頑張って話す」


 波瑠は本当に話をまとめて伝えるということが苦手なのだろう。唸りながら、必死に頭の中で整理しているようだが中々言葉が出てこない。


 まあ、見ている限り論理型というより感情型だ。猪突猛進ぶりを見ていればわかる。行動に思考能力が追いついていかないタイプだ。


 こっちから、ある程度誘導するか。

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