第4話 始まりの災厄


「ハブられてる二人で固まったら、更に他との交流なんて途絶えるだろ」


「じゃあ、明日のお昼どうするのさっ!?」


「とりあえず、別のクラス行って中学時代の友達と飯食うよ」


 まだ俺は諦めていない。

 そもそも、橋良のは完璧なる自爆だが、俺は爆発に巻き込まれただけだ。このまますんなりと、こんな理不尽な状況を受け入れてたまるか。


 少しずつでも誤解を解いて、俺は平穏な普通の世界で生きていくのだ。


「ひ、ひどいよ、トッキー! 私、別のクラスにも友達いないのに!!」


「知らん。しかも、あだ名呼びしてさり気なく距離感縮めてくるな」


 なんとか明日からを乗り切るために、橋良も必死だ。だが、俺だって自分のことで精一杯だ。

 橋良は相変わらずわんわん喚いているが、俺の完璧なるガードについに黙りこむ。


 そして、何かを考え込んだ後、俺を睨みながら呟いた。


「……泣くから」


「は?」


「今から、トッキーに向かって最低の女たらしっ!って言いながら泣き喚くから!」


「おまえ……悪魔に心を売るつもりか?」


 ダメだ、これ。目がマジだ。

 女性関係で何かやらかしていると思われている俺に対して、それはやっちゃいけない。更に変な誤解が生まれることは間違いない。


「私の涙腺が崩壊するまでの、カウントダウンを始めます。5……4……3……」


「ま、待てっ! 早まるなっ!!」


「2……1……」


「わ、わかった! 一緒に昼飯食おうっ!」


 俺がその言葉を発すると同時に、"ピロンッ"と音が鳴った。気がつくと、橋良は自分の席に置いてあった携帯を手に取り操作をしている。

 そして、その携帯を俺に見せつけるようにしながら画面の再生ボタンを押した。


(わ、わかった! 一緒に昼飯食おうっ!)


 携帯から流れてきたのは俺の声だ。



「言質とったから!」


「……録音してたのか? 普通、そこまでやるか?」


「言質とったから!!!!!」


 うるせえな、聞こえてるよ。

 さっきの表情とは打って変わり、橋良からはご機嫌オーラが溢れている。


 自己紹介のやらかしは青さ故かと思っていたが、思ったよりこの人ヤバい系なのかもしれない。


「ということで、明日からよろしくトッキー! 最高のランチを楽しもう!」


「……そうだな」


「んじゃっ、私、用事あるから帰るねっ!」


「……お気をつけて」


 そのまま橋良はさっさと荷物をまとめ、嵐のように帰って行った。

 

 なんなんだ。今日は厄日なのか?

 晴れやかな高校生活の初日から、なぜこんな目にあっているんだ。


 俺は大きくため息をつき、その始まりの災厄に会うために外階段へと向かった。

 


◇◇◇



「ツバメ、私ね。どうやら、タイムリープしてきたみたいなの」


「そうか。一つ言っておくが、変な壺とかは買う気はないからな」


 もう、なんなんだ。本当に。

 この高校は、ヤバい人しかいないのか?


 橋良とのやり取りを終え、なんともいえない気持ちを抱えたまま外階段への扉を開けると、彼女はすでに待っていた。


 心地良い春風が吹き、綺麗な黒髪を桜の花びらと一緒になびかせる彼女の姿は、一枚の絵画のようだった。

 完璧に見惚れ、これから素敵な恋のドラマが始まるのではないかと錯覚したが、彼女のぶっ飛んだ第一声で現実に引き戻された。


「なにそれ! 私、そんな怪しい人じゃないよ!」


「名前も知らない女子がいきなり現れて、タイムリープしてきましたとか言い出したら充分怪しいだろ……」


「あー、名前かあ。仕方ない、自己紹介から始めるとします」


 コホンッ、とわざとらしく一つ咳払いをし、彼女は何故かドヤ顔で自己紹介を始める。


「私の名前は、早乙女波瑠。クラスは、三組。好きな食べ物は、カリカリの梅。嫌いな食べ物はピーマン。あ、でもね、ピーマンはダメだけどパプリカは食べれるんだよ! 不思議だよねー、あんなに姿形似てるのに味は全然違うの。むしろ、パプリカがあればピーマンの存在する意味とかーー」


 なんか訳わからんこと語り出して、話が脱線し始めた。ピーマンだのパプリカだの、どうでもいい。


 早乙女波瑠……三組ってことは、隣のクラスか。


「ーーそれでね、パプリカって彩りを加える付け合わせ的に扱われているけど、私的には自信を持って主力を張っていってほしいなって」


「わかった、わかった。パプリカはどうでもいい。そんで、早乙女さんはタイムリープをしてきたって?」


「早乙女……さん?」


 俺の返答にしかめっ面を浮かべている。何が引っかかったのか知らんが、全身がむず痒いと言わんばかりに身体をクネクネし始めた。


「ねえ、ツバメ。早乙女さんはやめて」


「いや、早乙女さんなんだろ?」


「違うの、気持ち悪いのっ! 名前で呼んで!」


「……波瑠さん?」


「さんもいらないっ!」


 本当に話が進まないな。

 初対面の女子をいきなり名前呼びするなんて普通に荷が重いが、本人が望むなら仕方がない。


「わかったよ、波瑠。とりあえず、話を進めてくれ」


「話……?」


 ニワトリか、コイツは。

 ステータスを容姿に全振りすると、こういう悲劇が生まれるんだな。

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