第2話『馴れ初めは紅い空の下から』
今日、集まったのは他でもない。ダーコートとキャロラインの娘、エスメラルダの7歳の遅めの誕生会である。
皆で料理を持ち寄り、樫の樹の下に置いたテーブルの上で美味しそうな香りを漂わせている。毎年の恒例行事だが、雨の日が続いたため、開催が遅れてしまった。
皆のグラスにシャトーメデルギウスの白が注がれる。今年もなかなかに良い出来だ。キャロラインは通ぶって光にかざし、色を見ている。本当は分かっていない。
ちなみにエスメラルダには子供用のシャンメリーが注がれた。準備も整い、盛大に。
「エスメル!!7歳の誕生日おめでとうーっ!!」
クラッカーを鳴らし、ステレオからは陽気な音楽が流れている。エスメラルダはこの13人の子供と言ってもいいほど。それほどまでにかけがいのない存在である。
その誕生会で勃発するのが、誰の料理が一番美味いかだ。
「今年は負けねェぞ!!良い鴨肉が手に入ったからな!!」
そう言って出てきたのは、肉屋のマイキーの鴨肉のベリーソースがけ。丁寧に下処理をし、香草を添えて焼き上げた。
「おお…。今日の鴨は一段と美味ですな」
「ソースにもこだわりが見えますぞ」
「何と言っても、皮と肉のハーモニーが素晴らしいですな」
「何だ、お前らその口調」
現にマイキーの鴨は、絶品だ。去年、リストランテのシーガルに負けたのが相当、悔しかったようだ。
その現王者シーガルは、不敵な笑みを浮かべている。
「甘いな、マイキー。料理の真髄をお見せしよう!!」
「おお、これは!!」
鴨。
「畜生!!まさか被るとは思ってなかったぞ!!やられた…」
「今年の優勝はマイキー!!」
「よっしゃあ!!見たか、シーガル!!」
「来年を見てろよ…絶対、勝ってやる!!」
そして、小一時間。ワインも何本か空き、食も進み、幸せな時間が過ぎていった。そして、いよいよメインイベント。
「さあさ、テーブルを空けてくれ!!」
「おおぅ!!おいでなすった!!」
「毎年これが無いと、始まらないもんな!!」
そう。バースデーケーキの登場だ。何と言ってもこれはダーコートのお手製。彼のお菓子作りの腕は、目を見張る。エスメラルダの好きな、貴重な生クリームの2段のフルーツケーキだ。
「はむっ」
「……………」
バースデーソングもそこそこに、エスメラルダがケーキを頬張る。大人たちは緊張の面持ちだ。そして第一声、
「おいしい!!ことしもありがとう、おとーさん!!」
「おおおおおっ!!」
「やった!!」
「流石、ダーキー!!我らのリーダーだぜ!!」
この子のこの言葉が、生きる力を与えてくれる。彼らにとってエスメラルダは正に天使なのだ。
「ねーねー」
「何だい?エスメル?」
「おとーさんとおかーさんはどこで、であったの?」
その言葉に一瞬、固まる一同。そして即座に集合、ミーティングが行われる。これは結構デリケートな問題だ。
(どうする…?この子もそろそろ知る時期じゃないか?)
(だが、内容が内容なだけになぁ…)
(いや、この歴史は若いうちから、知るべきだと思うぜ?)
ダーコートは決意した。これもいい機会かもしれない。
「いいかい、エスメル。お父さんとお母さんはね…」
ダーコートはキャロラインとの馴れ初めを話し始めた。
◇ ◆ ◇ ◇ ◆ ◇ ◇ ◆ ◇ ◇ ◆ ◇
時を遡る事、10年前。国は北と南に分断し、内戦が続いていた。その惨状や痛ましく、日々、激しさを増すばかり。
その先頭に立って戦っていたのが、北のダーコート、南のキャロラインだった。両軍の戦力は、ほぼ互角。どちらかが屈するまで戦争は終わらない。生傷は増え、死体も見慣れたものだ。
…だが、戦場で銃弾を掻い潜り、相対すること数多。二人は妙な顔なじみになった。
「来たわね?ダーコート。今日こそあなたの首、もらい受けるわ!!覚悟なさい!!…ん?」
血気にも似た闘志を燃やすキャロラインに対して、ダーコートは、いつにも増して冷めている。どこか様子がおかしい。あの『悪魔の化身』とまで謳われ、恐れられた、奴が…である。
「キャロライン…虚しいと思わないか?」
「何がよ?」
「こうしている間にも、戦友たちが血を流して、倒れていく。先ほど僕の片腕のニールセンが戦死してね…」
腑抜けた態度に、呆れを通り越して怒りがこみあげて来るキャロライン。それが怒号に変わるまで、時間は要しなかった。
「ふざけないでよ!!あなた達、北が戦争を起こさなければ、そもそも…それに私は、この内戦で両親を亡くしてるのよ!?許すわけにはいかないわ!!命に換えてもあなた達を倒すわ!!」
「何を言う。んん?…そうか、そうだったのか!!」
「はい?」
全ては情報の行き違い。お互いの理解が無かった。北は南が。南は北が、戦争を起こしたと思っている。この情報戦でここまで戦争は悪化した。そして取り仕切るのは、お互いの上層部だ。
「…馬鹿な発言と思ってくれていい。それでもあえて…頼みがある。僕は…軍を退役する」
「はあ!?」
「そして…君の…君の力を貸してくれ。まずは話をしよう」
「僕らは独立するんだ」
…これが最強の傭兵軍団「マキシマム13」結成の第一歩だった。空は血のように紅く、雲は煙よりも黒かった。
『加筆修正』世話焼きのシャトーメデルギウス はた @HAtA99
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