霜柱の朝
星見守灯也
霜柱の朝
冬の朝はあまりに静かで、時が止まっているようだ。
もちろんそんなはずはなく、私は目覚まし時計のアラームを止めて布団の中で足を伸ばす。低い太陽の光がカーテンの隙間から部屋の奥まで入ってきて、私はきゅっと目を閉じてからようやく目を覚ました。
よく晴れた寒い朝。夜から朝の間に晴れると、地面から熱が逃げて大きく冷える。
軽くコーンフレークをお腹に入れると、しぶしぶと着替えて、ダウンコートを着て、冬靴を履いて外に出る。外のドアノブが、指がひっつくほどに冷たい。
こんな日は外に出たくないなあ。
歩いているうちに、手の先や頬、耳が赤くなってくる。冬というのは寒いというより痛い。とくに晴れた日はひりひりと痛くて、乾燥してまぶしいものだ。
停めてある車のガラスは花のような模様に白くなっている。日光がじわじわと溶かしていくと、流れるように花が動いてそれもまたきれいだ。
「よし」
近くの公園、白い針に盛り上がった土があちこちに見えた。
子供たちに踏み荒らされたあとの泥なんて興醒めだ。これはその前に出勤する私の特権と言える。
軽く足をかけるとやや硬く、土を持ち上げてやるぞとの意気込みを感じた。
その意気やよし。踏んでちょっと力を入れると、霜柱はザクッザクッと音をたてて崩れる。
霜柱を踏めるのは、この地域ではこの時期だけだ。もう半月もすれば雪が積もってしまうし、寒すぎて土が凍ってしまってもできないらしい。
誰もいない公園で、子供のように無心で霜柱を踏みつける。
誰も踏んでいないところを見つけ、自分が最初に踏む楽しさ。誰も見つけていない美しいものを最初に壊す、暗い喜びと紙一重の嬉しさだ。
ふふっと微笑みがもれる。泥のついた冬靴に満足し、私は本来の通勤ルートに戻った。
なんだかクランキーチョコが食べたくなったな。コンビニで買って行こうか。
霜柱の朝 星見守灯也 @hoshimi_motoya
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