魔女

麦とお米

 

 あるところに、1人の魔女がいた。魔女と言っても、見た目はただの可憐な少女であり、自身を魔女だなんて1ミリも思っていない。それどころが、純粋が何であるか、邪悪が何であるかなども区別のつかない、徹底的な純心であった。

 少女の日課として、まず朝起きて、白い髪を梳く。長いから、これがやたらと時間がかかる。それからハーブティーを飲みながら、テーブルから真正面に見える壁に飾られた絵画を見た。

 上等な額縁に納められた絵。不思議な絵。リアルに描かれた見事な肖像画である。暗い背景に、少年の姿。光と影のコントラストが上手く表現されている絵。しかし、ただの絵。少年の表情は何故か、とてつもなく恐ろしいものを見たような、そんな顔だった。その表情からは不思議と生命力を感じさせる、本当に見事で、奇妙な絵だ。

 少女は、その絵を見つめる。朗らかな笑顔を浮かべる少女の頬は、ほんのりと赤かった。青空を映しこんだような、純粋無垢な瞳は、満足気に揺れた。

 食器を片付けると、魔法の鍛錬を始めた。魔法といっても、彼女の使える魔法の種類は少ない。だから、来る日も来る日も、魔法の鍛錬。普段住む小屋には、彼女以外いないので、他にやることがない。

 そんな彼女にも、恋人がいる。愛して止まない存在。

 彼には触れることは出来るが、少女は決して彼と話すことはない。かつては話すことは出来ていたが、最近はない。でも少女は寂しいとは少しも思わなかった。

 他人の居ない、人の居ない小屋。彼女以外に居ない小屋。

 そんな場所に住んでいても、魔法の鍛錬をしていればあっという間に夜になっていた。

 子羊のシチューを夕食に食べ、少女は寝ることにした。

  暖炉の火を消して寝室へとつながる戸を開けた。そこで魔女は振り返って、お気に入りの絵画こう言った。



「おやすみなさい。また明日」

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魔女 麦とお米 @mugitookome

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