退屈な車窓の結末
かいまさや
第1話
まばらに立つ人がいるほどの昼下がりの列車からみえる景色は、いびつな構造群の描く地平線の緩やかなみちすじに、架線の束が合わせて反復するのをうつしていた。陽に霞んだ窓辺に腰かけたまま、私は君との昔話を夢みて、目線は変わらずその車窓の結末を待つように、ぼやけた先の方をじっと眺めていた。駅にとまるたび、少しずつヒトは減りゆき、アナウンスメントの声もか細く、終いには無機質な音声が駅名を告げるまでになった。ドアの開閉音が車内に響くと、寒々とした風をとりこんで私の顔や手の体温だけを奪ってゆく。
だんだんと次の駅は遠くなってゆき、腿の背から吐き出される熱風にのぼせて、私は相も変わらずに流れる架線にてきとうな音符をおいて囁き唄う。それはきっと、線路をはしるドラムスにのまれて、君には聴こえないだろう。しかし、その音色は私をなぐさめるように確かに胸の奥でこだましていた。徒然と走る枕石のバチのビートに合わせて、心かまわず左右に揺れる路線。風に吹かれて木の葉が舞い散ると、終に曲想も終局にさしかかって、円盤の回転も最高潮を迎えていた。そして唄の全てを終えると、静けさはより閑散とした車窓を抒情して、私は得も言われぬノスタルジに溺れた。
車内には演目の終わりを告げるように「まもなく、OO駅です」と伝えられた。すり切れた車輪はこれ以上まわることなく、架線柱もぷつりと途切れて、緑々しく聳える山嶺が楽譜に強引な終止記号をおいていた。私が見ず知らずのプラットホームに足を降ろすと、用事の終えたワンマン電車は、たなびく架線を返して、また君のいる町へと動きだすのであった。
退屈な車窓の結末 かいまさや @Name9Ji
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