第5話 俺にしか見えないお知らせ
「んあぇ……」
目が覚めるとそこは見知らぬ天井であった。
……いや、正確に言えば見覚えはあるのだが、そこまで頻繁的に目にしている訳でもないので前述したような表現を用いた。とりあえず、今俺がいるのは自分の家でもなければ迷宮の中でもない────端的に言えば病院であった。
「どうして……」
意識がはっきりと覚醒していき、脳裏には無数の疑問が浮かび上がる。
どうして病院にいるんだとか、あのデカブツが消えた後俺はどうやって地上に戻ってきたのかとか、今俺が寝ているこの異様に柔らかいベットは本当にベットなのかとか、できれば後で看護師さんに結構ガチ目にベットのメーカーを聞いてみようだとか……後半は正直どうでもいいが、とにかく色んな疑問が頭の中を乱舞している。
「オーケー、落ち着け空木普……まずは一つずつしっかりと頭の中を整理しよう」
数多の危険蔓延る迷宮へと挑む探索者はいつ何時、どんな事態に遭遇しようとも冷静にトラブルを対処する
「……これで良し」
満足げに、俺は自分のするべき仕事を成し遂げてベットに再び深く身体を預ける。
……え? なんか想像していたのと違う? もっと理路整然と思考を整理していくのかと思った? おいおい、万年底辺探索者の俺に一体どんな
もうアレだよ、俺をそんじょそこらの探索者と一緒にしてほしくないね。当然、俺みたいな味噌っかす探索者がそんなことできるはずないね、自明の理だね。
……いや、マジで普通に思考が混乱しすぎて意味わからん。一人でうだうだ考えるよりも確実に俺よりも俺の現状を把握しているであろう人間を呼んだ方が解決が早い。
「ゴーレムにズタボロにされながらも、なんとか危機一髪でクエストとやらをクリアしたところまでは覚えているが……」
全く以て俺はどうやってあの謎空間────初心者迷宮から抜け出して、いったいどうしてこんな家に在る寝具よりも上等なベットの上に寝かされているのか……そこまでの経緯がさっぱりわからない。
「はーい、呼びましたか~?」
おっと、そんな事を考えていたら看護師さんが病室に入ってきた。純白の看護服がとっても似合う妙齢の女性だ、やったね、大当たりだね。
「あ、空木さん起きたんですね、おはようございます~。体調の具合はどうですかぁ?」
「あ、はい、大丈夫っす……」
心の内に秘めた喜びとは裏腹に、なんか想像していた展開と違う。こういうのって、こんなほんわかナースコールじゃなくてもっと慌てた様子で病室に入ってくる展開じゃないのん?「あなたは一週間も目御覚まさなかったんですよ」とか言う意識不明パータンじゃないの?
「それじゃあ体温見てみてますねぇ~」
「あ、あの……」
「はい?」
「俺ってどうしてここにいるんですかね?実は全然状況が分かってなくてぇ……」
あとお金もありません。退院後に多額の医療費と入院費を払えと言われても払えないです。
何の違和感も無く体温計を手渡してくる看護師さんに、俺はおっかなびっくり、体温を測りながら尋ねる。すると看護師さんは事務的に答えた。
「あ、それは私じゃなくて探協の職員さんに聞いてくださいねぇ~……ん、体温問題なし。それじゃあ私はこれで」
「は、はーい……」
体温計が計測した数字を見て看護師は満足げに頷くと、そそくさと部屋を後にする。それと入れ替わるようにきっちりとスーツを着込んだ大人が三人ほど部屋に入ってくた。その一人────いかにも仕事ができるバリキャリ系女性を俺は知っていた。
「調子はどうかしら、空木君?」
探索者はその特異な職業の性質上、探索者支援組織────通称「探索者協会」と密に連携を取る為に担当職員が付き、活動のサポートなんかをしてくれる。そうして目の前の艶ややかな黒長髪を後ろで一本に括り、鋭い三白眼が特徴的な妙齢の女性────榊
「お、お疲れ様です、
支援をしてくれる……とは言っても俺のような底辺探索者がその恩恵に預かれることは滅多になく、必要最低限。年金やら税金、保険に迷宮探索で持ち帰った魔石や素材の換金などなどの手続きなんかでお世話になることが殆どである。そして、迷宮から命からがら生還した探索者の面倒を見るのもこの人たちの仕事であり……俺は彼女の登場により全てを察した。
「あの~……もしかしなくても俺がここにいる理由って────」
「私が手配したわ。何処かの誰かさんが久しぶりに初心者迷宮の入口で意識を失ってるって管理棟から連絡が来てね」
「で、ですよね~」
無表情でこちらを見据える榊さんの威圧感は筆舌に尽くし難く、端的に言えば怖い、もうマジでちょー怖い。扉の前で控えている榊さんの部下二人もこちらを見ようとしないくらいには激おこである。
「これでキミが初心者迷宮の攻略に失敗したのは何回目かしらね?」
微塵も動かぬお綺麗なご尊顔で問いかけるその様がさらに恐怖を増長させる。俺はなけなしの勇気を振り絞って惚けた。
「さ、さぁ……?今年に入ってからまだ十回目……とかですかね?」
「キミが迷宮に潜り始めてから今日で三十一回目よ。全く……運がいいのか悪いのか、キミほど探索者に向かない人を私は見たことがないわ」
「いやぁー榊さんにそう言われると照れちゃうなぁ」
「ふざけないでくれるかしら?今私は真面目な話をしているの」
「アッ、ハイ……」
鋭い眼光一つで俺は発言権を失う。当然だね。
「はぁ……いつもの如くボロボロで迷宮前に倒れているのかと思ったら五体満足で全くケガも無く倒れているから意識があるのかと思ったらそんなことはないし。いくら声をかけても意識を取り戻さないからどれだけ心配したと────」
「……え?」
ため息交じりに続いた榊さんの言葉に俺は思わず驚く。
いつも仏頂面で不機嫌で、嫌われているとばかり思っていた榊さんが俺の心配をしてくれていたことに────ではな無く。言われてみれば確かに、俺の身体はゴーレムにズタズタにされた形跡が綺麗さっぱり無くなっていた。
どう考えても病院施設の治療での完治は不可能────それこそ高位の……Aランク相当の治癒術師に大金を払わなければ回復は不可能なほどの負傷具合だった。なのに目が覚めれば何事もなかったかのように元通りで、逆に快調すぎて怪我したこと忘れているくらいだ。
「どうしたの?もしかしてまだ体調が優れない?」
「いや、そういう訳では……」
急に静かになった俺を見て訝しむように榊さんは尋ねてくる。
見た目が怖く、その口調からもキツさが伺えるが実際のところこの人はとても優しい人だと言うことを俺は知っていた。てか、優しくなきゃ一年間も俺みたいな底辺探索者のサポート係なんてしてくれてない。だからこそ、俺はずっと気になってい事を尋ねた。
「あの、急に変なことを言うんですけど……」
「何よ改まって、そんなの今に始まったことじゃないでしょ────何よ?」
「榊さん、俺の目の前にあるこのウィンドウって見えてますか?」
虚空を指さし尋ねる。そうして彼女の返答は果たして、
「いえ、見えてないけど……本当に大丈夫?流石にその冗談は笑えないわよ?」
予想通りであり。しかして俺は目覚めてからずっと目の前に浮かんでその存在を主張しているウィンドウへと視線を戻し、改めてそこに表示された文言を見た。
───────
〈お知らせ!〉
依頼の報酬が届いています。
報酬を受け取りますか?
・報酬(1)
強制成長
・報酬(2)
迷宮配信〈運営〉からの特別支援
※なおこのメッセージは〈
───────
「ッスゥー、そうっすよねぇ……」
そこで俺はとんでもないことに巻き込まれたのだと確信した。
次の更新予定
強制鬼畜縛りな底辺ダンジョン配信者の受難〜銭ゲバ迷宮探索者は一発当ててFIREしたい〜 EAT @syokujikun
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