おれときつねと夏休み日記

@momoyuyu_0821

おれときつねの夏休み日記

ミーンミーンミィーン

身体中から汗が流れてく、真上にいたはずの太陽がオレンジになってもう家に帰ろうとしてる。


「夕焼け小焼けの赤とんぼ〜」

5時のチャイムと共に口遊む、もう帰る時間だ。

帰る準備をする太陽を横目に友達はみんな帰ってしまった。


もっと遊んでたかった一人の子供が帰らず、ポツンと立っていた。


気まぐれに蝶を追いかけ、雑木林に入っていく。蝶は途中で見失ったが木陰にあるものに気がついた。


「なにこれ!きつね?」


---

そこには、きつねの像がありました。でも首がギザギザに折れちゃってたのでタオルでまいて、直してあげました。

直したら、後ろから背が高くてきつねのお面を付けたお兄さんに話しかけられました。

ゆうたってじこしょうかいしました。

日記の書きかたを教えてあげました。


8/23 、太陽の絵を書き、満面な笑顔で顔を上げた。

「これが日記なんだよ!夏休みの宿題!!!」


ゆうたは狐のお兄さんに夏休みの日記というものを見せつけながら書いていた。土の上で。


何があったのかというと、先程の文の通りである。

ゆうたは首の折れた狐の像を見つけた。リュックからタオルを取り出し、首と胴をスカーフのように固定する。

完成した時、背後から影がかかる。

「?」


「坊や」

「わっ!びっくりした!誰?!」

振り向くと狐面をつけた男が立っていた。その男がゆうたに話しかけたのだった。

「おれ、ゆうた!きつねのお面だ!お祭りあるの?」

子供特有というか、なんというか、質問を次々と捲し立てていく。

「、、、」

「俺は、そこの狐の像だった者だ。首を直してくれたからこうやって出てこれたんだよ」

「?」

「、、、ここの人ってこと」

「へー、じゃあいっしょに遊んでよ。ブランコおして!」

ゆうたは公園のほうに走り出す。

狐面のお兄さんは追いかけるように、一歩二歩、雑木林と公園の境目で足を止める。

「、、、」

「どうしたの?ブランコこっちだよ?」

「坊や、俺はそこまでいけないよ」

「なんで?」

「いけないから」

「えーーー!!!なんで?!、嫌なのブランコ?」

「こっちに戻っておいで」

「むっ、うーん、、、わかった。じゃあ日記書く」

「日記?」

「知らないの?日記。見せてあげる!」

そして最初に戻る。


「あのねーあのねー」

日記を書いてる時も書き終わってもゆうたは狐面のお兄さんにずっと話しかける。それをてきとうに狐面のお兄さんが返事をする。

「帰らなくていいのか?」

ゆうたはハッと空を見上げると太陽ももう帰ってしまっている。

「これじゃあ、お母さんに怒られる!」周りを気にせず、ゆうたは小さな足で大地を駆けた。


次の日、ゆうたは自信に満ち溢れたような顔で狐の像の前にまた来た。

木陰に誰も知らなさそうな狐の像と狐面の男、ゆうたからしたらこんなに面白いことはないだろう。

狐面はどうするものかと考えてるとゆうたが口を開く。

「お名前なんていうの?」

狐面は少し考え込んだ後、ゆうたの視線を合わせるようにしゃがむ。

「狐でいい」

「変な名前」

とんだ失礼なことをゆうたは言ったが狐は言葉をグッと抑えた。一応、恩人ではあるから。

いくつの会話を交わし、満足したのか「じゃあね!」とスタコラサッサと走り去っていた。

---

お姉ちゃんがひさしぶりに帰ってきた。いっぱいあそんだ。楽しかった。おねえちゃんは学校の先生をしてて、勉強がとくいなのすごい。

狐面のお兄さんの名前はきつねって言ってた。変なの。また遊びにいこ。

8/24 曇りの絵を描く。


ゆうたはまた次の日、狐の元に走って訪れ、口を開いた。

「きつねはなんでここにいるの?」

「みんなここのこと知ってるの?」

「好きな食べ物はなに?」

「なんで狐面をつけてるの?」

質問攻めだ。狐も暇なので答えることにした。

「悪い人に狐の像に閉じ込められた」

「えっ?!なんで?!」

「俺は、みんなにいいことを教えて幸せにしたんだけど、そこに陰陽師って悪い奴にいじめられて狐の像に閉じ込められたんだよ?!酷くないか?!」

「ひどい!なんでそんなことするの?!」

「本当にひどいよな!」

「でもゆうたが狐の像を直してくれたから出れたんだよ。ありがとう」

狐面が笑顔の表情になったがゆうたはお子ちゃまなので気にも留めなかった。

「ゆうたすごい?」

「すごい」

褒められてゆうたはとても嬉しそうな顔した。

「他は?」

「知らない、肉、おしゃれ」

その後も質問攻めを喰らいながらも雑談をした。本来はめんどくさくなっててきとうにいなすところだったが長い間、封印されて1人だった狐はちゃんと相手をすることにした。


「きつねとおれのひみつきちだね」


秘密基地、子供なら誰でも憧れる言葉だろう。だがここはその気になれば誰でも入れる場所だ。大人の狐は狐面の下で微妙な顔をした。

「ここが秘密基地だぁ?もっと誰もしらない場所、俺しか知らない場所もある」

その言葉を聞き、ゆうたは目を輝かせ「本当に?!どこにあるの?!?!」と食いついた。

「気が向けば教えてやるさ」少し爛れた手でゆうたの頭を撫でる。

---

きつねはすごい、なんでも知ってる。

ずっとずっと昔のことも教えてくれた。気おく力がいいんだって。

きつねがおれのひみつきちよりも、もっとすごいひみつな所があるって!いつ教えてくれるんだろうな。もっと仲良くなったら教えてくれるかな。

昼ごはんと夜ごはんはお父さんのやきそばだった。おいしかった。

8/25 雲の絵を描いた。


次の日もまた来た。狐も愛着が湧いてきた。子供は可愛い、素直で小さくてバカで扱いやすい。ゆうたの場合は純粋に素直で可愛い。

---

今日も狐とあそんだ。暑かった。お水たくさんのんだ。

8/26 ゆうたは晴れの絵を描く。

書くことがなかったんだろう、ものすごいでかい字で書いている。

「雨が降ったら汚れるから石の上で書け」

ゆうたは素直に従い、石の上に日記を置いた。すでに土で少し汚れている。


8/27、28、29、30 近所に住んでいるのかゆうたは毎日、狐に会いにきた。長くいることもいれば、すぐに帰ることもある。どれも楽しい時間だった。


今日はゆうたの夏休み最終日。

ゆうたは今日も会いにきた。

毎度恒例の日記を目の前で書こうとする。「先生もほめてくれるかな」

「先生?」きつねは顔を顰めた。


日記を人に見せるのかってきつねは変なことを言った。夏休みの宿題なんだから見せるに決まってるじゃん。

今日はプリッツをいっしょに食べた。

きつねがだれも知らないひみつきちに連れてってくれるって言ってくれた。でも宿題があるから今日はやめた。きつねは明日の朝行こうって言った。明日は学校だけど早く行って学校にそのまま行けばいいよね。

8/31 太陽と曇りの絵を描く。


今日は雨の日だ。ゆうたは黄色のカッパを着て、いつもの場所に行く。

きつねのきつねのお面が半分こになっていた。左頬が火傷で爛れているが口は嬉しそうに笑顔を浮かべているのが見える。

「行こう!」

手を引かれ、奥へ奥へ奥へ奥へ奥へ奥へ奥へ


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「日記というのはこれでいいのか?太陽がオレンジ色になってもう家に帰ろうとしてる、、、詩と記録も同じようなものだよな。今日の分もこれでよし」


「あぁ、日付をいれるんだったか」

9月1日 雨のち晴れ





夏休みが明け、蝉の声の代わりに子供達の賑やかな声がする。子供達が席に座り、いつもの日常に戻っていくだろう。

窓側の1番後ろ。

ポツンとプリントだけが詰め込まれた空席が一つだけある。





悠太くんはどこに行った。





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