27 大通りを進んで
石畳の道、大通り沿いに構えられた数々の出店。
家を出てしばらく歩き、街道に沿って歩いていくと、城壁が見えてきました。
エイビルムの街並みはいつもと変わらず、行き交う人々で賑わっています。
東側の入り口近くは、冒険者区。
その名の通り冒険者向けの商店が立ち並ぶエリアで、冒険者ギルドもここにあります。
すれ違う人々の中には武器を携帯している人々も多いです。
街の決まりとして、刃のあるものを手に持って出歩いてはいけないというものはありますが、手に持ちさえしなければ大丈夫。もちろん、刃の無いものであれば問題ないので、私のような魔法使いは、そのまま杖を地面に突きながら歩いていてもお咎め無しなのです。
まあ、冒険者区はそのくらいの緩い決まりで成り立っているわけですが。男の子にとっては新鮮な光景かもしれませんね。
「ずいぶん……平和だ」
「少しでもおかしなことをすれば、そいつが武器を振る前に冒険者たちが取り囲んでボコボコにするもの」
「言い方が物騒ですよ師匠」
実際のところはそうでも、言い方というものがあります。
私が思うに、師匠の言葉は事を正しく言い表せていても、男の子にいらない心配を与えてしまうはずです。男の子はといえば、やっぱりかなり驚いた……というよりは恐れ慄くような様子で、バックパックのひもを握りしめていました。
やっぱりいらぬ誤解を与えてしまったようです。
今の彼はまともな武器も持っていませんから、尚更心細いのかもしれません。
そういえば、あのツノイシの一件以来、自分の武器を持っていないわけで。
「あとで新しく武器も買わないといけませんね」
「あら、私ので良ければあげるのに」
「いいえダメです。今回ばかりは私が買って見せるんです!」
ココばかりは譲れません。
冒険者は危険な職業ですから、命を預ける武器は誰にとっても重要なものです。
言ってしまえば、全面の信頼を寄せることになるモノを一緒に選ばないなんて、仲間としてもったいないです。何せ私は、もしも新しく仲間を作れたら、一緒に武器屋を訪れたいとずっと思っていたのですから!
「意気込みはいいけど、あなたこの子に同意はとれたの?」
「え?」
「ほら、とりあえず街に行くとは言っていたけど、この子が冒険者になるかなんて、まだわかっていないんじゃないの?」
「……あ」
そういえばそうでした。
てっきり説明を終えたつもりで、私は男の子とろくに話もできていませんでした。
本来なら、朝食の際に聞いておくつもりだったのに、私が拗ねてしまったせいで、聞けていませんでした。そんな簡単な事にも気づかずに、何を浮かれていたのでしょうか。
「あの、え-っと」
「ああ、大丈夫だ。そこの……師匠? から話は聞いている」
「え?」
「俺に冒険者とやらになってほしいんだろう? 俺はそのつもりでここにいる」
えーっとつまり、どういうことでしょう。
私は一瞬固まって、状況を整理し始めます。
つまりは、私の思惑は最初から師匠にばれていて。
私が寝坊している間に、師匠は話を済ませていて。
男の子は冒険者になることに、最初から同意してくれていると。
じゃあ、さっきまでのやり取りは一体……?
そう思って師匠の顔を見たところで、気づきました。
彼女は目を細めながら口に手を当てて、ニマニマと私を見つめていました。
師匠の口から、破裂音に似た声が漏れました。
「またやってくれまたね師匠!」
「ぷははっ……! あーおもしろ」
「面白くないです!」
この人はもう!
いくら久しぶりに会ったからって、ここ最近師匠はちょっとふざけすぎです!
私だって、限度を過ぎれば怒るんですからね!
ていうか、今まさに怒っています!
「ふふっ、ああ、すまない」
「またあなたまで……」
「いや、ありがとう。不安がどこかに吹き飛んだ」
「あら、ですって。良かったわねカヤちゃん」
「え? ……どういたしまして?」
あ……ひょっとして、今の一連のやり取りって、わざとだったんでしょうか。
男性の緊張を解くために師匠が一芝居打ってくれたのでしょうか。
だとしたら私は気づかずに、強く怒ってしまいました。
「あの、師匠」
「みなまで言わないの。ただの偶然よ」
そう言って平手を見せて静する師匠の顔は、やっぱり優しさに満ちていました。
私が思い至らなかったことまで気を回せるなんて、やっぱり師匠はすごいです。
偶然というのもおそらく嘘でしょう。
この人はきっと、こうして仲間のムードを良くするのが得意なのです。
「さて、そろそろ目的地が見えてきたわよ」
そう言って師匠が指差す道の先には、外壁の白い一軒家がありました。
扉は木製で、誰かが頻繁にでいりしているわけではなさそうです。
私は知らない場所ですが、師匠の知り合いとかがいらっしゃるんでしょうか?
金欠冒険者と用心棒 ビーデシオン @be-deshion
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