第2話 DVされてる悪役令嬢
決闘。それはファンタジーワールドには欠かせないテンプレ。だいたい葛藤を抱えたならば殴り合って解決させればいい。なんて楽なんだろう。
「出しゃばり女め!お前の親に変わってしつけなおしてやる!」
「ならわたしはあなたを陛下に変わってきょういくしてあげましょう!」
王太子、オーギュスト・ロワールくぅんと我等が主人公ヒロイン、レメディオス・レチェはイイ感じに煽り合っている。そして互いに剣を召喚して睨みあう。ここで介入する?大怪我しそうだから嫌だね。だから僕はそーっととある人物の傍に近寄る。
「大丈夫ですか?これどうぞ」
僕は王太子の近くでぺたんと女の子座りしていたご令嬢に声をかけハンカチを渡す。その子の唇の端から血が少し流れていた。
「…わたくしなどにそんなことをしてもあなたのためにはなりませんことよ」
ご令嬢はツンとした態度だった。だけど瞳は涙で濡れているし、声は震えている。この子はさっき王太子に頬を張られたのだ。なおこの子はいわゆる王太子の婚約者の悪役令嬢さまです。でもDVされてるらしい。かなちいなぁ。
「でもあなたのお綺麗な顔に血は似合いませんよ」
実際に悪役令嬢ちゃんは美人さんだ。銀髪に緑色の瞳で顔立ちは凛としてとても美しい。
僕は優しく彼女の頬の血を拭う。
「わたくしにやさしくなんて…しないで…」
悪役令嬢ちゃんは俯く。だけど僕の行為を拒否はしなかった。それどころか僕の手に彼女の手を重ねてくる。きっと苦しいのだろう。だから他人の温もりに縋ろうとしている。まあこれでいい。悪役令嬢ちゃんはしばらくして立ち上がる。
「わたくしの名はラウハ・ラムサ。あなたは?」
「ボクはハーロウ・ライアン」
「そう。何かありましたらわたくしに頼ってくださいまし。これでも大公家の娘です。多少は助けになりましょう」
そう言ってラウハは背を向けて去っていった。そして気がついたら、王太子が膝をついていた。
「この俺が女に負けるとはな。お前、おもしれーな。名前は?」
いやさっき名乗ってたやんけ。頭鳥ガラスープかよ。
「わたしはレメディオス・レチェ!いずれ勇者になる女よ!」
お前も名乗り返さんでええわ。どうしようもないなこいつら。そして決闘は終わって、二人はなんか和解したらしい。いやいやラウハにごめんなさいしよう?もともと血統の原因はラウハを殴ったことに主人公が切れたことでしょ?なに二人でいい空気してるの?結局主人公様は王太子をぶっ飛ばしてざまぁ出来ればいいし、王太子はおもしれー女と出会って退屈が凌げればいいのだろう。この世はオワコンである。
そして入学式が終わった。禿げ散らかった種付けおじさんみたいな校長の無駄に面白い話が癪に障った式だった。そしてオリエンテーションが始まる。
「お前と俺は同じクラスのようだな」
「そうみたいね。これからはよろしくね殿下様」
「様も殿下もいらねー。俺のことはオーギュストでかまわない」
なんかラブコメしてる二人を無視して僕のクラスを確認する。どうせと思ったけどやっぱり主人公たちといっしょだった。そしてクラスルームに向かう。
「へぇあれが王太子と決闘した女の子?」
「へぇ民なのに魔法が使えるらしいぞ」
「へぇすげぇじゃん」
「へぇおもしれー女!」
攻略対象のイケメンヒーローたちがニチャニチャと主人公に熱い視線を送っている。そして彼らのそれぞれの婚約者たちが白けた目でそれを見ていた。
「あら。あなたもこのクラスなのですね」
ラウハが声をかけてきた。頬はもう治っていた。きっと魔法で治したのだろう。
「はい。これからよろしくお願いいたしますね」
「うふふ。ええ。よろしくてよ」
ラウハは優し気に笑った。とても綺麗だった。
「全員席につけ。オリエンテーションをはじめる」
無駄にイケボなぼさぼさ頭でぐるぐる眼鏡の教師が入ってきた。この人は二週目以降で攻略できるキャラです。眼鏡とると当然イケメン。しかしこの世界顔面偏差値が高い。でも僕と並ぶ程度ってあたりに自分自身の非凡さがわかってちょっとナーバスになる。僕は首のチョーカーを弄る。喉をかくして女装を完璧にする効果があるがやっぱり落ち着きにかける。早く帰ってスカートを脱ぎたい。そう思った。
いや?そもそも僕ってどこに帰ればいいんだ?
放課後になった。帰る場所がわからない。すごく困った。あのくそみたいな神気取りの謎存在はアフターケアが雑過ぎる。というかマジで身分証の偽造くらいしかやってないのでは?
「どうしよう…歌舞伎町みたいなところあるかな?」
あそこなら途上で寝てても誰も叱ってくることはないのだが。この中世っぽい感じの世界でそういう治安の良さを期待はできないだろう。
「どうかしましたか?」
僕が校門の前で唸っていたからだろう。ラウハが声をかけてきた。彼女は馬車に乗っていた。
「え?あ、そのー。今日泊るところがなくて…」
「王都に別邸がないのですか?あなたも貴族でしょう?」
「えー。貧乏貴族です」
僕自身がどういう設定を持っているのかよくわからない。だから適当に誤魔化す。するとラウハはにこりとして。
「では今日はわたくしの別邸に泊まりませんか?」
「え?いいんですか?」
「ええ。よろしくてよ」
とんとんと泊まれる場所ができた。助かる。僕はラウハのお世話になることにし、彼女の馬車に乗り込んだ。
そして悲劇は起きる。僕がお風呂に入っていた時。
「わたくしも入りますわ。この入浴剤、肩こりによく聞きましてよ」
えれふぁんと!
どんぺり!
せっかく血を拭いたのに。
ベットの赤いシミは誰のため?
そして僕たちは朝に一緒にモーニングコーヒーを飲んだのだった…。
乙女ゲーの世界に男の娘として転生してしまったのだが、ヒロインと百合にならないとラスボスを倒せないらしい。詰んでる。オワタ。もう遅い! 園業公起 @muteki_succubus
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