第4話 不幸を払拭する時

玉城弥代は...俺と同級生だが。

俺の兄貴分と思っていた人間だった。

だけど両親が忙しない感じの人達で少し後にバイトを辞めて県外に行く。

筈だったと思う。


「にしてもかったるいなぁ。須山はそう思わね?」

「そうだな。だけどバイトしない事にはお金が手に入らんしな」

「そうだなぁ」


大欠伸をしながら玉城弥代は店内の清掃をする。

俺はその姿を見ながら苦笑しつつ店内の商品の検品をする。

そして玉城は手を回した。

それからこう言う。


「バイトをしたら何か栄誉か何か手に入るかと思ってやっているけどさ。何も手に入らん。手に入ったのはお前と言う仲の良い人間だったな」

「栄誉じゃないか?...働いている事自体がさ」

「そうかぁ?何か恋も無く青春時代を無駄にしている気分だよ」

「ははは」


俺は苦笑いをしながら検品をしていく。

正直...1年後コイツが俺をどう思っているのか気になる。

その為にも死ぬ訳にはいかない。

そう思いながら俺は玉城を見ていると窓の外にタマが居るのに気が付いた。


「すまん。玉城。ちょっと席外すわ」

「うん?...いやバイト中だろ。外すって?」

「すぐ戻る」

「あぁ...?」


そして俺は外に出てから外を見た角度を見る。

そこにタマが居た。

タマは俺を見上げながら「やあ。こんばんわ」と言ってくる。

俺はしゃがんでからタマを見る。


「...タマ。1年後の世界ではアイツはどうなっているんだ。...玉城は」

「ほうほう。そういう所に目がいくんだね。...実の所、玉城くんはかなり悲しんでいたよ。...1年後の世界ではね」

「...」

「逮捕もされていたよ。...それは君を思って暴行してね」

「...逮捕って...やはり誰もが不幸になるんだな」

「全てはあの女だよね。...君は決めたかい。復讐するかどうか」

「決めたけど...だけどあの女の証拠が集まらない」

「そうだねぇ。その点は僕にはどうにも出来ないね。僕にある力は見通すだけだ」


タマは手を舐める。

そんなタマを見ながら俺は「...」となる。

それからタマに向く。

すると背後から玉城の声がした。


「何をしているんだ?...ああ。猫が居たのか」

「そうだな。...タマっていう猫だ」

「そうなんだな。...おすわりしていて賢いじゃないか」

「玉城は猫は好きなのか」

「白い猫は好きだな。...だけど動物も可哀想だよな。車に轢かれたりするから」


玉城は苦笑いを浮かべながら猫を見下ろす。

俺はその姿を見ながらタマを見る。

タマは「にゃー」と言っていた。

そういえば俺達の声って...コイツに聞こえるのか?


『大丈夫だ。...聞こえはしないよ』

「!?」


俺は驚きながらタマを見る。

タマは顔を撫でながら玉城の撫でているのに気持ち良さそうな顔をする。

その姿を見ながら俺は心の中で応答する。


『タマはこんな事も出来るんだな』

『まあ長時間の交信は神様でも無理だけどね。...それで話の続きだけど僕の能力はあくまで以心伝心、過去に帰るだけだ。...それ以外は専門外でね。...あとは君に任せるんだけどね』

『...そうなんだな』

『そういう事』


それからタマは俺を見上げる。

玉城はそれを知らないまま撫でまくる。

「コイツ大人しいな」と言いながら、だ。

タマは「うにゃん」と言いながら撫でられまくる。

すると背後から声がした。


「オイ〜サボっちゃダメだよぉ〜」


という感じの男性ながらも乙女な店長の声が、だ。

俺達は「「ヤッベ」」と声を合わせる。

それから「じゃあな」と玉城はタマに声をかけて戻って行く。

その姿を見送ってから俺はタマを見る。


タマは尻尾を動かしながら俺を見据えている。

そして「じゃあまた明日かな」と言いながらタマは尻尾を振りながらそのまま踵を返して俺を見てからまた言葉を発する。


「バイト頑張ってね」

「...ああ。お前も仕事頑張ってな」

「前も言ったけど僕の仕事はもう終わってるよ。...これから変えるのは君達の力だね。...力量が試されるよ」

「...ああ」


そしてタマはそのままその場から立ち去った。

それから俺はその姿を見送ってから店内に入る。

そうしてからバイトをしてから帰宅した。



家に帰って来ると「おかえり」と声がして母さんが顔を見せた。

須山薫(すやまかおる)。

40代の若々しい感じの母親だ。

結構若くに俺を産んでいる。


「母さん。ただいま」

「お帰りなさい。...ご飯を食べる?」

「いや。先ずは風呂に入って来る」


母さんは笑みを浮かべてから「そう」と言ってからそのまま俺の頬を触る。

それから「今日も帰って来てくれて有難う」と言う。

これは母親の口癖だった。


それを...裏切る事になる。

それが本当に心が痛かった。

全てあの女のせいで、だ。


「そういえばさっき塔子ちゃんが来ていたわ」

「...どういう用事でだ?」

「お菓子を届けに来ました」ってね」

「...そう」


俺は静かにその言葉を受け取る。

正直...毒でも入っているのではなかろうか。

そんな事を言ってしまえば全てを疑わなくてはならないが...。

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幼馴染に嵌められ車に撥ねられて交通事故死した俺が幼馴染に裏切られる1年前にタイムリープした アキノリ@pokkey11.1 @tanakasaburou

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