第4話「締め切りの夜」
編集部は夜遅くまで明かりが灯っていた。女子教育の記事の締め切りは明日の朝刊。デスクの上には、取材メモが散らばっている。
「高橋さん、この記事の構成はどう思います?」
春彦が差し出した原稿に、私は目を通した。彼の文章は流麗で、取材した女性教師の言葉を巧みに引用している。しかし、何か足りない。
「これに、生徒さんたちの声も入れてみては?」
「生徒の声...なるほど」
春彦が顔を輝かせる。「でも、もう取材は...」
「私が行ってきます!」
夜の街を駆け抜けた。寄宿舎に住む生徒たちは、まだ起きているはずだ。門番には内緒で、さっきの裏門から...。
「誰かいますか?」
「まあ、記者さん!」
寄宿舎の窓から、何人もの女学生が顔を覗かせた。彼女たちは率直に将来の夢を語ってくれた。医者になりたい子、教師を目指す子、家業を継ぎたい子...。
編集部に戻ると、春彦が待っていた。
「こんな遅くまでありがとう」
「いえ、私も記者ですから」
二人で急いで記事を書き上げる。時計の針は午前2時を指していた。
「完成です!」
安堵の吐息をつく私たちの間に、不思議な空気が流れる。月明かりに照らされた彼の横顔が、妙に艶めかしく見えた。
「あの、高橋さん...」
「はい?」
「記事が通ったら、お茶でも...」
その時、外で物音がした。驚いて振り向くと、同僚の記者が慌てた様子で飛び込んでくる。
「大変です!市内で大規模な火事が!」
春彦が立ち上がる。「行ってきます!」
「私も!」
「でも...」
「記者は時に冒険が必要なんでしょう?」
私のその言葉に、春彦は思わず吹き出した。「参りましたね」
二人で火事現場に向かう道すがら、春彦がポツリと言う。
「お茶の件は、また今度...」
「はい。約束ですよ」
その言葉を交わした瞬間、私の視界がぼやけ始めた。
「え...?」
「高橋さん?」
春彦の声が遠ざかっていく。世界が再び霞み、現代への帰還が始まっていた。
最後に見た彼の困惑した表情が、妙に切なかった。そして気がつけば、私は自分の部屋で、手紙を握りしめていた。
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『君と出会った時代の約束』 ~タイムスリップ、イケメン、そして運命の恋文~ ソコニ @mi33x
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