第3話「明治の記者たち」
東京女子師範学校の取材は、思いのほか難航していた。
「女子教育の記事ですか?ここは淑女の育成を目指す場です。新聞記者の取材など...」
校門で門前払いを食らい、私は溜め息をついた。しかし、隣にいた春彦は諦める様子もない。
「高橋さん、裏門から行ってみませんか」
「え?それって...」
「潜入取材です」春彦がウインクする。「新聞記者の仕事は、時に冒険を必要とするものです」
その言葉に背中を押され、私たちは学校の裏手に回った。生徒たちの様子を覗き見ていると、中から声が聞こえてきた。
「あら、記者さん?」
振り返ると、若い女性教師が立っていた。意外にも彼女は協力的で、現代の感覚からすれば当たり前の「女子教育の必要性」を熱心に語ってくれた。
「素晴らしい!これは大きな記事になりますね」
春彦の目が輝いている。彼の熱意は、現代の加藤春樹とそっくりだ。ただ、この時代ならではの真摯さが、どこか魅力的に映る。
「高橋さんも感想を」
「はい!私も...」
話し始めた瞬間、足を踏み外した。古い木の階段が崩れかけていたのだ。
「危ない!」
咄嗟に春彦が私の手を掴んだ。その拍子に、彼の胸に抱きとめられる形になる。
「大丈夫ですか?」
「は、はい...」
近すぎる距離に、私の心臓が早鐘を打つ。彼の腕の中で、時が止まったように感じた。
そんな私たちを見て、女性教師が微笑んだ。「まあ、お似合いですこと」
「いえ、これは...!」
慌てて離れる私たちに、彼女は意味ありげな視線を送る。「若い記者さん同士、素敵ですわ」
真っ赤になった私の横で、春彦も珍しく言葉に詰まっていた。しかし、その表情は嫌そうには見えない。
帰り道、夕焼けに照らされた街並みを歩きながら、春彦が呟いた。
「面白い取材になりましたね」
「はい...」
途中、彼の手が何度か私の方に伸びかけては引っ込むのが見えた。その仕草が妙に愛らしくて、私は思わず微笑んでしまう。
明治の空の下で、私は確かに恋をしていた。でも、これは祖母の恋なのか、それとも私自身の恋なのか—。答えは、まだ見えない。
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