第2話「最初の手紙」



夕暮れ時、幼なじみたちが帰った後、私は再び手紙を手に取った。一番古い封筒には、明治36年の日付が記されている。


「開けてみても、いいのかな...」


封を切る手が震える。黄ばんだ便箋には、流れるような美しい文字で物語が綴られていた。


『新聞記者として生きると決めた日、私は人生で最も大切な約束をした—』


その言葉を読んだ瞬間、部屋の景色が霞み始めた。まるで古い写真が現像される時のように、世界が徐々にセピア色に染まっていく。


「え...何が...」


目を開けると、そこは見知らぬ街並みだった。軒を連ねる商家、人力車の音、着物姿の人々。色褪せた写真でしか見たことのない明治時代の東京が、目の前に広がっていた。


「お嬢さん、大丈夫ですか?」


声をかけてきたのは、先ほど会ったばかりの加藤春樹とそっくりな青年だった。ただし、着ているのは記者らしい洋装。名刺には「東京日日新聞 記者 加藤春彦」とある。


「私は...あの...」


「新人記者の高橋さんですよね?今日から配属と聞いていました」


混乱する私を気遣うように、加藤春彦は優しく微笑んだ。その笑顔は、現代の春樹のものと寸分違わない。


「ああ、そうです...」


とりあえず相づちを打つと、彼は嬉しそうに言った。「では、さっそく取材に参りましょう。今日は女子教育に関する記事です」


私は自分の服装に目を落とした。いつの間にか、明治時代の女性記者らしい洋装に着替わっていた。


「これって夢?でも...」


手の中の手紙は、しっかりと実在していた。そして不思議なことに、この状況が少しずつ自然に感じられてきた。まるで、元からここにいたかのように。


「高橋さん、参りましょうか」


春彦の声に、私は深く頷いた。どういうわけか、これから始まる取材に胸が高鳴っている。そう、まるで運命に導かれるように。


夕暮れの街並みを歩きながら、私は思った。この体験は間違いなく現実だ。そして、きっと祖母の手紙には、もっと深い意味が込められているはずだと。

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