第4話 妻、湯ぎりを知る
息子が小学校にあがる前のこと。
令和の小学校ではこんな通知がくる。
「男の子は立ってトイレが出来るように訓練してください。女の子はトイレの水を流すように伝えてください(小学校のトイレは自動で流れません)」
まさに時代を感じさせる通知に、私は感心してしまった。
そして、ありがたいことに保育園ではすでに立ってトイレをする訓練をしてくれていた。
だが、問題があった。
息子、パンツ替えすぎ問題である。
それは保育園の時だけでなく、家のトイレでも発生した。
家のトイレでは座ってするように言っているので、立ってトイレする保育園とちがって失敗することはないはずなのに……。
何故だろうと考えていると、トイレから不機嫌顔の息子がパンツ片手に出てきた。
「どした?」
「ついた気がする」
「ついちゃった? 汚れちゃったの?」
「うーん……。そうかもしれない」
ふわふわな回答に首をかしげつつ、私はパンツを確認する。綺麗だ。洗いたてのごとく綺麗だ。
だが息子は不機嫌そうに新しいパンツに履き替えている。
一体どうしたことか。
そうは言っても男の子のトイレ事情はさっぱりわからないので、夫のケイさんに相談してみることにした。
「わかった」
ケイさんは一つうなずくと、息子と一緒にトイレに入っていった。
やはり男しかわからないトイレ事情があるのだ!
私には理解してあげられなかったことが、ケイさんなら「わかった」の一言で理解できるのだ!
パパ、すごい!
耳をすませていると、トイレの中からケイさんの声が細々と聞こえてきた。
「……そうそう……」
「そしたら……」
「そう……」
「チョンチョンチョン」
チョンチョンチョン?
「ちゃんとできたよ」
晴れ晴れとした表情のケイさんと、やはりむっつりした表情の息子がトイレから出てきた。
「後学のために教えて欲しいのだけれど——」
私はこっそりケイさんをキッチンに呼び寄せ尋ねた。
「どうやって男の子はトイレするの? チョンチョンチョンってなに?」
「え……だから——」
説明しよう!
読者諸君は、ラーメンの湯切りをしたことがあるだろうか?
ラーメン屋のおっちゃんが、ゆでた麺を細長いザルにい入れ、上下に「エイッ! エイッ!」と揺らして水分を落とす作業のことだ。
それが、ここでいう「チョンチョンチョン」である。(ラーメンは比喩なので許して欲しい)
「え……」
真相を知った私は絶句した。
「そ、そんなんで(湯)きれるの?」
「(水分)きれる、きれる」
「ペーパーでふかないの?」
「ふかないよ。必要ないし」
なんというSDGS!
だが、私はいまいち納得出来なかった。パンツ汚れたかもとむっつり顔の息子の気持ちが、痛いほど理解出来た。
「で、でもさ、汚くない?」
「汚くないよ!」
「だって、チョンチョンチョンだよ?」
「チョンチョンチョンで、きれるんだって」
「そうは言っても、ちょっとくらいついちゃったってことはあるんじゃないんですか〜?」
「それが、ないですね〜」
「男の人みんなそう?」
「みんなそう」
雷に打たれたようとは、まさに今の私のことだった。衝撃のあまり、口をパクパクさせた。
なっ——。
なんと言うことでしょう!
男の人はみんな湯切りのプロです。達人であり、熟練の職人です。
息子よ、君はまだ湯切り見習いだったのだ。
達人めざして、がんばりたまえ! 母からは以上だ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます