第5話
「セレス聞いてくれ!僕たちの婚約をいよいよ貴族の者たちに見せてやることにした!婚約式典の日程が決まったんだ!」
「うれしいです!これで正式に私たちは夫婦となるのですね!」
カサルの発した言葉を聞いて、セレスは心からうれしそうな表情を浮かべて見せる。
この日の訪れを彼女は心待ちにしていたのだろう。
「あとは貴族たちに話を通すだけだ。貴族会に意見を聞くのは形だけのものだから、もう決まったも同然だろう。セレス、これで正真正銘君はこの僕の妻だ♪」
「ありがとうございますカサル様!!私、これまで生きてきてこんなにうれしかったことはありません!!」
2人はそろってこの上なく爽快な表情を浮かべると、その勢いのままに互いの体を重ねて抱き合った。
するとその時、王宮におけるカサルの臣下であるトリトスが血相を変えて二人の部屋まで現れ、合図もなく部屋の中に押し入った。
「大変ですカサル様!!!大変な事が起こりました!!」
「なんだトリトス無礼だぞ。きちんとノックをしてから入らないか」
「それどころではないのですカサル様!!こちらをご覧ください!!」
「あぁ?」
トリトスの言動に対してまだまだ何か言いたげな様子のカサルではあったが、一旦湧き出る思いを胸の中にしまい込み、差し出された一枚の紙を手に取る。
そして渋々といった様子でその内容に目を通していくが、そこに書かれていた文言を見て途端にその表情を驚愕の色で染める。
「な、なんだこれは!!」
「っ?!!??!」
突然に大きな声を出したカサルにつられる形で、セレスはその体を大きく震わせる。
そしてその後すぐに彼女もまたカサルの持つ紙の内容に視線を移し、その文章を読み上げる。
「な、なんですか…。『貴族会は公爵様指揮の元、王宮におけるマリア様追放とそれに伴うセレス様との新しき婚約関係を、受け入れないことと決定した』…は、はぁ??」
カサルに負けず劣らずの驚きの表情を見せるセレス。
それもそのはず、これまでこのようなことは一度たりとも起こったことはない。
第一王子が自らの婚約者として貴族に紹介を行ったなら、貴族会はその婚約を受け入れるというのが半ば暗黙の了解であったためだ。
…しかしそれが今回、始めて破られた。
「な、なんだこれは…。どうしてこんなことに…」
「カ、カサル様!これでは私たちはどうなるのですか!?」
「ル、ルールによれば…。貴族会からの賛同を得られない婚約は公的には認められない…。ただの内縁の妻という事になる…」
「な、内縁の妻!?私が!?」
あくまで第一王子夫人の格式にこだわっているセレスに、そんな立場が受け入れられようはずもない。
彼女はこれまでに見せたことのないような大きな声でカサルにくい掛かり始める。
「約束と違うではないですかカサル様!!私の事を一番に愛してくださっているのでしょう!!真実の愛で結ばれているとまで言ってくださったでしょう!なのにどうしてこんなことになってしまうのですか!信じられません!」
「ま、待ってくれセレス!僕が君の事を真実の愛をもって愛しているのは本当の事だ!君だってそれをずっと受け入れ続けてきてくれたじゃないか!なのにこんな小さなことくらいでそんなに怒らないでくれ!」
「小さなこと??どこがですか!!」
セレスはカサルに対する口調を次第にヒートアップさせていく。
一度ブレーキがきかなくなったなら、言わずにはいられない性格なのだろう。
「カサル様、本当に私の事を愛してくださっているのなら私の事を正式な婚約者にしてください!!そうでないと私はカサル様の事を信じることが出来ません!」
「ちょ、ちょっと待ってくれセレス、前までと言っている事が違っているじゃないか!前まではたとえ何を失うことになっても、僕さえいてくれたら幸せだと言ってくれたじゃないか!たとえ内縁の妻の状態で婚約が結ばれることになっても、僕と一緒にいられるのならそれで満足だということなんじゃないのか??」
「いい加減にしてくださいカサル様!!」
いよいよ限界を迎えてしまったのか、セレスはそれまでで一番大きな声を上げてカサルに噛みつく。
「どんな手を使ってでも、貴族たちに私たちの関係を認めさせてください!!私はもういろんな人たちに自慢して回っているんです!!カサル様の正式な婚約者に慣れたって!なのにここまで来てそれが実現されずに終わってしまったら、私ただの勘違い女になってしまうじゃないですか!!そんなの絶対に嫌です!!」
「じ、自慢して回ってただって!?だ、黙っていてくれって言ってたはずだぞ!!この秘密が漏れてしまったら貴族から反発される可能性があるから、正式に決定を出すまでは二人だけの秘密にしてくれと…!!」
「そんなもの関係ありません!私にとってはカサル様と婚約できるかどうかがすべてなのです!!」
「関係ないわけないだろう!!セレス、君はまさか僕の知らないところでそんな勝手な事を…!!!」
…一枚の紙がもたらした二人の思いのわだかまり。
一度生じた亀裂は、それ以降二度と元に戻ることはなかった。
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幼馴染との真実の愛の前に目覚めたから、婚約者はもう用済みらしいです 大舟 @Daisen0926
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