第4話

――貴族会の会話――


王宮内部の者たちが恐れていた通り、すでにカサル第一王子がマリアとの関係を一方的に破棄したらしいという話が広まっていきつつあった。


「侯爵様、お聞きになられましたか??マリア様が婚約破棄されてしまったとのことですが…」

「あぁ…。なんでもその理由はカサル様の浮気が原因だという話じゃないか…。こんな横暴が許されていいものなのか?」

「マリア様は本当に真摯になってカサル様の事を支えようと尽力されていた方です…。我々としては、このまま黙っているわけにはいかないと思うのですが…」


貴族会の中でも、カサルに対する不信感は募っていきつつあった。

もともとカサルは自分のために周りを犠牲にすることを気にしない性格であったために、当初から貴族との関係はあまり良いものではなかった。

そこにきてのこの大スキャンダル、当然好意的に受け入れられようはずもない。


「このままではこの国はますますカサル様の独壇場になっていき、誰も逆らえなくなっていくだけではありませんか?」

「あぁ…。今こそ名だたる貴族たちを結集し、反旗を翻す時かもしれんな…。よし、この事を公爵様と伯爵様に伝えてきてくれ。…もしかしたらもうすでにご存じかもしれないが、お考えを改めて頂戴しなければならない」

「承知しました」

「…これはもしかしたら、この国の形勢が大きく変わることとなるかもしれないな…」


それは、貴族会のとある一室で行われていた会話。

二人の人間のみが会話に参加する最低限の話し合いの場と言えるものであるが、同じ時に違う部屋でも似た内容の会話が繰り広げられていた。


――――


「もう我慢ならない…!カサル様の自分勝手な政治にはもう付き合ってられない!」

「ですね…。まさかここまで好き勝手な振る舞いをされるとは…」

「カサル様はマリア様との婚約を祝う式典の場で、彼女の事を王国一番の幸せ者にすると宣言したばかりではないか。だからこそ我々貴族は二人の婚約を心から祝い、素晴らしい式典だったと感動したのだ。だというのにどうしてこんなことが出来るのか…」

「マリア様のお心を考えれば、やるせないです…。これは貴族会が立ち上がるべき事態ではありませんか?このまま終わってしまっては救いがなさすぎます」

「…それで、カサル様が浮気をしたという相手は誰か分かったのか?これほどリスクを負ってまで関係を築こうとする相手なのだから、それはそれは大きな影響力を持つ相手なのだろうな?」

「それがですね…。詳しい事はまだ分かっていませんが、どうやら旧知の中であるごく普通の女性だそうです…。特に大きな肩書や背景を背負うわけでもない、ただただ流れのままに築き上げた関係であるとの噂が…」

「……」


その相手が幼馴染であるセレスだという事までは知られていない様子だが、それに近しい存在であるというところまでは噂が回ってしまっていた。

しかし、カサル本人はまだその事を誰にも口外してはいない。

ゆえにここまで噂話が広まっていくきっかけを作ってしまった人物は…。


「カサル様の新しい婚約者である女性は、なにやら自分の事を周囲に自慢して回っているらしいです。自分こそが新しい第一王子夫人であると…。そして、間抜けなマリアの事を追放させてやったのも自分だと…」

「……」


…あまりに軽率な行動といえるその話を聞き、貴族たちは呆れかえる。


「我々はまだそれが誰であるかまではつかんでいないが…。その話を聞く限り、ろくな人物ではないという事だけは確かな様子だな…。まるで自分が略奪婚をしたことを自分の戦果だとでも言いたげなその雰囲気…。まともな性格をしている女ではないという事はよくわかる」

「しかもどうやら、婚約破棄にまで誘導したのもその女性であるとのうわさがあります。聞き入れるカサル様もカサル様ですが、この二人にはきちんと行いにふさわしい罰を受けてもらわないと割にあいませんね」

「あぁ、そのために貴族会を招集したんだ。侯爵様や伯爵様が力を貸してくださったなら、間違いなく今の勢力図は覆る。非は全て王宮の側にあるのだから、我々が非難されるいわれはない。カサル様は第一王子としてやってはならないことをやってしまったのだ。その点はきちんと理解してもらわなければならない」


公爵や伯爵は貴族会の中でもトップクラスの影響力を持っており、特に公爵の鶴の一声は若き第一王子のそれを上回るものとも言われている。

だからこそカサルは公爵に反撃されることを恐れ、周囲に対してはセレスの事を黙っていたのだが、その点を理解していなかったセレスが自分の自慢を周囲にひけらかし、話を大きくさせていってしまっていたのだった。

…その行いがこの後に、すべて自分の元に跳ね返ってくることになろうなどとは、思ってもおらず…。

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