第二章 尚食局の役立たず 3

 結局はうまく春蘭が宇晴をなだめてくれたおかげで、茶碗の件は内密にしてもらえることになった。


「まったくー、本来許されないことなんだからな! 茶碗を割ったところを他の女官に見つかってしまったら、ただじゃすまないんだからな! 今度から気をつけろよな!」


「も、もうわかったからその話はやめろ」


 私は内心「はぁ、叱られながら食事するとか気が重~っ!」とうんざりしつつ、ご飯をもぐもぐする。今日の夕餉は大好物の魚の煮つけに、甘みがあってトロトロの豆の粥。せっかくのおいしい飯が、これじゃ台無しだ。


 すると、隣に座って一緒に食事をとっている、同僚の琳琳りんりんという女官が言った。


「宇晴、新人さんを教育するのは大事なことだと思うけど、ちょっと思月に厳しすぎるんじゃないのぉ? この前だって大声で怒鳴っていたし、今日だって昼間失敗した話を、夕餉の時間にまで引きずるだなんてさー」


「そんな、琳琳……! 私はなにも特別に思月に厳しくしているわけじゃない! こいつは失敗をしすぎるし、そのくせ全然反省もしていないから……」


「今度から気をつけるよね? ねーっ?」


 琳琳という、まだ子供のような顔立ちをした小柄な女官は私のほうへ振り向き、高い声でそう言った。


「う、うん。気をつける……」


 とりあえずブンブン、と顔を縦に振る。

 すると琳琳はわざわざ私の頭をなでなでしながら言った。


「ほらあ。思月はちゃんと気をつけるってよぉ」


「な、なんでお前はそんなに思月を庇うんだよ」


 宇晴は気に食わなそうにしているが、琳琳はかまわず続けた。


「思月は黙っていれば美人さんなのに、抜けてるし不器用だし、まるで子供みたいだよねぇ。まあそこが思月の良さなのかもしれないけど」


「そ、そうか??」


 抜けてて、不器用で、子供みたい?

 一体それのどこがいいのかわからない……。


 首をかしげる私の顔を、琳琳は嬉しそうに見つめ、そんな私を、宇晴が不満げに睨みつけ。

 そして春蘭は、心なしか不安そうな顔をしているようにも、見えた。



 夕餉を済ませ、あたりが暗くなってくると、私たちは布団に入る。


 尚食局の女官たちは皆この屋敷に住んでおり、一部屋に数人ずつ、住む部屋を割り当てられている。

 この部屋には私と春蘭、そして宇晴と琳琳の四人が割り当てられ、暮らしている。


 布団に入り、うとうとし始めた頃、いつものように琳琳が後宮内の下世話なうわさ話を始めた。


「ねえ、やっぱり隣の部屋に住んでいる瑠璃るり奏瑶そうようは二輪草よ」


「またその話か?」


 苦笑しながら相槌をうつ。

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2024年12月17日 20:00
2024年12月18日 20:00
2024年12月19日 20:00

化け猫と女官は恋をした ~後宮に咲く百合の花~ 猫田パナ @nekotapana

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