第2話
「夢で見ただけで、本気で自分が死ぬと思ってるの…?」
かすみの言葉に、木藤は目を丸くして問いかける。
その木藤の言葉にかすみは眉をひそめながら言った。
「馬鹿にしてるんですか?私の事を一番分かってるのは、私自身なんですよ」
先程までの口調とは打って変わって強気になり、怒りが混じっているのが分かる。
かすみの不思議そうに辺りを見渡していた丸い目も、今では憎いものを見るかのような鋭い目つきに変わってしまった。
しかしその時の木藤には、かすみの瞳よりも、かすみの言葉に意識を奪われていた。
「先生?」
次に意識を取り戻したのはかすみの声がけだった。
はっ、としたように顔を上げると、そこには不安そうな顔をしたかすみがいた。
「あっ…ごめん。」
「急にどうしたんですか。ボーッとして」
先程まで鋭い目つきで自分を見てきた生徒が、次は自分を心配するように覗き込んでくる。
木藤はやっぱ高校生って分からないな、と再確認したのだった。
そうして、自分の思いを口にした。
「君は、自分の事は自分自身がよく分かってると思ってるんだね」
目の前で組んだ自分の手に目線を向けたまま木藤は呟いた。
その時、木藤自身はかすみがどんな顔をしていたのか分からない。
けれど何となく「こいつ何言ってんの?」と言う顔だろうとかすみの言葉から予想ができた。
「は…当たり前じゃん。他でもない自分自身なんだから」
その言葉が、木藤には遠く感じる思いがあった。
また暫く沈黙が続く。
しかし今回、先に沈黙を終わらせたのはかすみだった。
「先生は…自分自身の事、分からないんですか?」
その言葉に一瞬木藤が揺れた。
そのままゆっくりと顔を上げると、そこには同情するような、哀れみを向ける表情をしたかすみがいた。
そんな彼女を見て、木藤は納得したように立ち上がる。
本当は自己紹介の詳細を聞くために呼び出したが、木藤はもうそんなことどうでも良くなっていた。
「もう話は終わりにしよう。呼び出して悪かった。」
その時、くるりと体の向きを変えドアへ向かう木藤を止めたのは他でもないかすみだった。
「先生、明日時間ありますか?少し話をさせてほしい」
余裕がある、という訳でもないが余裕がないという訳でもなかったため、一度考えて木藤は一言「分かった」と言い残し部屋を後にした。
江戸川で死ぬ! ココノツ @kikonotu999
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